東京海上日動火災保険
損保業界のライバル他社を頭一つリードする東京海上日動火災保険の企業研究を行います。
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第一生命保険は、第一生命ホールディングスの100%子会社です。第一生命グループとして、ホールディングス傘下の100%子会社が一体となって経営を行っています。財務情報、中期経営計画はホールディングスとして出しているため、そちらを活用します。
会社概要
会社概要
創業:1879年8月1日
資本金:1019億円
正味収入保険料:2兆1666億円
総資産:9兆3930億円
従業員数:17203名
事業領域
火災保険、海上保険、傷害保険、自動車保険、自動車損害賠償責任保険、その他保険(賠償責任保険、労災保険、費用利益保険)
グループ
東京海上日動火災保険は、時価総額、正味収入保険料、純利益すべてにおいて業界内トップを誇る東京海上ホールディングスが100%株式を所有する完全子会社です。東京海上グループの事業領域は、大きく分けると、国内損害保険事業、国内生命保険事業、海外保険事業、一般事業、金融事業という5つによって構成されており、これらのうち国内損害保険事業の中核を担っているのが東京海上日動火災保険です。
歴史
1879年8月1日に、日本初の保険会社として誕生しました。明治時代、国家の近代化を目指す政府の殖産興業政策とその振興の背景には、海運・貿易業に欠かせない海上保険会社の設立が大きく作用していました。日動火災は1898年に設立された東京物品火災保険株式会社を前身とし、1914年1月、法学博士粟津清亮社長のもと、一般家庭の動産を対象とした簡易火災保険を販売する「日本動産火災保険株式会社」として設立されました。発足後は順調に進展を続け、特に主力商品であった無事故戻し付き月掛火災保険は、その仕組みと簡便さが東京地方の商工業界や勤労者のニーズに合い、同地域に強固な基盤を築きました。
戦後は、社名を「日動火災海上保険株式会社」へ改称し、高度成長期以降火災保険・積立保険・自動車保険を中心にリテール市場で販路を拡大していきました。また、1995年の保険業法の改正に伴い、1996年に日動生命保険株式会社を設立しました。
2002年4月には東京海上と経営統合し、持株会社ミレアホールディングス(現在の東京海上ホールディングス株式会社)を設立、2004年10月に両社合併しました。
財務分析
東京海上日動火災保険は、東京海上ホールディングスの完全子会社であるため、東京海上ホールディングスの決算情報から抜粋します。基礎データ
<グループ>
売上高にあたる経常収益、当期利益とも安定しています。三井住友海上と比較し、経常収益に差はありませんが、当期利益及び利益率で大きな差があります。<単体>※単位:億円
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東京海上日動火災保険単体としては、さらに利益率が高く収益性が高いことがわかります。また、正味保険料収入は、三井住友海上火災保険との単体同士の比較では、大きな差があることがわかります。※単位:億円
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地域別正味収入保険料
<グループ>
海外での正味収入保険料額は国内に比肩する水準です。2010年頃から欧米保険会社に対して積極的に大型M&Aを行ってきたことによるものです。そのため、現在ではすでに欧米での本格展開がなされているといえます。その地域は、北米を中心に欧州と続き先進国に強いことに特徴があります。
※単位:億円
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セグメント利益
<グループ>
国内損害保険が中心ですが、海外が34%を占めていることが大きな特徴です。グローバル損害保険会社といえます。※単位:億円
※マウスオーバーで拡大※2018年度
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種類別正味収入保険料
<単体>
バランスの取れたポートフォリオです。三井住友海上よりやや自動車が多いものの、総じて大きな差異はありません。
※単位:億円
※マウスオーバーで拡大※2018年度
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総じて、単体と比較しグループは日本生命グループに比肩する水準にあります。また、個人向けに強く、また海外にも他社よりは展開しており、営業力や推進力といった部分が強いことが推察されます。
企業ストーリー
東京海上日動火災保険は、経営理念とその補足を設定しています。経営理念をミッション、補足をバリューと読みかえます。なお、東京海上グループとほぼ同じ内容です。さらに、中期経営計画内に長期ビジョンが提示されていましたので、これをビジョンと読みかえます。ミッション
信頼や安全安心といった、損害保険会社として非常に堅実な内容です。※マウスオーバーで拡大
ビジョン
ここでも、「あんしん」と「成長し続ける」というバランスと創造性・進化に関する表現が使用されています。※マウスオーバーで拡大
バリュー
暮らしと事業の発展に貢献、創造性、自由闊達といった創造性に関する表現が特徴です。※マウスオーバーで拡大
総じて、損害保険会社として共通であるバランスに関する表現が中心にますが、他者と比較し創造性に関する表現に特徴があります。
企業ストーリーで使用される言葉を分類整理すると、下図のように表現することができると思います。※マウスオーバーで拡大
中期経営計画
東京海上グループは、2018年に、2018年度から2020年度までの3年間を対象として中期経営計画を策定しています。
<グループ>
タイトルは、「To Be a Good Company 2020 ~お客様の期待を超える『クオリティNo.1への挑戦』」です。具体的には、M&A含めた海外事業の拡大と国内の新種保険の拡大を筆頭に、革新的なサービスの提供、といった拡大を行うものと、グローバル人材の育成、生産性の向上といった強化を行うものがあげられています。※マウスオーバーで拡大
