住友商事
三菱商事、三井物産と並び、と財閥系商社と言われる、住友商事について研究を行います。
-
会社概要
会社概要
1919年創立
資本金約2,196億円
拠点数 国内22 海外113
連結対象会社数 929
従業員数 単体約5,772名 連結約6.7万名
事業内容
金属、輸送機・建機、インフラ、メディア・デジタル、生活・不動産、資源・化学品の6部門。
歴史
旧住友財閥は、江戸時代初期の書林と薬舗に端を発します。直接的なルーツは、1919年に大阪北港株式会社で、大阪北港地帯の造成と隣接地域の開発などを行い、不動産経営を行う会社でした。戦後の財閥解体に際し、1945年に日本建設産業株式会社と社名を改めて正式に商事部門への進出を決め、従来関係のあった住友グループ各社の製品をはじめ、各業界の大手生産会社の製品の取り扱いに従事することとなりました。その後、取り扱い領域を広げ、1988年には総合事業会社構想に基づき、事業への進出を行いました。
財務分析
基礎データ
2017年度2018年度と安定して3000億円超の利益を得ており、日本を代表する水準です。売上高利益率が、三菱商事や三井物産の平均的な水準である7-8%よりも常時低く出ています。これは、利益率の高い事業投資よりも、より利益率が低いトレーディング事業の収益割合が大きい、もしくは投資案件の収益性が低いことのどちらかを示唆していると思います。
いずれにせよ投資の効率が悪いかトレーディングで稼いでいるかであり、三菱商事や三井物産よりも「トレーディングに軸足を置いた経営」になっていると推察できます。
※単位:億円
※マウスオーバーで拡大
部門別収益
目立って大きいセグメントはなく、極めて「バランス」のとれたセグメント利益の構成となっています。特徴的な点はメディア・デジタルという事業部門があることです。これは三菱商事や三井物産にはなく、他者よりもクリエイティブ系やBtC系に強いという特徴です。
※単位:百万円
※マウスオーバーで拡大
※2017年度に組織改編しているため、2016年度はメディア・生活セグメントの利益を、メディア・デジタルと生活・不動産のセグメントにそれぞれ半分にして入れ込み調整
※海外現地法人・支店というセグメントがあるため、セグメント利益の案分で各セグメントへ算入
資源と非資源の割合
概ね3:7から4:6で推移しており、資源が非資源を下回る年はなく、資源に頼らない堅実・安定的な経営を行っている商社です。
※マウスオーバーで拡大
企業ストーリー
住友商事は、企業像、住友400年の歴史に培われた「住友の事業精神」をベースに、2018年に、今日的かつグローバルな視点を加えて、ビジョン・ミッションに類する概念が、平易かつ体系的に整理し直されています。その意味では、ビジョン・ミッションに類する概念はまだ歴史が浅く現代的なものであり、創業以来受け継がれてきた住友の事業精神こそが住友商事という会社へ影響を及ぼしていると考えられます。
事業精神
※マウスオーバーで拡大
全ての根幹となる事業精神において、信用、確実、目先の利益に走らない、といった、安定・堅実をうたっております。事業投資よりもトレーディングが主体であること、非資源の割合が大きいことはここに由来があると思われます。
ビジョン
※マウスオーバーで拡大
目指す企業像が表現されており、これをビジョンと読みかえます。
変化の激しい時代の中で、変化を先取り、新たな価値を創造、といった革新性をビジョンとして掲げています。三井物産のそれとは使用している言葉は似ていますが、事業精神が基盤にある以上、異なるものと考えられます。安定・確実を踏まえた発展・進化・変革という意味になろうかと思います。
ミッション
※マウスオーバーで拡大
経営理念が表現されており、これをミッションと読みかえます。
ここには事業精神で述べている信用や堅実性、ビジョンで述べられている革新性が融合した内容になっています。また、夢という情熱的な表現が初めて出てきました。
バリュー
※マウスオーバーで拡大
いわゆるバリューに相当するものがないため、行動指針に読みかえます。
最後の情熱をもって実行する、以外は堅実・信用といった方向の内容です。
バリューには、基本的には事業精神に基づく内容が中心に書かれており、あくまで事業精神が基盤としてあることがよくわかります。
これら企業ストーリーに使用されている言葉を分類し、優先順位をつけると下図のようになると思います。※マウスオーバーで拡大
それゆえ、事業ポートフォリオはバランスが取れ、非資源が大きいという堅実さが感じ取れますし、トレーディングが三菱商事や三井物産より主体にあると思われます。
中期経営計画
総合商社の中期経営計画は、広範な領域への事業投資という特性から、以下3点は必ず言及されます。
※マウスオーバーで拡大
