C-5 個別の企業研究(候補業界の選択)
IR資料分析という最善手
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名著の教えから導く就活の本質
前回、企業研究の第一段階である、業界の取捨選択の方法を説明しました。これで、自分の企業の評価基準と合致しない業界を捨てることができました。今回は、残った業界の中で、自分の企業の評価基準と合致する業界を選ぶ段階に入ります。
業界を選ぶにあたっては、概要のみが載っている企業のHPの企業情報のみでは足りないため、さらに細かくみるべく、ある資料を確認します。実はこの資料こそが、企業研究の要となり、企業の理解を深堀するうえで、HPよりも重要なものです。その資料は、学生の目には届きにくいところに、ひそかに隠れています。
その資料の名前は、IR資料です。
IRとはInvestor Relationsの略で、直訳すると企業と企業の株主との関係構築を指します。
この株主という存在は、企業経営について一番口出しできる権利を持っている企業の「所有者」であるため、企業にとっては重要な存在です。企業は、経営にかかる莫大な資金を調達するため株を発行するのですが、投資家などに株を持ってもらい、維持してもらわなければなりません。IR資料は、これら投資家や株主に企業をアピールするため、企業がその存在と名声をかけて全力で作成する資料なのです。そのIR資料は、HP内の投資家情報というページにあります。
そのため、このIR資料には、当然ながら通常の採用活動以上の詳細かつ重要な情報が載っております。
そして、会社の威信をかけて作り上げる資料であるため、会社の今と将来の全てが載っており、IR資料こそが一番情報を得ることができかつ信頼に足る資料になるのです。概要の理解のみで良かった第一段階は、企業HPの机上分析で完了できますが、さらに候補業界を深く知る必要のある第二段階では、IR資料の活用が必須です。
就活生の多くは、会社とは何かを理解しておらず、IR資料の情報を知らず、企業のHPすらもさらっと読む程度で、とにかく企業説明会に行きがちかと思います。しかし、企業HPとIR資料があれば、企業説明会よりもはるかに効率よく、重要かつ多くの情報を収集することが可能です。
では具体的に、IR資料は一体どのような構成で作られているのでしょうか。
IR資料の主なものとして、中期経営計画、アニュアルレポート、決算短信があります。最上位から表すと、企業理念があり、企業理念に基づき中期経営計画が作られ、中期経営計画を実行した結果としてその年のアニュアルレポートと決算短信があります。
企業理念は、IR情報の上位に位置するためその枠には入りませんが、最初に確認すべき重要な事項です。
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企業は、その存在意義として「企業理念」を掲げています。多くの人は、この企業理念のところを適当に引用したり、どこも同じようなこと言っているだろうとしてあまり重要視しなかったりするようですが、ここに描かれているのは永遠に変わることのない企業の目指す方向性
です。それが、中期経営計画にも、今の事業にも、事業の結果である財務情報にもすべてつながっています。極めて重くとらえる必要があるものが、企業理念です。
この企業理念をマイビジョンと照らし合わせ、価値観が一致しているかを確認します。
つぎが、IR資料の中で最上位に位置する中期経営計画です。ここでは、企業理念に基づき、今後の数年で何に力を入れるべきかを明確にした経営計画が定められています。また、今後必要となる人材像と持つべき素養を読み取ることもできます。企業の向かうべき方向が示されており、企業のミッションとも言えます。中期経営計画の主旨とマイビジョン、中期経営計画の詳細とマイバリューを照らし合わせ、自分の使命の為に出すべき価値を実現できる方向にあるかを確認しましょう。
最後に、昨年度の実績について定性的及び定量的に説明し、来年度以降の更なる具体的な目標を設定するため、企業は一年単位のアニュアルレポートを作成します。一年間、何にどのように取り組み、どうなったかの統括がなされ、足元の企業の動向がわかる情報源となります。また、短期的に「今」欲しい人材像と持つべき素養についても明確にあらわされております。アニュアルレポートをしっかり読み込むことで、企業がどのようなビジネスモデルかをしっかり理解でき、そこで活躍できる人材も理解できます。なお、アニュアルレポートはかなり文量が多いため、骨子のみを掴むために、その1年間の決算短信や決算説明会資料が有用です。(あまり時間がなければ、決算説明会資料で事足ります。)
このように、残った業界を選ぶ段階においてもなお、IR資料分析という机上分析で完了できます。むしろ、企業説明会などでは得られない情報が多数あり、IR資料分析を行った方が短い時間で深く理解できます。これまで、企業研究イコール企業説明会への出席だと勝手に思い込んでいたのなら、ぜひIR資料分析を行ってみてください。はるかに効率的かつ効果的に企業研究が進むはずです。
今回は、企業研究の第二段階として、IR資料分析により、残った業界の中で、個別の企業研究を行いました。そして、机上分析がいかに効果的であるかも合わせて理解できたと思います。
次回は、次の段階に移行し、業界内比較を行います。
今回のポイント
1. 業界を選ぶ段階では個別の企業研究を行う
2. 個別の企業研究は、IR資料をもとに行う
3. IR資料の重要度は、 企業理念>中期経営計画書>アニュアルレポート>決算短信の順にある
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基盤とした名著
野生の思考とは、眼前の事象を考える際に、その事象と別の事象との間にある関係に注目し、それと類似する関係性を持つ別の事象群を連想しつつ、それらを再構成することです。そして、それらの事象に異なる意味を与え、新しい「構造」を生み出せるとしています。
その思考の枠組みを就活に活用して、構造化しています。その一つが、業界間の取捨選択の基準のための関連を見抜き、定義し、構築する方法論において活用しています。