C-4 業界研究(業界の取捨選択)
ビジネスモデルと自分の評価基準の照らし合わせ
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名著の教えから導く就活の本質
前回は、企業研究のステップについて説明しました。今回は、机上分析の最初のステップである業界の絞り込み(業界研究)について説明します。
意義のある業界の取捨選択を行うためには、各業界の概要を理解し、マイストーリーから導き出された企業の評価基準と照らし合わせる必要があります。そのためにはどうすればよいのでしょうか。
最も有益なのは、企業のHPを熟読することです。企業のHPを一応は見ていると思いますが、さらっと流すだけにしてはいないでしょうか。実は、企業のHPは、今の時代においては、企業の顔と言えます。企業の威信をかけて内容を表現しているものです。したがって、そこを熟読することで、企業の概要を理解できます。同業界の企業を一定数見てみれば、おおよそ業界の基本的な理解はできると思います。
その上で、一部理解が及ばないところがある、またはもう少し知りたいと思うなら、IR資料のうち、定性面の説明もあるアニュアルレポートをさらっと読むと良いと思います。この際に、焦点を絞って読むことが効果的です。決算短信などの財務データは規模をつかむためにちらっと見る程度で結構ですし、中期経営計画は事実ではなく計画であり、特段この段階で読まなくて結構です。
HPを熟読し、アニュアルレポートで補完して、情報を得て概要を理解する、という業界の取捨選択のプロセスは理解できたと思います。では、どのような情報を得れば取捨選択ができるのでしょうか。
それは、ビジネスモデルです。ビジネスモデルを理解できればそこで身につく能力、環境、立ち位置が見えてきます。ビジネスモデルを理解するには、その企業が「誰に」、「何を」提供しているかです。誰については、法人なのか個人なのかあるいは両方なのか。何については、製品なのか、アドバイスなのか、金融商品なのか、ノウハウなのか、専門知識なのか、それはどんなものなのか、などです。その二点を焦点として、企業HPなどを見てみれば、簡易的なビジネスモデルを理解できます。そうすると、どんな能力が身につくか、どんな立ち位置なのか、どんな環境なのかが見えてきます。
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例えば、銀行の場合、預金者から預金という形でお金集めて、企業や個人の貸し出し、金利で収益を上げます。借り入れる相手は金利を払ってくれる客ですが、預けてくれる人もいなければ成立しないモデルであることが分かります。そうすると、必要な能力は、借入相手を見極め、安定して金利を払ってもらえるようにするための財務能力が必要になります。
また、借入者と預入者双方が欠ければ成り立たないモデルであり、両方が極めて重要である上に、お金という重たいものを扱うため、きっちりとして信頼のおける存在である必要があります。そのため、銀行の環境は堅実で現状維持のベクトルが強いわけです。さらに、立ち位置については、ビジネスモデルから預金者と借入者の間を取り持つモデルであるため、仲介役であり、また借入者が安定して金利を払えるよう財務面を中心に相談にのる相談相手、ということが分かります。
このように、企業HPを中心にアニュアルレポートを活用し、誰に何を提供しているのかという観点で情報を集めれば、その企業及び業界のビジネスモデルを理解でき、自分の企業の評価基準と照らし合わせることができます。
そして、この段階では、広く浅く机上分析を行い、業界を選ぶのではなく、捨てると判断できる業界を洗い出すことが重要
なので、自分の企業の評価基準と合致しない業界を捨てる、判断を行います。
各業界のビジネスモデルの概要を理解でき、自分の企業の評価基準と照らし合わせることができ、取捨選択の判断ができるようになれば、下図のようにマッピングしてみることをお勧めします。縦軸が環境、横軸が立ち位置の骨子を表しています。そうすると、自分の企業の評価基準にあう業界と合わない業界がどこにプロットされるのかが分かります。このマッピングで、最も志望候補先が多い象限が、あなたにとって最優先の業界群という判断ができますので、捨てた後に残った業界の優先順位群もおおよそこれで付けられます。
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したがって、企業HPを中心にアニュアルレポートを活用し、誰に何を提供しているのかという観点で情報を集め、その企業及び業界のビジネスモデルを理解し、自分の企業の評価基準と照らし合わせる、という本質的な業界の取捨選択方法を理解できれば、もう業界の取捨選択は楽に行えると思います。
一般的な企業サーフィンでは、時間と体力を消費する割りに、見える範囲や数が非常に狭く、有効ではない業界の取捨選択を行う必要はありません。ぜひ企業HPを熟読することから始めてみてください。
今回は、有益かつ効率的な業界の取捨選択の方法を説明しました。次回は、業界の取捨選択をした後、業界と企業を「選ぶ」段階に移行します。選ぶにあたっては、机上分析の次の段階である、IR資料分析が中心となります。次回は、具体的なIR資料分析の手法を説明します。
今回のポイント
1. 意義のある業界の取捨選択を行う最初のステップは、企業のHPの熟読
2. 誰に何を提供するビジネスモデルかに注目する
3. ビジネスモデルを理解できればそこで身につく能力、環境、立ち位置が見えてく
なお、いきなり机上分析と言っても難しいと思うので、机上分析の道しるべとして、名著で企業研究(ドラッカー式企業研究)を開設しています。自分自身で、実施する前の参考として、活用してみてください。
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