C-6 業界内比較
提供価値の要素分析でみえる企業間の違い
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名著の教えから導く就活の本質
前回は、企業研究の第二段階として、IR資料分析を行い、残った業界の中から選ぶ段階を説明しました。今回は、選んだ業界の中から、志望する企業を選ぶための業界内比較の方法を説明します。
企業研究のステップのうち、全業界の中から企業HPを中心にした机上分析で自分の企業の評価基準と合致しない業界を捨て、残った候補業界の中からIR資料による机上分析で志望業界を選択する、という段階まできました。現在あなたは、自分の企業の評価基準に基づいて、いくつかの候補業界があり、自分の企業の評価基準への合致の度合いに応じてその優先順位が定まっている状態だと思います。
では、志望業界が定まったところで、その業界内でのどの企業をどの順番で志望するか、といったあなたの志望はどのように選べばよいのでしょうか。
あなたは、志望する企業をなんとなく順位やブランドで選んではないでしょうか。その場合、面接で「この業界で当社を選んだ理由を教えてください」と聞かれたらどうしますか。業界トップならトップだからという理由でなんとかなりますが、それ以外の場合はどうしますか。適当に業界内を選んでおり、答えに窮するから、逃げの一手として、OB訪問や就活イベントで会った社員が素敵だったから、という取ってつけた理由を述べるのが多くの人の対処法かと思います。
実はこの回答は、取ってつけている内容であることを企業側もわかっています。では、自分のためにどのように最適な企業を選べばよいのでしょうか。また面接で適切な業界内でのその企業の志望理由を構築するためにどのように企業を選定したらよいのでしょうか。
この問いについて、名著で就活をきちんと読んできたあなたなら、もう答えがわかるはずです。 そう、業界内の各企業を調べ、自分の企業の評価基準に合致する度合いで選べばよい
ということです。これまで業界を選ぶために行ってきたIR資料分析を、業界内の他の企業でも行い、比較してあげればよいわけです。そうすれば、合致の度合いによって優先順位が設定でき、業界内でのあなたの志望企業の順位が決まります。
しかし、これまでの異なる業界の比較ではなく、同じ業界の比較になると、ビジネスモデルも似ており、見分けるのが難しいのではないか、という疑問を持つと思います。
その疑問はある意味正しいです。業界間の比較よりも、業界内の比較の方が、より似ているため、どのような視点で情報を得て比較をするか、の焦点を意識する必要があります。その焦点を理解するためには、同じ業界という言葉の意味をきちんと理解しておく必要があります。
では、同じ業界とは何でしょうか。
業界を区切る判断基準は、商品の種類です。消費財系の商品なら消費材メーカーになりますし、化粧品系の商品なら化粧品メーカー、保険商品なら保険業界、といった具合です。でも、同じ種類の商品だからといって、業界が同じだからといって、必ずしもビジネスモデルが同じわけではありません。
商品は、ビジネスモデルに基づき、ビジネスモデルは提供価値に基づきます。そして提供価値は、中期経営計画と企業理念に基づきます。商品に落とし込むまでに、明確な階層があるわけです。
したがって、商品の種類は同じでも、より上位のビジネスモデルが異なることもあります。ビジネスモデルが異なるということは、何の価値を提供しているのかが異なるということです。企業理念から商品までの各階層のいずれかが異なれば、当然求める人材像やどんな成長条件があるかも異なります。その点で、あなたの企業の評価基準との合致の度合いも変わってきます。
つまり、商品→ビジネスモデル→提供価値→中期経営計画→企業理念という各階層
を意識したうえで、具体的な階層から順に比較をしていけばよいわけです。これが、先ほど言った焦点の部分になります。
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例えば、ネット通販業界で言えば、自分で倉庫を持ち自分で製品を抱えるモデルの米国発のサービスもあれば、自社はオンラインプラットフォームの提供が中心の日本発のサービスもあります。
さらに、同じ日本発のオンラインプラットフォームの提供が中心のサービスでも、あらゆる商材を総合的に取り扱うものもあれば、服や靴など特定の商材に特化したものまで実に幅広くあります。ネットでモノを売るという大きな意味では同じなのでネット通販またはEC業界のくくりとしては同じになりますが、それぞれ提供している価値が異なります。
提供している価値が異なればビジネスモデルも異なります。そこで、提供している価値を構成する要素に分解してみれば、その企業で価値を提供するために必要なことがわかり、実際に入社した場合は、どんな経験ができるのか、どんな能力が身につくのか、どんな環境があるのか、が分かります。
焦点が分かったところで、具体的にはどんなことを行えばよいのでしょうか。
それは、企業理念・中期経営計画・財務分析の比較を行うことです。焦点のうちの、商品・ビジネスモデル・提供価値は財務分析からわかります。
財務分析のうち、特に何の商品からどのくらい収益を上げているか、に着目することが重要です。商品の種類は一緒でも、収益を上げる商品や領域が異なれば、ビジネスモデルが異なるということになるからです。
具体的には、IR資料に基づき、商品別または部門別の収益を円グラフにします。それを業界で並べてみます。そうすると、企業によって、割合が異なることがわかると思います。例えば下図のような例です。【同業界内会社ごとの部門別収益の比較表の例】
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そのうえで、商品ごとのビジネスモデルを考えます。そして、会社全体としてのビジネスモデルあるいはどこに重点を置いているかを考えます。どこに重点をおいているかは、円グラフからわかります。当然稼いでいる商品や部門に重きを置いているわけです。
そこまでわかれば、その企業や各部門の提供価値が分かります。
そして、ここまでの各層での違いを理解したうえで、各社の中期経営計画や企業理念を確認してみます。そうすると、見事に計画や理念が提供価値・ビジネスモデル・商品、そして決算の結果にまで反映されているのが分かると思います。これにより同じ業界でも、各階層においての違いが明確にわかるわけです。
そこまで分かれば、志望業界のどの企業が来たとてしっかりと裏付けされた適切な理由を述べられます。ほとんどの学生は、この質問には会った人がよかったからという逃げの回答に頼りがちなため、あなたの芯のある回答は大きな加点要素と言えることがわかると思います。
したがって、自分自身のために、本当の志望先に出会うためには、1. 業界間比較を行った前段階と同様に、IR資料分析を行います。
2. その際の焦点として、商品・ビジネスモデル・提供価値、そしてその根幹となる中期経営計画と企業理念に着目します。
3. そのうえで、企業理念・中期経営計画・財務分析の比較を行います。
あとは、あなたのマイストーリーの実現のために、あなたの企業の評価基準と照らし合わせてあげれば、おのずと答えは出てきます。
そして、そのプロセスは、そのまま面接時の業界内でその企業を志望した理由としても適切かつ効果的なものとなります。
今回は、企業研究の第三段階として、業界内比較を机上分析により行い、その際に意識すべき焦点を説明しました。
次回は、机上分析を終え、次のステップである現場分析について説明いたします。
今回のポイント
1. 商品→ビジネスモデル→提供価値→中期経営計画→企業理念が焦点
2. その焦点で、企業理念・中期経営計画・財務分析の研究を行い比較する
3. 各階層の種類の違いがわかったら、論理的な業界内での志望動機と志望順位を定められる
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基盤とした名著
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