<単体>
東京海上ホールディングスによる中期経営計画を踏まえ、東京日動火災保険としての経営戦略がHPにあります。
方針
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長期ビジョンをもとに、中期方針「お客様の期待を超えるクオリティNo.1への挑戦」を定めています。この意味は、現在直面する大きな事業環境の変化の中においても、顧客のニーズに応える新しい商品・サービスを開発し、そして代理店とともに、その商品・サービスをお客様に確実にお届けすること、それらによる“あんしん”の提供によって、顧客に選ばれ続け、顧客、ひいては日本にとってなくてはならない保険会社“Good Company”を目指して持続可能な成長を続けていく、ということです。
戦略
この長期的目標に対して、東京海上日動火災保険は、選ばれ方の変革、働き方の変革を挙げています。ここからわかるのは、業界最大手として、そのクオリティというものを極限まで追求していこうとする姿勢です。※マウスオーバーで拡大
東京海上日動火災保険が設定する安心品質の提供というバリューは、単純に法令やルールによって顧客に対して履行が約束されるレベルの事柄を遂行するだけでなく、“顧客が期待していることを超えるレベルのクオリティ”を実現するということです。これらの、クオリティというものが東京海上日動と他社の差別化要素になっています。
施策
<国内損保>
国内生保における方法は下表のとおりです。
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方法については、東京海上ホールディングスの中期経営計画の中で言及がありました。クオリティNo.1の実現のため、商品やサービス、チャネル、業務プロセスの三つで改革を行うこととしています。
そのため、地方自治体・金融機関・商工会議所等と連携し、地方創生の取り組みを推進しています。また、新たなリスクへの対応を通じた保険種目ポートフォリオの変革(中小企業の事業リスクを包括的に保証する保険商品にサイバー・情報漏洩自己を保証する特約を加えるなど)なども行っています。
さらに、データ分析やAIの技術を応用し、保険金支払の判断の迅速化や事故対応の自動化を実現すべく、最新テクノロジーの活用を強みに成長している外資系保険会社との業務提携なども進めています。
総じて、これまで積極的に進めてきた海外拡大を含めて、現状の方向性をさらに拡大・強化していくというバランスのとれた内容です。グループ一体化・海外事業拡大という強化の方向性は三井住友海上と同じですが、その取り組みは、上記の地方創生や新商品、外資系保険会社との業務提携など革新的な内容です。
ここから伺えるのは、東京海上日動火災保険は、盤石な国内マーケット、業界内他社と比べて圧倒的なグローバル競争力を持つリーディングカンパニーとして、業界内で先頭に立って損害保険事業の次なるフロンティアを開拓していこうという意向です。
求める人物像の推察
求める人物像
以上の内容を踏まえると、東京海上日動が求める人物像は、「グローバル意識をもち、他を巻き込みながら、先の見えない課題に対しても知性をもって取り組み、業界の未来を切り拓く創造性のある人材」となります。
具体的には以下のような力に分解されると思います。
① 革新的な人物
損害保険業界全体としても、また東京海上日動としても、環境変化の風にさらされ、否が応でも革新が求められます。リーディングカンパニーとして常に業界の先を切り拓くため、現状に満足することなく、新しい価値を生み出すことへ挑戦することができる先進的・革新的な人材が求められるでしょう。
② グローバル人材
今後も海外事業は拡大の方針です。異なるバックグラウンド、文化、言語も違うような環境に溶け込み、またそこにいる多様な人物と協同する力があり、主体的に物事を進めていける人材であるかが求められます。
③ リーダーシップ力のある人物
東京海上日動は、業界No.1として、企業全体としても口火を切って損保業界全体を変えていこうとしています。
キーワード
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まとめ
企業理解イメージ図
これまでの概要、歴史、財務分析(ビジネスモデル)、中期経営計画、企業ストーリーを構造化し、イメージ図に落とし込むと下図のようになります。
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東京海上日動火災保険には、業界Mo.1として革新性があり、なおかつ体育会系のようながつがつした印象を一般に抱かれていることが多いかと思います。それらのイメージを分解すると、チームワーク、グローバル、自由闊達、革新、クオリティNo.1といったキーワードになります。
なぜこのキーワードになっているかというと、以下3点から構成されたものです。
①海上保険に端を発する日本最古の損害保険会社という歴史
②積極的な海外展開でグローバル損害保険会社となっていること
③海外拡大や革新的な新商品開発と生産性向上というバランスのある中期経営計画
そのような歴史・現在(財務・ビジネスモデル)・未来(中期経営計画)となっているのは、企業ストーリーがバランスと創造性両面に重きをおいたものとなっているからです。
業界内での志望理由
企業分解イメージ図を踏まえ、現在・未来・企業ストーリーの3階層を焦点に、業界内で同社を志望すべき理由を考えます。
1.グローバル損害保険会社
(現在=財務状況から)国内損害事業と海外事業のバランスが取れていること。
2.海外事業のさらなる拡大と国内事業の着実な発展という方向性
(未来=中期経営計画から)海外事業はさらに拡大していくという方向性、国内事業は革新的な商品開発や生産性向上により着実に発展させるというバランスのとれた方向性。
3.業界のNo.1
(企業ストーリー・未来・現在から)バランスと創造性を併せ持つ企業ストーリーであり、リーディングカンパニーとして業界を切り拓いてきた創造性があること。
宿題:各社のHP、IR資料、中期経営計画を熟読し、理解を深めましょう。
【出典】:2019年12月同社HP、2019年12月まで発表の同社決算短信、中期経営計画、その他同社公表資料