オリエンタルランド
東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドグループについて研究を行います。
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エンターテーメント業界のリーディングカンパニーであり、東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドグループについて研究を行います。オリエンタルランドグループの研究とします。
なお、よく引き合いに出されるUSJは非上場であり、財務情報・中期経営計画の公表がないため、本記事内でオリエンタルランドと比較する形で言及します。
会社概要
会社概要
1960年設立
資本金 約632億円
従業員数 社員3,411名、準社員19,697名
関連会社 14社
業務提携先 ディズニー・エンタープライゼズ・インク
なお、USJは、米国法人ユニバーサルスタジオインクの親会社が100%保有する外資系テーマパーク会社です。
事業内容
テーマ―パーク事業、ホテル事業、その他事業(複合商業施設事業、モノレール事業)
事業部門は、人事本部(社員、キャスト)、マーケティング本部、運営本部、エンターテーメント本部(ショー)、フード本部、商品本部、技術本部、コーポレート(経営戦略・統括、総務、法務、経理、IT等)、ホテル事業会社、複合施設事業会社、その他事業会社
なお、USJには、マーケティング本部、エンターテーメント本部、ユニバーサルクリエイティブ、オペレーション本部、ファイナンス・IT本部、人事・総務本部の構成であり、マーケティングが中心にあります。
歴史
1960年、千葉県浦安沖の海面を埋め立て、商業地・住宅地の開発と大規模レジャー施設の建設を行い、国民の文化・厚生・福祉に寄与することを目的として、オリエンタルランドを設立。1962年に千葉県と浦安地区土地造成事業及び分譲に関する協定を締結し、1964年より海面埋立造成工事の開始。
1974年にはウォルト・ディズニー・プロダクションズ(現、ディズニー・エンタープライゼズ・インク)と業務提携について基本合意。1975年に海面埋立造成工事完了。1977年には東京ディズニーランドに名称決定。
1979年に足かけ17年でウォルト・ディズニー・プロダクションズと東京ディズニーランドのライセンス・設計・建設及び運営に関する業務提携契約の締結に達しました。
1983年4月、ディズニーランドを開園。
1996年には、ディズニー・エンタープライゼズ・インクとの間で、東京ディズニーシー・テーマパーク及び東京ディズニーシー・ホテルのライセンス・設計・建設及び運営に関する業務提携契約締結。
1998年には、ディズニーアンバサダーホテル、ディズニーリゾートライン、のライセンス・設計・建設及び運営に関する業務委託契約締結。
2001年に、東京ディズニーシー、ディズニーリゾートライン、東京ディズニーシー・ホテルミラコスタを開業。(同年USJも開業)
東京ディズニーシーの開業により、年間合計入園者数は2,500万人を超える水準となります。
さらに、2005年には東京ディズニーランドホテルのライセンス・設計・建設及び運営に関する業務委託契約締結し、2008年に開業。
2013年にはディズニーリゾート30周年イベントを行い、開業以来初めて年間合計入園者数が3,000万人を突破。
2016年には東京ディズニーセレブレーションホテルを開業。
以後も発展を続け、現在に至ります。
なお、USJは1994年に設立し2001年に開業後、経営不振となり2010年にゴールドマンサックス証券傘下となります。業績改善後2017年には米国のユニバーサルスタジオインクの親会社の傘下となり現在に至ります。
財務比較
オリエンタルランドグループとしての連結の財務分析です。
収益状況
基礎データ
極めて安定した売上高及び利益の状況です。確固たるブランドがあり、安定した集客ができていることが読み取れます。また売上高当期純利益率も17%程度で非常に高いです。※単位:億円(3年平均値)
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部門別収益
※単位:億円
※マウスオーバーで拡大実はテーマパーク事業のみではなく、ホテル事業とその他事業(商業施設運営事業とモノレール事業)のセグメントがあります。テーマパーク事業は80%程度にとどまり、ホテル事業がディズニーリゾート内のホテルや舞浜駅周辺のホテルの運営により、15%程度のセグメント利益を上げています。テーマパークを活かした事業の多角化が一定行われていることが読み取れます。※2018年度
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四半期営業利益
テーマパークは季節変動が大きい為四半期の営業利益も確認しておきます。※単位:億円
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冬場となる第4四半期(1-3月)が低く、温かくなるにつれ徐々に上がっていき、ハロウィン・クリスマス・年越しとイベントが豊富な第3四半期(10-12月)で最大となるという季節変動です。ただし、各四半期とも安定して利益を上げており、経営に影響を与えるような季節変動はありません。
これは、テーマパークという人工的な資産ゆえ季節で大幅な価値変動が生じないこと、季節に合わせたマーケティング(ショー・イベント)が効果を発揮していること、の2点によるものと推察されます。したがって、マーケティングにも非常に力を入れており効果を発揮している企業といえそうです。
