三菱商事
総合商社の雄、日本一の企業、と称される三菱商事について研究を行います。
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会社概要
会社概要
1954年創立
資本金約2045億円
拠点数 国内14 海外173
連結対象会社数 1453
従業員数 単体約6,000名 連結約8万名
事業部門
天然ガスグループ、総合素材グループ、石油化学グループ、金属資源グループ、産業インフラグループ、自動車モビリティグループ、食品産業グループ、コンシューマー産業グループ、電力ソリューショングループ、複合都市開発グループ
歴史
日本で初めての株式会社といわれる坂本龍馬の海援隊が近江屋事件後に後藤象二郎に委ねられ、その後岩崎弥太郎に受け継がれて九十九商会となった企業の流れを汲んでいます。九十九商会は、後に、三菱商会、三菱蒸汽船会社(後に郵便汽船三菱会社として2016年現在の日本郵船が分離)、三菱社と変遷しています。その後、三菱合資営業部が「立業貿易」の方針に則り、1918年(大正7年)に、総合商社である三菱商事として独立。第二次世界大戦後は三井物産と並んでGHQの直接指令によって解散し、174の会社に分裂したが、1954年に大合同を果たして三菱商事が復活しました。
その後は、総合商社業界研究の通り、貿易仲介を中心とした口銭を稼ぐビジネスが中心であったが、1970年代より資源開発への直接投資(天然ガスや原料炭)を手掛けるようになり、1980年代には菱食(現 三菱食品)などの食料流通などのバリューチェーンの構築を展開しました。
1990年代に入り、コンビニエンスチェーンローソンを通じた消費者マーケットの開拓など、川上から川下までの領域にわたっての投資や経営参画を通じて収益を上げる体質変化を遂げ、収益拡大を続けています。
財務分析
基礎データ
売り上げ、利益ともに安定し着実に成長しています。純利益が6千億円弱のレベルは、まさに日本を代表する水準です。 ※2018年度の売上の急拡大は会計基準の変更によるもの。
※単位:億円
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部門別収益
金属とエネルギーが割合としては大きいものの、各部門で一定収益を上げており、全体的にはバランスが取れています。2016年には生活産業、2018年には機械と、金属やエネルギーに比肩する利益を上げることのできる事業が複数ある点が他社にはない強さです。
※単位:百万円
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資源と非資源の割合
概ね5:5から6:4で推移しており安定的なバランス型といえそうです。2016年度に至っては、非資源の方が、収益割合が大きいという状況です。資源は市況の影響を大きく受けるため、リスクとリターンのバランスが取れた、安定性と収益性が揃った事業ポートフォリオといえます。
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企業ストーリー
ビジョン
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内容を見てわかる通り、王道中の王道を貫く企業理念です。立業貿易は、本来は貿易を行っていくことの宣言ですが、現代的に再定義しなおされ、全世界的な視野に立って事業展開を図るということで、場所や業界や商材など偏りや制限が一切ありません。
この三綱領を統合して考えると、全世界から全事業を通じて「信頼」されることを目指していると読み取れます。したがって、最も重要なキーワードは「信頼」になるとおもいます。
また、資源と非資源の利益バランス、各グループの利益バランスがとれており、特定の収入減や領域に偏らず、収益の挙げ方が非常に安定している現在の状況は、この王道といえる企業理念に依拠して経営が行われていることの証左でもあります。 したがって、「バランス」が重要なキーワードと言えそうです。
ミッション
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経済価値・社会価値・環境価値の三価値の実現を掲げています。
これも日本を代表する企業として、王道かつ広範なミッションです。
バリュー
図はミッションと同じです。
総合力・構想力・実行力を上げています。
これは強みを表現したものと思われます。バリューに目指すものや願望を入れずに、客観的に今持っている強みを記載している点も、地に足の着いた王道で「堅実な姿勢」が垣間見えます。
企業ストーリーで使用される言葉を分類整理すると、下図のように表現することができると思います。
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中期経営計画
総合商社の中期経営計画は、広範な領域への事業投資という特性から、以下3点は必ず言及されます。
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その上で、それをどう実現するかという、方針に特色が色濃くでます。
その特色が最大に出るタイミングが、社長就任時の中期経営計画です。