その上で、それをどう実現するかという、方針に特色が色濃くでます。
その特色が最大に出るタイミングが、社長就任時の中期経営計画です。
住友商事は、現在の兵頭社長が2018年に就任し、中期経営計画を発表し、そこから変更なく維持しています。
方針
※マウスオーバーで拡大
タイトルは、「新たな創造への飽くなき挑戦」です。新たな創造、挑戦という創造性に類する用語と、飽くなきという堅実性に関する用語が使われています。
新たな価値の創造の対象が定義されています。人類が向かい合う重要課題に対して、新たな価値の創造を行うということです。自社の課題ではなく、人類が向かい合う重要課題をテーマに掲げるところが、信用や社会貢献を重んじる住友の事業精神によるものでしょう。
戦略
実現の戦略としては、①次世代新規ビジネスの創出、②プラットフォーム事業の活用という二つ挙げられています。(全商社毎回言及される既存事業の強化は割愛)
施策
※マウスオーバーで拡大
①次世代新規ビジネスの創出
創出の対象は下図の通りです。テクノロジーそのもの、テクノロジーを活かして飛躍的な進化が予期されるヘルスケアと社会インフラの領域です。総じて、川上や川下というバリューチェーンの言及はなく、セクターでの言及です。
これまで商社が苦手であったデジタルを活用する領域に踏み込んでいくという宣言です。
新たな創造の対象が、人類が直面する課題であり、その解決のためにはテクノロジーに踏み込まねばならいないという判断したのだと思われます。
一方で、三井物産が対象としていたリテールやモビリティといったBtC事業が入らずに、社会インフラとなるあたりに住友の事業精神に基づく堅実性が垣間見えます。
※マウスオーバーで拡大
②プラットフォーム事業の活用
プラットフォームの定義がなされていませんが、複数事業の掛け合わせで新たな価値を創出するということのようです。
三井物産同じ価値創造ではあるものの、あえて一切の定義や特定がされておらず自ら切り開いていく必要のあった三井物産と比べ、対象領域、課題、方法がある程度特定されており、与えられた方向性の中で創造し実行する、という印象です。そのため、情熱が最優先ではなく、住友の事業精神である堅実性を最優先に、新しい価値を創造する創造性が重要ということなのだと思います。
求める人物像の推察
求める人物像
企業ストーリー、中期経営計画から、求める人材は、地に足の着いた信用と確実性を持つ新たな価値の創造者です。
デジタル領域ということですから、先見性やクリエイティビティも求められることになろうかと思います。
バランス感覚が圧倒的に重要です。信用を重んじ、堅実で確実かつ社会貢献意識の高い人格を持ち、そのうえで、新しい価値を創造する創造性が求められます。あくまでも住友の事業精神が基盤にあることを重々理解する必要があります。
キーワード
※マウスオーバーで拡大
-
まとめ
企業理解イメージ図
これまでの概要、歴史、財務分析(ビジネスモデル)、中期経営計画、企業ストーリーを構造化し、イメージ図に落とし込むと下図のようになります。
※マウスオーバーで拡大
堅実なリーダーというイメージだと思います。このイメージを分解すると、バランスと創造性です。
信用性と堅実を第一に、社会課題に向き合う創造性を持っている、ということに分解できます。
なぜこのキーワードになっているかというと、
①「信用・確実」、「浮利を追わず」の企業精神を持った住友グループの商社として存在し続けた歴史
②堅実で安定的な非資源のトレーディング中心のポートフォリオ
③定義づけを明確に行った上で、新たな価値創造を目指す中期経営計画
から、構成されたものです。
そのような歴史・現在(財務・ビジネスモデル)・未来(中期経営計画)となっているのは、企業ストーリーが堅実な住友の事業精神を基盤にしたうえで現代的に再解釈された堅実と創造性のバランスがとれたあるものだからです。
業界内での志望理由
業界内で、住友商事を志望すべき理由としては、これまで見てきた特徴から、以下が考えられます。
1.住友の事業精神への深い共感
地に足がつき、堅実性や社会性への意識が高く、課題も人類が向き合うべき課題を設定している経営姿勢。
2. デジタル分野に正面から挑む方向性
メディア・デジタル事業を持っているという特徴を生かし、デジタル分野に正面から踏み込み、新しい価値を創出しようという経営計画。
3. トレーディング主体でメディア系に強い独自の立ち位置
トレーディング主体で地に足の着いた事業構成であること、一方でメディア系に強い独自の強みを持つ事業。
宿題:各社のHP、IR資料、中期経営計画を熟読し、理解を深めましょう。
【出典】:2019年12月同社HP、2019年12月まで発表の同社決算短信、中期経営計画、その他同社公表資料