顧客の状況
来園者数
年間3千万人超と国内では断トツの水準です。女性比率は70%とこちらもダントツの比率です。※単位:千人
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なお、USJは2016年度が約1460万人であり、東京ディズニーリゾートの半分、同年に開業した東京ディズニーシーと同程度です。
テーマパーク事業 客単価
※単位:円/人/年
※マウスオーバーで拡大チケット収入が45%程度で、非チケット収入が半分以上です。非チケット収入は、商品販売が35%、飲食が20%です。ここから、パーク内での体験価値が高く、またブランドや世界観が来園者を惹きつけているため、非チケット収入が半分以上をいう結果を導出していると推察されます。※3年平均
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年代
18歳未満の未成年が約3割、18-39歳の若年から中年層が約5割、40歳以上の壮年・老年層が約2割の構成です。先ほどの女性比率7割とあわせると、若年層の女性と親子(親が中年層)がメインターゲットと思われます。※3年平均
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来訪地域
やはり関東地域が6割超と圧倒的です。あとは近い順に中部・甲信越→近畿と続きます。直近では海外来訪者が1割に達しつつあり、インバウンドの増加による好影響を受けています。※3年平均
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設備投資の状況
設備投資
累計1.5兆円の投資をおこなってきています。圧倒的なブランド力の裏側には、絶えず10年スパンで超大型の設備投資を行い、進化をし続けてきているからと言えそうです。※マウスオーバーで拡大
総じて、ダントツのブランドにより、安定的で効率的に巨額の収益を上げる強さが特徴です。非チケット収入が半分以上であり、そのブランド・世界観を効果的に収益化させていると感じます。キャラ・ストーリー・世界観のクリエーションとそれを効果的に活用するマーケティングが強い企業といえそうです。
企業ストーリー
オリエンタルランドはグループとして、企業理念を定めています。企業理念は、企業使命→経営姿勢→行動指針で構成されます。内容から、企業使命をミッション、経営姿勢及びロゴとキャッチコピーをビジョン、行動指針をバリューと読みかえます。
ミッション
夢と感動、ひととしての喜び、そして安らぎを提供するとしています。そのために、自由でみずみずしい発想を原動力とするとしています。テーマ―パークとして、クリエイティビティによって、別世界・非日常体験を通じて、人々の心に夢・感動・喜び・安らぎを提供するという非常にエモーショナルな表現です。※マウスオーバーで拡大
ビジョン
ミッションの具体化として、ディズニーリゾートのキャッチコピーとして、「夢がかなう場所」としています。※マウスオーバーで拡大
また、経営姿勢として、対話・独創的・個性とやる気・革新と進化・調和と共生といった、創造性の表現が中心です。
エモーショナルな価値を提供し夢がかなう場所となるべく、独創的なクリエイティビティによって実現するということだと思われます。
バリュー
ミッション・ビジョンの実現のための重要な価値観を定めています。探求と開拓・自立と挑戦・情熱と実行というエモーショナルな表現が中心です。また、バリューをストーリーとして表現していることが独創的です。※マウスオーバーで拡大
まとめると、非常にエモーショナルな内容であり、感動や情熱といった人の心を動かすこと、そのことへの思いの強さが特徴的です。それを独創的なクリエイティビティによって実現するということです。
企業ストーリーで使用される言葉を分類整理すると、下図のように表現することができると思います。※マウスオーバーで拡大
東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドは、ディズニーという独自の世界観を持っており、キャラクターからストーリーから世界観まで全てクリエーションするため、エモーショナルでクリエイティブな企業ストーリーでした。
一方で、USJは堅実で地に足の着いた企業ストーリーです。
ビジョン:私たちは、ゲストの期待を常に上回る「ワールドクラスの体験」を提供し、 世界のエンターテイメント・リーディングカンパニーを目指します。
バリュー:
ゲストに対して 安全と衛生、クオリティの追求、情報の提供、エンターテーメント
取引先に対して 公正公平な取引、ベストパートナー
クルーに対して 安全で清潔な快適な環境づくり、人格・人権の尊重、公正な評価
企業市民として 環境への思いやり、説明責任、地域社会への貢献、反社会的勢力との関係
これは、USJが、誰かが生み出した様々なキャラ・ストーリー・世界観を実現する「場所の提供または委託型テーマパーク」というビジネスモデルであるためと思います。つまり、世界観をクリエーションするのではなく、様々な既存の世界観を活用し組み合わせてテーマパーク化するマーケティング会社であるといえると思います。そのため、バランスが重視されるものと思われます。
中期経営計画
オリエンタルランドは、2016年に2020年までの中期経営計画、その後2022年度までの大規模開発計画を公表しています。それにあわせて長期の成長方針を公表しています。
