三井物産
三菱商事と並び総合商社の人気企業、三井物産について研究を行います。
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会社概要
会社概要
1947年創立
資本金約3,418億円
拠点数 国内11 海外124
連結対象会社数 491
従業員数 単体約5,772名 連結約4.4万名
事業内容
鉄鋼製品、金属資源、プロジェクト、モビリティ、化学品、エネルギー、食料、流通事業、ヘルスケア・サービス事業、ICT事業、コーポレートディベロップメントの各分野において、全世界に広がる営業拠点とネットワーク、情報力などを活かし、多種多様な商品販売とそれを支えるロジスティクス、ファイナンス、さらには国際的なプロジェクト案件の構築など、各種事業を多角的に展開
歴史
旧三井財閥は、江戸時代初期の呉服商三井高利にまで源流が遡る。三井物産自体は、1874年に井上馨と益田孝が設立した会社に端を発する。日本初の総合商社で、まだ商事会社という日本語すら無かった明治初期に、あらゆる産品の貿易を手掛ける世界に類を見ない民間企業として発展し、後に「総合商社」と称される企業形態の原型を造った総合商社の祖。
明治時代より、軽工業の発展に応じて、紡織機の輸入を中心に、国家の基盤産業の発展に貿易の面から貢献し、会社が飛躍的に拡大する。紡織機への知見を活かし、トヨタ自動車の前身である豊田自動織機や豊田佐吉への支援を行い、トヨタ自動車の発展の礎の構築に寄与しました。
戦後財閥解体により一時解散を余儀なくされるが、1959年旧三井物産系商社が大合同し現在の三井物産が誕生。大合同により当時最大の総合商社の地位を取り戻すが、その後事業展開で三菱商事にその座を譲ります。
なお、同社は多くの人材を輩出しています。戦前の大日本麦酒(現・アサヒビール、サッポロビール)、大正海上火災保険(現・三井住友海上火災保険)、東レなどの三井グループの中核企業には、旧三井物産出身者の設立した企業が少なくないことから、「組織の三菱」に対し「人の三井」と言われます。
財務分析
基礎データ
2017年度から2018年度にかけて収益が下がっていますが、その水準は純利益4千億円超と、三菱商事には及ばないものの国家を代表する水準です。
※単位:億円
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部門別収益
金属とエネルギーが割合としては大きいものの、各部門で一定収益を上げており、全体的にはバランスが取れています。10年前などは金属資源やエネルギーの割合が現在よりもはるかに大きかったのですが、現在は事業ポートフォリオに重きを置いているものと思います。
※単位:百万円
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資源と非資源の割合
概ね6:4から7:3で推移しており、以前の8:2や9:1の時期と比べ、安定的なバランス型になってきています。とはいえ、非資源が資源を下回る年はなく、2017年度に至っては、資源が70%を越えているので、バランスよりの資源型になると思います。
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企業ストーリー
ミッション
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三井物産は、ミッション→ビジョン→バリューの順で設定しています。
三菱商事と同様に、地球規模の目線で、偏りや制約のない王道のミッションと言えるでしょう。「夢あふれる未来づくり」という言葉に、強い意図を感じます。「夢」や「未来」や「創ること」がキーワードとなりそうです。
ビジョン
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ニーズに応えるグローバル総合力企業ということで、課題解決会社であるという宣言です。三菱商事は総合力を定義していましたが、三井物産ではあえて定義はしていないようです。
定義して範囲を定めずに、これから生み出していく、進化させていく、という意思の表れと見受けられます。文末が目指します、であることからもそれが読み取れると思います。その意味では王者というよりは、高みを目指す強者というような印象があります。
ここから、「進化」、「成長」などがキーワードになりそうです。
バリュー
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バリューには、客観的な事実や現状というよりは、目指す姿や願望が含まれています。
企業ストーリーで使用される言葉には、重い意味があります。分類すると下図になるかと思います。※マウスオーバーで拡大
ミッション、ビジョンがともに、情熱的で創造的な内容であったこと、バリューの中で情熱的な言葉が多かったことから、このような優先順位になるかと思います。
三菱商事は現代的なビジョン・ミッション・バリューという形では設定しおらず、伝統的に受け継がれてきた三綱領をビジョンに読み替え、三綱領に基いて定義された三価値をミッションに、それを生み出す定義された総合力をバリューと読みかえました。
これに対して、三井物産は、現代的なビジョン・ミッション・バリュー(ミッション・ビジョン・バリューの順でしたが)を採用し、新たに定義しています。一方で総合力という言葉の定義はしていません。ここから、進化・革新といった新しいこと、前に進むことを、伝統よりもはるかに重視している、という姿勢が見られます。それゆえに三菱商事よりもバランスについては言及が少なく軽いのでしょう。
そのため、最近は株主からの指摘もあり事業ポートフォリオがバランス型に寄せてきていますが、金属資源やエネルギーのような、リスクが非常に大きい投資案件でも、積極的に投資していく姿勢は、ここからあらわれているものと思います。