三菱商事は、現在の垣内社長が2016年に就任しておりますので、2016年の中期経営計画の該当箇所を見てみましょう。
方針
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中期経営計画を見てみると、随所に「事業経営」という言葉が出てきています。その定義は、「主体的に強みや機能を発揮し、事業価値を創出すること」となっています。
つまり、主体的に強みや機能を発揮できない事業=多くある影響力の小さい出資の事業投資は拡大しない、という宣言でもあります。
投資ではなく経営という言葉を使用しています。「様々な事業を経営することで顧客企業を支援する経営支援会社になろう」という宣言です。
戦略
方針と同じ図において、事業経営という方針に基づき、「主体的」・「パートナーとの組み合わせ」・「事業再生」・「先端技術との掛け合わせ」を戦略として提示しています。
施策
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そして、直近の2019年度の中期経営計画(2016年の中期経営計画の更新版)では、その対象領域が出ていました。総じて、川下つまりBtC領域に注力してくということです。また、ITを中心としたサービスセクターにも参入していくようです。
中期経営計画から、投資会社ではなく「経営支援会社」に変化すること、その対象領域は川下やデジタルというこれまで不得意であった領域が中心になってくるということです。
これまではエネルギー資源などの大きな上流の投資のイメージでしたが、そこから大きく変わろうとしているということが読み取れます。
バランスが重要な会社であることが財務状況からも企業理念からも読み取れましたが、ここでも強みを生かして、「今弱い分野」にフォーカスしていく、というバランス型のポートフォリオを目指す姿が読み取れます。強いところを徹底的に注力する、というような経営戦略にならないのは、やはりビジョンから起因するバランス・王道の考え方による経営が行われているからでしょう。
求める人物像の推察
求める人物像
中期経営計画から、求められている人材は、経営者です。インキュベーションし、バリューアップさせることのできる経営人材です。
創造性ある知力に優れ、困難にも打ち勝つ精神力・体力に優れ、周囲を巻き込める人間力をもって、主体的に物事を動かることのできるリーダーということだと思われます。
特に、BtC領域やデジタル領域ということですから、クリエイティビティも求められることになろうかと思います。
また、企業理念や財務状況からは、地に足の着いたバランス感のある人材という点も読み取れます。ベンチャー業界が欲するような攻めだけが得意な経営人材ではなく、安定し着実性も兼ねそろえた経営人材が欲しいということだと思います。
一言で言いかえるなら、大企業経営者のような経営人材ということになるかと思います。
したがって、創造性とバランス感覚に富んだリーダーであることを示す必要があると思います。
キーワード
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まとめ
企業理解イメージ図
これまでの概要、歴史、財務分析(ビジネスモデル)、中期経営計画、企業ストーリーを構造化し、イメージ図に落とし込むと下図のようになります。
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王者・エリート(インテリジェント)・かっこいい・高収入といったイメージだと思います。
このイメージを分解すると、創造性とバランスです。地に足がついた信頼や品格といった王者の貫禄を持ちながら、事業投資・事業経営といったインテリジェントレベルの高い事業に進化していく創造性を持ち合わせている、ということに分解できます。
この創造性をみてかっこいいというイメージがあると思われます。
なぜこのキーワードになっているかというと、
①国家レベルの貿易商から事業投資会社へと進化を続けてきた歴史
②リスクある資源にも積極的に関与しながらバランスのとれた事業ポートフォリオをつくり、日本を代表する水準に利益を上げている財務状況
③さらに進化し、事業経営に踏み込む中期経営計画
から、構成されたものです。
そのような歴史・現在(財務・ビジネスモデル)・未来(中期経営計画)となっているのは、企業ストーリーが王道で広がりがあるものだからです。
業界内での志望理由
業界内で、三菱商事を志望すべき理由としては、これまで見てきた特徴から、以下が考えられます。
1. 業界No.1(王者)
(現在=財務状況から)長年にわたって総合商社業界の一位でありつづけ、日本一の企業とも称される王者。
2. 事業経営という新たな方向性
(未来=中期経営計画から)事業経営を行っていくこと、社員は経営者に育てていくことが明確に示されており、経営人材を目指す人にとってはうってつけの環境。
3. 創造性と安定性のバランス
(企業ストーリー・未来・現在から)創造性と安定性のバランスが完璧にとれているところに特徴がある。バランス能力に優れた洗練された人材に成長できる環境がある。
宿題:各社のHP、IR資料、中期経営計画を熟読し、理解を深めましょう。
【出典】:2019年12月同社HP、2019年12月まで発表の同社決算短信、中期経営計画、その他同社公表資料