方針
高い満足度と集客の向上による長期持続的な成長をめざし、事業基盤の強化を図っていく方針です。※マウスオーバーで拡大
戦略
事業基盤の向上のための戦略として、ハードとソフトの強化(+財務方針)を掲げています。ハードは「新鮮さ」と「快適さ」をテーマとし、ソフトは人財力の強化をテーマとしています。※マウスオーバーで拡大
コア事業戦略は、ハードについては、「コンテンツ、ITの活用、海外ゲストの対応」の3つを挙げています。※マウスオーバーで拡大
施策
“新鮮さ”と”快適さ”を提供するハードの強化
① コンテンツ
新規コンテンツとして下表の導入を公表していました。
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また、さらなるコンテンツの強化として、新規プロダクト・大規模開発・サービス施設の更新改良を実施してきました。
・新規プロダクト※マウスオーバーで拡大
・大規模開発※マウスオーバーで拡大
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・サービス施設の更新改良② ITの活用※マウスオーバーで拡大
コア事業戦略のハード戦略において、コンテンツの強化に続いて、ITの活用も戦略として掲げています。※マウスオーバーで拡大
③ 海外ゲスト対応(受け入れ体制と集客)
コア事業戦略のハードにおける最後が海外ゲスト対応です。※マウスオーバーで拡大
長期持続的なソフト(人財力)の強化
働きやすい環境と成長を時間できる施策を推進していくとしています。※マウスオーバーで拡大
2022年までの大規模開発
2020年度までの中期経営計画の他、2022年度までの大規模開発も公表しています。※マウスオーバーで拡大
長期の成長方針
さらに、2022年度の大規模開発を超えて、長期の成長方針を公表しています。※マウスオーバーで拡大
東京ディズニーランド・シー共に、規模とインパクトのある開発を進めていくとしています。 総じて、ハードでは大規模な開発が続いており、常に進化をしていこうとする中期経営計画とその進捗となっています。
求める人物像の推察
求める人物像
企業ストーリー、歴史、財務分析、中期経営計画を統合すると、求められている人材は、「企業理念に強く共感し感動創造し常に進化を続けるエモーショナルかつクリエイティブな人材」です。
ディズニーの世界観を活用して、人の発想と技術とマーケティングによって、「夢がかなう場所」というコンセプトを具現化・運営・伝達することが必要です。そのために、クリエイティブな発想(クリエーション)、人の心に対する興味や洞察(マーケティング)、想像力、チーム・会社一体でその世界観を作り出していくチームワークなどが必要です。
したがって、常に進化を求め、その進化が感動創造の方向でマーケティングに基づいて行われ、それを協調してやり切る人、ということです。
そのうえで、オリエンタルランド HPにおいて、求められる人財像の定義がなされていました。「より良く、一丸となって、やりきる」人、そのために「顧客思考力と戦略的思考力」を持つ人、と定義がなされていました。これは、企業研究から論理的に導き出した人材像とほぼ同じ内容です。※マウスオーバーで拡大
なおUSJは、企業ストーリーその背景にあるビジネスモデルから、オリエンタルランドとは異なり「広い視野・高い視座をもち、包括的かつ戦略的な思考力で、社内外協調してバランスを取りながら、やり遂げる人材」、バランス能力の富んだ人材であると思われます。一言でいえばバランスに富んだマーケティング人材です。
キーワード
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まとめ
企業理解イメージ図
これまでの概要、歴史、財務分析(ビジネスモデル)、中期経営計画、企業ストーリーを構造化し、イメージ図に落とし込むと下図のようになります。
※マウスオーバーで拡大
ディズニーランドの運営会社、そしてそれゆえにクリエイティブとかエモーショナルといったイメージだと思います。夢と感動、喜び、やすらぎ、独創的、自由、革新と進化、というような言葉がキーワードとなります。
なぜこのキーワードになっているかというと、
① 常に大規模投資を行い革新し続けてきた歴史
② それゆえに圧倒的なブランド力を誇り安定かつ効率的な収益状況
③ ハードとソフトでさらなる大規模投資を含めた革新を目指す将来計画
から、構成されたものです。
そのような歴史・現在(財務・ビジネスモデル)・未来(中期経営計画)となっているのは、企業ストーリーが夢と感動を提供するというクリエイティブでエモーショナルなものとなっているからです。
業界内での志望理由
企業分解イメージ図を踏まえ、現在・未来・企業ストーリーの3階層を焦点に、業界内で同社を志望すべき理由を考えます。
1.テーマパーク業界No.1(収益性・利益No.1)
(現在=財務状況から)圧倒的なブランド力、それによる圧倒的かつ安定的な財務状況。
2.革新をし続ける方向性
(未来=中期経営計画から)大規模投資を含めて革新をこれからもたゆまず続けるクリエイティビティとエモーションに富む将来計画。
3.エモーショナルとクリエイティビティあふれる企業姿勢
(企業ストーリー・未来・現在から)夢がかなう場所を創造するエモーショナルでクリエイティブな企業姿勢。
宿題:各社のHP、IR資料、中期経営計画を熟読し、理解を深めましょう。
【出典】:2019年12月同社HP、2019年12月まで発表の同社決算短信、中期経営計画、その他同社公表資料