E-3 良いエントリーシートとは何か
問いを活用して自分のストーリーを伝えること
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名著の教えから導く就活の本質
前回まで、ESは企業からの「メッセージ」ということと、「質問コントロール」という役割があることを説明しました。あなたが当初思っていた以上に、ESが重要であることが理解していただけたかと思います。
そうするとつぎは、どのようなESが良いのか、について疑問が出てきたと思います。
一般的には、多くの人が、聞かれた問いにわかりやすく論理的に答えることに意識を払って回答しています。
このような、聞かれた問いに答えることのみに意識を払って回答することを「一問一答型のES」
と呼んでいます。
一問一答型のESでは、企業に対して、あなたと面接したいと思わせることができない可能性が高いです。あるいは、論理性のチェックのみでES審査は通過しても、そのあとの面接では、投資提案資料としてはあまり有効ではないといえます。
ではなぜ、一問一答型のESでは、投資提案資料として有効ではないのでしょうか。
それは、一問一答型のESは、わかりづらいからです。
ESを読んだときに、論理性はあるからそれなりに読みやすいものの、中身が伴っておらず、結局何がいいたいのか、どんな人なのかが、読み終わってもよくわからないということです。つまり、論理性のある文章ではあっても、目的との論理が結合していないということです。
その、わかりづらさは、実は2つの原因で構成されていると思います。
第一の原因は、各回答において注力する焦点がなく、「状況解説」
になっているために、結局どういう人なのかが非常にわかりづらく「書いた人の存在感がない」ことです。
その経験の中で、どんな立場で、何に苦しみ、どう乗り越え、何を得、それが今及び将来にどうつながるのか、それが志望先企業にどう役立つのか
といった観点の説明が全部または一部欠けており、淡々と出来事を整理して書いてしまったESが、状況解説をして終わるESです。そのようなESの場合、読んだ後に書いた人がどんな人なのかがわかりづらくなります。書いた人の存在感が全くない
のです。読んだ後に書いた人の姿が立ち上がってこないESといえるでしょう。
第二の原因は、各質問の回答から見えるあなたがばらばらで「全体として統一感がない」
ことです。ある質問ではみんなと協調するリーダーとしての経験を述べ、ある質問では個人プレーなどを述べた文章を同じES内に記載してしまい、結局どっちのタイプかわからない、という感想になってしまいがちです。
面接官はあなたに会う前にはESに目を通していますから、そのような結局よくわからないESでは、会う前の段階ですでにマイナス評価になってしまいます。また、自分の中での整理が、自分の存在感がなくバラバラなため、面接においても良い結果を得ることは難しくなってしまう可能性が高いです。逆に言えば、ESが適切に書けていれば、自分の頭の中でも同じように整理されているため、面接ではしっかりと結果を残すことができると思います。 したがって、良いESを書き上げることなくして、良い面接をする可能性は非常に低いです。
そのようなわかりづらい一問一答型のESを回避し、良いESにするにはどうすればよいのでしょうか。
その方法としては、マイストーリーをベースに問いを活用して伝えたいストーリーを伝えること
が最適だと思います。
そもそもESとは、採用活動の一部であり、採用活動は、未来に向けた投資です。そして、その投資の判断基準は、あなたのマイストーリーと企業が合致しているか、より具体的には、あなたの素養と心が会社の企業理念やビジネスモデルに合致できているどうかです。
そのため、あなたは、企業が求めている素養と心を持っていることを志望と経験を通じてプレゼンテーションを行い、投資対象として適格であることを説明・説得する必要があります。
そして、プレゼンテーション=面接においては、ESは投資提案資料となり、ESに沿った質問がなされ、その質疑に応える形で、説得を行います。
このことから、本来あるべきESあるいは良いESとは、
1. 相手に伝えたい「投資対象として適切だ」というストーリーを伝え、説得するために、
という考え方が必要だと思います。
2. その根拠となる経験等の具体的な形での質問を「使って」、
3. 投資対象として適切だというメッセージと根拠を伝える。
ESの質問に答えるという「手段」を通じて、私は投資対象として適格だと伝える「目的」を達成する
という発想です。
ES提出にあたり、本質的な自己分析をしっかり行ってきたあなた。あなたのESには、これまで構築したマイストーリーに自分の将来への強い思いがあり、その思いを実現するためのステップや要素などが含まれています。
したがって、マイストーリーから、相手に質問の形に合わせて、何をどのように答えるかを「抜き出し」、「あなたと私は完全に思いが一致しており採用すべき」というあなたからのメッセージを伝える
という方法が、もっともあなたを雄弁に語る方法であり、企業に最も適切に伝わる方法なのです。
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では、なぜ一問一答型のESになってしまうのでしょうか。
それは、ESの設問に回答することそのものが目的になっているからだと思われます。
その原因は、就活の時期になると、周囲の友人や大学の先輩などの間で、ESの論理性ばかりが語られ、深く考えることなくそれを鵜呑みしているからだと考えられます。 そのため、ESを読んだときに、論理性はあるものの、中身が伴っておらず、結局何がいいたいのかよくわからない、わかりづらいESとなってしまうと考えられます。
したがって、良いESとは、マイストーリーから抜き出し、企業の質問に合わせて表現を整えることで、全体として首尾一貫し、焦点が明確で、全体及び部分を通じて、ESの問いを活用して、企業に対して、私は投資対象として適格だというメッセージが伝わるものということになります。 問いを活用してストーリーを伝えることに意識を払ったうえではじめて、いつも注意を払っているESの形式面に注意を払えばよいのです。
形式面については、あなたが日頃気をつけてきたように論理的であること、そして過不足がないことが重要です。具体的に気をつけておくべき事は、以下の通りです。
・限られた文字数で問いにしっかり答えていること、
・誰が読んでもすっと理解できること、時系列が整理されていること、
・抽象的な用語に定義がされていること
・意味のある情報(投資対象として適切だというメッセージを伝えるため)のみで構成されていること
この4点に気をつけましょう。
良いESは一問一答形式で答えるものではなく、問を活用して、企業に対して、自分が投資価値に見合うと強く証明するものであると捉えることをお勧めします。
これからESを書くあなたも、あるいはもう書いてしまったあなたも、ESを書く際には、問いを活用して自分のストーリー伝えること、そのためには、全体が統一され、かつ焦点が明確であること、を強く意識して書くことをお勧めします。
次回は、ESを書く前に行う問いの分析と設計について説明していきます。
今回のポイント
1. 良いESとは、首尾一貫し、ESを通じてあなたの姿が立ち上がるもの
2. ESの質問に答えるという「手段」を通じて、私は投資対象として適格だと伝える「目的」を達成するという発想を持つこと
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基盤とした名著
命題とはある存在するものについて分離または結合されていることを論理的に規定するものです。そして命題を構成する主語と述語の区別、判断の種別、対象や変形について考察されています。
演繹的な論理思考を体系化した名著中の名著。
就職の軸から論理的に答えを導き出すこと、それゆえに各回答が構造化し首尾一貫していること、の二点の実現のために、この演繹思考の教えを基盤としています。