H-1 OB訪問とは何か
フォロワーとの仮説検証の場、リーダーとの人生相談の場
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名著の教えから導く就活の本質
あなたは、もうすでにOB訪問をしましたか。あるいは、OB訪問をする予定はありますか。OB訪問をした人も、する予定の人も、する予定がない人も、OB訪問とは何かを理解し、それを自分の就活にうまく活用できれば大変有意義なものとなるでしょう。その為、OB訪問について、読み飛ばすことなく、内容をしっかり理解して頂きたいです。
さて、ではOB訪問とはなんでしょうか。何のために行うのでしょうか。
一般的には、細かい情報を取得するために、サークルの先輩などの近しい先輩に話を聞きに行きますよね。一日どんな働き方をしているか、先輩の就活の経験を聞く、あたりが一般的な内容です。したがって、「OB訪問とは情報収集の一環である」が一般的な定義
だと思います。
しかし、その情報は、本当に役に立つのでしょうか。その人の働き方が分かったところで、その部署に配属されない限りは、意味がないと思いませんか。また、その人の就活の体験を聞いたところで、あなたとは別の人間であり、意味がないと思いませんか。
実は、OB訪問を一般的な定義である情報収集の場として捉えてしまうと無益に終わってしまう
可能性が高いです。それはなぜでしょうか。
第一の原因は、細かい情報に意味がないことです。
細かい情報を得ても、進路決定に影響を及ぼさないでしょう。それは、その人のその立場でのみ通ずる個別的な情報
だからです。仮に同じ会社に入れたとしても、その社員と同じ部署の同じ課に配属されない限りは、働き方などを聞いても意味がないでしょう。
また、運よく、素晴らしい社員の方に出会って志望度が上がる場合もありますが、その場合でも、たまたま素晴らしい社員に出会っただけであり、その人がその企業で特殊なのか、普通なのか、あなたが実際に入社して何年か経たない限りわかりません。会った人が良かった企業の志望度を上げるというのも、実は根拠のない非合理的な選択なのです。このようにOB訪問を、情報収集としてとらえると失敗する可能性が高いです。
結局進路選択は、マイストーリーとの整合で確認する必要があります。
第二の原因は、OB訪問をオープンな情報収集の場としてとらえてしまうと、それが有意義にならないという構造的な問題
があることです。
実際に行われるOB訪問を考えてみると、そのほとんどは、自分の知り合い伝手で1-3年目くらいの最若手に会うことになります。そのため、ほとんどは自分自身の働き方や業務についてのみしか理解が及んでいない相手に対するものとなっています。それゆえに、学生に会うにあたって、多くの若手社員は、自社の代表として会っているという意識すらなく、自社や業界の現状への理解、未来への理解が伴っておらず、そればかりか違う部署のことは知らないなどと平気で言ってしまう社員が多いです。さらに、自社の中期経営計画すら頭に入っていない社員も多いです。
そのような構造となる原因は、どんな組織にも2:8の法則
が成立するからです。働きアリの法則などを聞いた事があるかもしれませんが、2割のリーダーがビジョンや方向性を描き判断を行い、残りの8割の人は単についていくフォロワーになるという構造があるからです。この割合は、学生にとっては、サークルやゼミに当てはめてみれば、なんとなくしっくりくると思います。社会人の方にとっても、感覚的にもしっくりくると思いますし、論理的にも理解できると思います。
そして、リーダー層は、当然経験を積んだ40-50代が中心であり、20代の若手でその域に到達する社員は極めてまれです。一方で、学生がOB訪問をする相手は、20代の若手社員であるため、構造的によほど運がよくない限りリーダーに出会えないものになっているのです。したがって、フォロワーの中でも経験が浅く、見解を持っていない若手社員より、経験のある中堅社員に訪問する方が有意義な成果が得られるかもしれません。
では次に、中堅社員に訪問するといっても、どのようにOB訪問を活用すれば有益になるのでしょうか。
その答えは、OB訪問を「仮説検証の場」として活用すること
です。
見解を問うようなオープンクエスチョンではなく、論点を絞ったクローズドクエスチョンを行う
ことによってOB訪問を有益にする方法です。就活の場合のクローズドクエスチョンは、自分の仮説の検証
です。
これまで構築してきたマイストーリーや企業研究やターゲティングを確認し、さらに発展させるために「仮説検証」を行うことが、有効である可能性が高いです。自分が立てたマイストーリーと、それにより絞り込んだ企業研究を経て、マイストーリーを企業向けに表現を整えるスコーピングを行ったあとに、自分のターゲティングは有効か、自分の企業研究による理解は正しいか、を確認することで、それぞれがブラッシュアップされ、マイストーリーが構築されます。さらに、ESや面接のストーリ―の段階でも、再度確認しておくとより効果は増すでしょう。
ちなみに、よくあるもう一つのOB訪問の目的として、同業界内での違いに関する志望動機を確認あるいは聞きに行く目的があります。ここまでステップを踏んできたあなたなら、業界内比較が完了しており、業界内での違いも明確に理解できていると思います。
だとすれば、業界内の比較の仮説を確認することが有効です。
したがって、OB訪問を情報収集の場と捉えるのではなく、仮説検証の場としてとらえ、クローズドクエスチョンで相手を活用するという考え方が必要です。
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一方で、そもそも本来あるべきOB訪問は人生相談の場である
と考えてます。
人生の先輩として、その学生がどのようなマイストーリーを構築していけばよいかの相談にのること。あるいは、その会社の社員を代表し、その会社を薄く志望している学生に対して、どんなマイストーリーなのか、どんな企業研究なのか、どんなターゲティングなのか、を理解してあげたうえで、本当の志望先として自社や業界が適切かどうか、適切なら内定獲得のために、今後どうしていけばよいか、を相談に乗るべきです。その流れの中で、自社や業界の現在や未来について語っていく必要もあります。
残念ながら、そのような人の人生を左右するような深く見識に富んだアドバイス
をできる社員はOB訪問ではほとんど出会えません。
仮説検証を行う前提でOB訪問を行いながら、運よくどんな質問にも大局観・見識・学識を持って見解を提示してくれる稀有なリーダーに出会ったのなら、その瞬間に人生相談に切り替えるべきです。自分のマイストーリーを語り、違和感はないか、など、マイストーリーの中身や判断基準について語るべきです。逆にフォロワ―が出てくる場合は、企業研究による当該企業の理解やターゲティングの適切さ、ターゲティングストーリーの検証を行うことにとどめるべきでしょう。
今回のポイント
1. OB訪問を、情報収拾の一環として考えると、失敗してしまう場合が多い
2. OB訪問は、仮説検証の場として捉えるべきである
3. リーダーと出会ったならば、人生相談をすべきである
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基盤とした名著
アドラーの思想は、過去の原因ではなく未来の目的を重視し、人間は自分自身の力で人生を意味づけ変えていくことができるという、ポジティブな人間観に貫かれています。
自分が人生の意味付けを決めて変えていくことができるからこそ、人生の方向を決める就活において、その意味付けを考える必要があることを示唆してくれます。
アドラーが示唆する視点でOB訪問の意味や価値は何なのか、どう意義付ければ有効かを考察しました。