A-11 就活の違和感の理由
日本型雇用システムと欧米型雇用システムの違い
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名著の教えから導く就活の本質
本サイトでは、「なぜ就職活動では、学生時代に頑張ったこと、いわゆるガクチカのような、仕事と結びつかないようなことをメインに聞かれるのか?」という疑問に対して、「職務経験のある中途採用と異なり、新卒採用ではこうした質問を通して応募者の素養と心を見極めるしかない」とお答えしてきました。
とはいえ、いきなり「あなたの学生時代の経験から、我が社に入りたい理由を教えて!」なんて言われるのは、不自然というか、ちょっとキモチワルイですよね。特に欧米諸国に住んでいた方は、「欧米の新卒採用ではガクチカなんて聞かれない、日本はおかしい !」と思われることも多いようです。
確かに、ガクチカが重視されるのは日本の就活特有の習慣です。本コラムでは、その違和感の本質的理由について解説します。
この理由に答えるために、まず日本の一般的な企業の雇用システムについて解説します。
下の表は、日本と欧米の一般的企業の人員構成を簡単に表しています。
日本の雇用システムの特徴は、1.終身雇用 2.年功序列 3. 新卒一括採用の三つです。
日本の企業では、新卒で入社した社員は定年まで勤め上げることが多く、社長や役員まで出世しなかったとしても、定年まで何らかのポストが用意されていることがほとんどです。そのため、人員構成は下図のようになります。一方、欧米の企業では、特定の仕事に対して人員を募集し、適宜欠員を補充するため、下図のようなピラミッド構造になっています。
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ここで、黒い四角で示した、「まもなく辞める社員」が退職したとすると、つぎのようになります。
日本企業では、社員は定年退職以外ではほとんど退職しないため、60歳で一斉に退職した人員のポストを、それぞれ直属の部下が引き継ぐ形となります。すると、企業の末端部に退職者ぶんの空きポストが一気に出現します。これが新卒一括採用の採用枠であり、その募集人員は未経験の新卒者が好まれます。
これを、「メンバーシップ型雇用システム」と呼びます。
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一方、欧米企業では、特定の仕事に対しての人員ポストであるため、社員が退職するタイミングも、空きが発生するポストも様々です。そのため、新卒一括採用ではなく、空きポストに対して逐一募集がかかる形になります。
だからこそ、欧米の大学生は数ヶ月に及ぶインターンシップや、大学院での専門的学習を通して、専門的なスキルを身に着け、「即戦力」となった上で専門的な空きポストに応募することが求められます。これを、「ジョブ型雇用システム」と呼びます。
つまり、日本企業への参画は、就職というよりも就社と呼ぶべき形態を取ることが分かります。
男女の交際に例えた場合、欧米の「就職」は短期間(もしかしたら長期)のお付き合いなのに対して、日本の「就社」は一生添い遂げることを前提とした結婚であると言えます。だからこそ、日本の「就活」では、ガクチカを通して、学生の素養と心を深く深く吟味する必要があるわけです。
ここまでの説明で、冒頭の違和感の正体が分かります。日本の「就活」は、異性にお付き合いして下さい! と告白したら、「私と一生添い遂げてくれる!? あなたの価値観と私の価値観はピッタリあってる!? あなたの人生経験からじっくり答えて!!」と言われてしまうようなものなのです。現実で異性にこんなことをいきなり言われたら、引いてしまいますよね。
ですが、日本の現在の雇用システムに鑑みると、この「違和感」も仕方がないことが分かります。こうした背景を理解した上で、本サイトの内容を活用してみて下さい。
補足
2018年9月に経団連の会長が、「新卒一括採用ルール撤廃」について言及し、波紋を呼びました。現時点ではこれは就活の解禁日程のみに関してですが、いずれは新卒一括採用自体の是非にも波及するのではないかと言われています。
この理由として、日本特有のメンバーシップ型雇用システムが、目下、制度的な限界を迎えていることが挙げられます。メンバーシップ型雇用システムは、戦後の高度成長期を背景に、主に急拡大する第二次・第三次産業従事者需要に応えるために完成しました。先程、「日本の企業では、新卒で入社した社員は定年まで勤め上げることが多く、社長や役員まで出世しなかったとしても、定年まで何らかのポストが用意されていることがほとんど」と解説しましたが、これはほぼすべての企業が安定的に成長し、ある新卒社員が60歳になるころには、企業の規模が何倍にも拡大しており、管理職のポストも何倍にもなっているという前提の元に成り立っていた仕組みなのです。
ですから、現在のような人口減少・経済縮小社会において、メンバーシップ型雇用システムを維持することは非常に難しいと言えます。現在既に、転職・中途採用が珍しくなくなっていることから考えても、中長期的には、欧米的なジョブ型雇用システムか、或いは別の形態の雇用システムに変わっていかざるを得ないでしょう。
もちろん、みなさんが就職活動をする今後数年の間に大きく雇用システムが変わる可能性は小さいです。しかし、将来的な雇用システム変革を見据え、自らの力でキャリアを設計し、人生を進めていく力がことさら重要になっていくでしょう。本章で解説した自己分析、ビジョンフレームワークの重要性は今後ますます高まっていくと考えられます。