F-3 グループディスカッションのステップ
大学生式話し合いから課題解決の議論へ
-
名著の教えから導く就活の本質
前回は、なぜグルディスを行うのか、について説明しました。問いの定義から始まるグルディスのプロセスは、仕事のプロセスと類似しており、それゆえに成果を生み出すための素養があるか、を見る審査である、と説明しました。今回は、前回の理解を踏まえ、具体的な方法論について説明します。
グルディスが選考プロセスにある場合、よく見かけるグルディスが、意見を一人一人順番に出し合うというものです。最終的には民主的に多数決で決めるチームが多く見受けられます。これは学生までの間の友達との話し合いや研究会の話し合いなどでよくみられる方法です。この方法に慣れているということと、その人にとっての議論がみんな意見を出し合って決まらなければ多数決で決めるもの、という理解だからでしょう。あなたも大学のサークルやゼミなどで、友人と何かを決めるために話し合いを行ったが、全く進まず、全く決まらず、話し合いが止まってしまった経験はありませんか。
このいわゆる「大学生式話し合い」
は、そもそも議論ではありません。議論と呼ぶには極めて非生産的な方法と言わざるを得ません。議論ではないし、生産的でないゆえ、グループディスカッションの選考において、決して合格することはできません。これは断言できます。なぜ、大学生式話し合いではだめなのでしょうか。
そのために、そもそもディスカッションとは何かを確認しましょう。
F-1にて、そもそもディスカッションとは、「課題を解決するための方策を論じ合うこと」であり、その目的は「チームの知恵を結集して最適な解決策を導き出すこと」と説明しました。
チーム員それぞれには、個性があり、得意な分野や苦手な分野があります。それぞれの知恵や知見をうまく活用して、良いところを引き出しながら融合して作り上げていくものでした。
これに対し、大学生式話し合いは、実は真逆の行為をしています。ある問に対して、なんとなくそれぞれが考えた意見を出し合い、多数決で決定するという行為は、一つの意見以外を排除するということ
です。みんなの知恵を結集するのではなく、一番いい人の意見を採用するということです。多数決は民主的に見えて、みんなの知恵を結集させることとは真逆で他の全ての意見をつぶす行為です。
そのような知恵の結集とは真逆の大学生式話し合いになってしまう原因は、意見の全体及び一部について、良否や適否を判断する基準がないためです。
判断基準がないため、誰も判断をできず、結局多数決で無理やり決めることしかできません。そして、単なる意見の出し合いであり、思い付きのアイデアをぶつけて並べるだけなので、再現性がありません。
本来的には、議論の理想は、多数決など取ることもなく、全員がよい方策と納得でき、かつ再現性があることです。
上記から、大学生式話し合いではなく、理想的な議論を行うためには、適否や良否を判断する基準があればよいということになります。
では、判断基準を持つためにはどうすればよいのでしょうか。適否や良否の判断基準が明らかになり、再現性が確保される議論にするためには何が大切なのでしょうか。
その答えは、議論の正しいプロセスを理解することです。
正しい議論のプロセスは、議論の枠組みを設定し、枠組み内の各要素を検討して枠組みを深化させ、真の問を設定し、真の問をもとに評価基準を設定し、そのあとに初めてアイデア出しを行う
、というものです。
議論の枠組みの設定とは、問を定義し、ゴール、範囲、ステップなどを設定すること
です。枠組みの深化とは、枠組み内の各要素を分解し、各要素をさらに具体的に検討すること
です。
それらを行うと、最初の問が具体化され、目的、範囲、期間などが明確になった真の課題
となります。
真の課題が設定されれば、そこから評価基準を設定し、具体的なアイデアの議論に入り、ソリューションにまとめるというプロセスになります。
※マウスオーバーで拡大
ここで極めて重要なのは、真の課題を設定するまでの前半のプロセスです。ここが、ソリューションの正否の8割くらいを握っているといっても過言ではありません。
つまり、正しい議論とは、真の課題を設定することであり、「正しいグループディカッションとは、与えられた問を真の問に定義するあるいは言い換えること」といってもよいのです。真の課題さえ設定できれば、後のプロセスは自然と進捗します。
例えば、日本の少子化対策を考えよう、という最初の問いに対して、枠組みの設定と要素検討を行った結果、「日本政府として、2030年までに出生率を1.5%にもっていくために、少子化対策として最も効果的で注力すべき対象と思われる、日本の政令指定都市に居住する20代の子供1人を持つ家庭が、もう一人子供をもつために、子供をつくるにあたっての金銭面の障壁をなくすにはどのような政策を行うべきか検討する」といった真の課題になります。
こうなれば、議論の目的、目標、範囲、対象、が全て明確になるため、評価基準が設定できるようになります。評価基準が設定できれば、アイデア全体や一部の良し悪しを判断することができます。
そして、この議論のプロセスは、前回、業務のプロセスと同じだから選考プロセスに採用されていると説明した通り、実際の業務のプロセスも、背景現状を整理し、課題を洗い出し、課題を解決するための考え方を設定し、その考え方をもとに具体的なソリューションを検討するという内容であり、まさに同じステップです。
正しい議論の方法を行えば、真の問が設定でき、真の問が設定できるがゆえに、それをもとに評価基準も簡単に設定できます。したがって、その後の各自のアイデアを出す段階において、アイデアや意見の全体及び一部の適否や良否を評価でき、良い部分を反映・結集させることができます。
正しい議論のステップを理解すれば、友人との議論も生産的なものになりますし、業務の際に必要な考え方も身に付きますし、グルディスの選考も怖くはありません。
グルディスには、①抽象的課題、②具体的課題、③資料活用型課題、の3種あります。
①は例に挙げた日本の少子化対策について、などです。
②は、例えば特定企業の特定商品の売り上げを伸ばすには、などです。
③はさらに具体化され、データが提示されるものです。
このいずれにおいても、本質は同じなので、議論のステップは、上記で説明した通り、背景と現状の把握=議論の枠組みの設定と構成要素の分解・検討、からスタートします。
今回は、グルディスの正しい進め方について説明しました。
次回は、今回説明した各ステップについて、事例を使いながら細かく説明します。
今回のポイント
1.正しい議論とは真の課題を設定することであり、正しいグループディカッションとは与えられた問を真の問に定義するあるいは言い換えること
2.正しい議論のプロセスは、議論の枠組みを設定し、枠組み内の各要素を検討して枠組みを深化させ、真の問を設定し、真の問をもとに評価基準を設定し、そのあとに初めてアイデア出しを行う、というものです
-
基盤とした名著
命題とはある存在するものについて分離または結合されていることを論理的に規定するものです。そして命題を構成する主語と述語の区別、判断の種別、対象や変形について考察されています。
演繹的な論理思考を体系化した名著中の名著。
グループディスカッションを、ステップ・役割の観点で構成要素に分解し検討する方法論の基盤としました。