中期経営計画
総合商社の中期経営計画は、広範な領域への事業投資という特性から、以下3点は必ず言及されます。
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その上で、それをどう実現するかという、方針に特色が色濃くでます。
その特色が最大に出るタイミングが、社長就任時の中期経営計画です。
三井物産は、現在の安永社長が2016年に就任し、2017年はじめに中期経営計画を発表し、そこから変更なく維持しています。
方針
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タイトルは、「Diving Value Creation」です。タイトルで使う3つの単語にも、これまで見てきた情熱や創造性に類する用語が使われています。そしてこのタイトルは、「価値創造を通じた成長の加速」と定義されています。
つまり、プロ人材が三井物産の総合力とネットワークを活用して、価値創造により顧客企業の成長を支援する会社になる、という宣言です。「価値創造支援企業」を目指すということです。
三菱商事は、主体的に強みを生かして価値創造できる事業経営、という宣言であり、メジャー出資で事業経営に踏み込む、という具体的に形にまで踏み込んだ中期経営計画でしたが、三井物産は価値創造まででとどめています。
戦略
ミッション、ビジョンがあえて定義をせずに抽象的で主観的な表現であったことと連関し、やり方はさまざまにとっていく、ということだと思われます。よって、マイナー出資の事業投資も価値創造に資するなら継続・強化するということでしょう。
三菱商事と違い経営という用語は出てきませんので、経営という形や方法には特に注力はしないのではないでしょうか。
その意味では、価値創造に資するなら何でもありとも捉えられます。自由で柔軟である一方で、戦略性に乏しく、ベンチャー企業よりの感覚を受けます。そのため、バランス感覚はそれほど重視していないのでしょう。企業理念がそのまま出ている中期経営計画と言えるでしょう。
施策
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そして、注力する対象領域が出ていました。総じて、川上や川下というバリューチェーンの言及はなく、セクターでの言及です。いずれも、デジタルテクノロジーの恩恵を最も受けると思われる領域です。
これまで商社が苦手であったデジタルを活用する領域に踏み込んでいくという宣言です。
未来を創るというミッションから、ここに踏み込んでいくべきと判断したのだと思われます。
なお、対象国は北米とアジアと言及されています。これもデジタルテクノロジーの恩恵を受ける領域を意識した選定と見受けられます。
求める人物像の推察
求める人物像
中期経営計画から、求める人材は、価値創造者です。情熱を持ち、創造性ある知力に優れ、主体的に物事を動かることのできる人です。
デジタル領域ということですから、先見性やクリエイティビティも求められることになろうかと思います。
バランス感覚よりも、情熱や創造性が圧倒的に重要です。ベンチャー業界が欲するような攻めだけが得意な経営人材でも十分に評価に値するでしょう。守りの部分やバランスは後から育成すればよいわけですから。一言でいうならベンチャー経営者のような人材でしょう。
したがって、情熱と創造性を示すことが重要です。
キーワード
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まとめ
企業理解イメージ図
これまでの概要、歴史、財務分析(ビジネスモデル)、中期経営計画、企業ストーリーを構造化し、イメージ図に落とし込むと下図のようになります。
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強者・個の活躍といったイメージだと思います。
このイメージを分解すると、情熱と創造性です。変革への情熱を持ちながら、挑戦と価値創造を行うベンチャー経営者のような気質を持っている、ということに分解できます。このことから、個の活躍を想起させると思います。
なぜこのキーワードになっているかというと、
①総合商社という企業形態の原型を作り、トヨタ自動車の発展の礎にも寄与した歴史
②リスクある資源が中心でありながら、年々バランスのとれた事業ポートフォリオへ変革し、日本を代表する水準に利益を上げている財務状況
③自由で柔軟な価値創造支援会社を目指す中期経営計画
から、構成されたものです。
そのような歴史・現在(財務・ビジネスモデル)・未来(中期経営計画)となっているのは、企業ストーリーが野心的で情熱に満ちてた強者を想起させるものだからです。
業界内での志望理由
業界内で、三井物産を志望すべき理由としては、これまで見てきた特徴から、以下が考えられます。
1. 業界内で随一の熱量のあるビジョン
情熱的な表現が使われ、まるでベンチャー企業のような熱いビジョンが特徴です。これほどの規模と伝統ある企業で、この姿勢を打ち出せること自体が特徴です。
2. 自由闊達で創造性に富む企業風土
上記ビジョンが生み出される土壌である、過去から積み重ねてきた伝統や企業風土そのものが、自由闊達で革新的である点。さらには、価値創造会社に成長するといいながら、価値創造の方法を定義しておらず、社員一人一人が考え切り開いていく必要のある柔軟さなど。
3. リスクを厭わず挑戦する経営姿勢
それらの結果として、時に資源への依存度が高くなりながらも、リスクを厭わずに前進する事業内容や経営姿勢。
宿題:各社のHP、IR資料、中期経営計画を熟読し、理解を深めましょう。
【出典】:2019年12月同社HP、2019年12月まで発表の同社決算短信、中期経営計画、その他同社公表資料