丸紅
五大商社の最後の一つである丸紅について研究を行います。
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会社概要
会社概要
1949年創立
資本金約2,627億円
拠点数 国内12 海外124
連結対象会社数 431
従業員数 単体約4,418名
事業内容(事業グループ)
生活産業、食品・アグリ・化学品、電力・エネルギー・金属、社会産業・金融、CDIOの5グループ。
歴史
1858年、伊藤忠兵衛が麻布の行商に端を発する。伊藤忠商事と出自は同じです。繊維会社として、明治期の軽工業の発展に応じて拡大。1949年には、分離し丸紅設立。高島屋飯田や東通などを取り込みながら拡大。
財務分析
基礎データ
2017年度2018年度と安定して2000億円超の利益を得ています。売上高利益率が、他商社よりもかなり低く、トレーディングが中心または利益率の低い事業投資を行っていることが考えられます。
※単位:億円
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部門別収益
目立って大きいセグメントはなく、バランスのとれたセグメント利益の構成となっています。生活産業と食料という分け方、輸送機単独で事業部門があること、が特徴です。エネルギー・金属と食料部門に利益の安定性がなく、事業投資の失敗によるものと思われます。
※単位:百万円
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※2016年度は食料が生活産業グループの中にあるため、生活産業グループの利益を2017年度の両部門の利益に応じて案分した
資源と非資源の割合
エネルギー・金属部門の利益変動が大きく安定していませんが、最大でも3:7であり、資源が非資源を下回る年はなく、資源に頼らない堅実・安定的な経営を行っている商社です。
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企業ストーリー
ビジョン・ミッション・バリューといったフレームワークでの設定はありませんでしたが、社是、在り姿、丸紅スピリットが提示されていましたので、それぞれビジョン・ミッション・バリューに読み替えます。
ビジョン
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文章で表現すると、公正明朗な企業活動を通じ、経済・社会の発展、地球環境の保全に貢献する、ということのようです。ルーツが伊藤忠商事と同じで、近江商人であることから、正と和により、信用を大事にする商人ということがよくわかります。そのうえで、新という文字から、新しいことへの意識が見えます。
ミッション
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・時代が求める社会課題を先取りし、事業間、社内外、国境、あらゆる壁を突き破るタテの進化とヨコの拡張により、社会・顧客に向けてソリューションを創出します。
・丸紅グループを一つのプラットフォームとして捉え、グループの強み、社内外の知、ひとり一人の夢と夢、志と志、さまざまなものを縦横無尽にクロスさせて新たな価値を創造します。
説明文章に記載ある通りですが、丸紅自体がプラットフォームとなり、バリューチェーンや事業領域を俯瞰し、連携させ、ソリューションを生み出していくということです。
ここから、新のて定義が何かをつなぎ合わせて生まれるもの、と捉えられます。あくまでこれまでの積み重ねを基盤に、その強みを生かして、組み合わせて新しいソリューションを創っていく、という地に足の着いた方向性の提示です。
バリュー
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情熱に類する強と挑、バランスに関する正、創造性に類する志と論、と分類でき、情熱・バランス・創造性それぞれ同量程度の言及がなされていると思います。
これら企業ストーリーに使用されている言葉を分類し、優先順位をつけると下図のようになると思います。※マウスオーバーで拡大
三菱商事の創造性、三井物産と伊藤忠商事の情熱、住友商事のバランス、のように明らかに最優先されていると見受けられる要素はなく、まんべんなくバランスよく言及されていると考えられます。そのため、事業ポートフォリオもバランスが取れたものになっているのだと思います。
また、創造性の定義も、リスクをとるというものではなく、今持っているものをつなげて進化させるプラットフォーム的な意味合いであり、そのためにエネルギーや金属資源の利益割合が小さいのだと思います。逆に三菱商事は経営に踏み込む、三井物産は価値を創造するというリスクを負って踏み込む方向で創造性を定義しています。
中期経営計画
総合商社の中期経営計画は、広範な領域への事業投資という特性から、以下3点は必ず言及されます。
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その上で、それをどう実現するかという、方針に特色が色濃くでます。
その特色が最大に出るタイミングが、社長就任時の中期経営計画です。
丸紅は、現在の柿木社長が2019年に就任し、その年に中期経営計画を発表しています。
方針
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タイトルは、「Global Crossvalue Platform」です。在り姿と同じです。繋ぎ結びつけることで価値を上げていく事業プラットフォーマーになるという宣言です。
2030年までの長期計画を掲げたうえで、2020年までの中期計画を策定しており、プラットフォーマー化は2030年に向けた方向性です。
戦略
実現に向けた戦略としては、「既存事業の充実と進化」を2020年までに行いながら、新しい領域や新たなビジネスモデルといったところに入り込んでいくというものです。したがって、中期経営計画としては、既存事業の充実・強化にとどまります。
施策
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施策としては、具体的な事業方針を定めそれに基づいて事業の改良を実施していくこととしています。事業方針によると、既存事業の強化の方法として、3点が言及されています。
①在り姿を定義すること
②主体性の確保(メジャー出資)
③プラットフォーム化
今ある事業の理想形を描き、現状とのギャップを埋めていく、その際に主体性が発揮できる方法(メジャー出資)で、プラットフォームを活用(既存事業の掛け合わせなど)で実施していくということです。
他社は、ビジネスモデルの変化や新領域への参画が主な中期経営計画の内容でしたが、丸紅は飽くまで中期では既存事業の充実・強化に留めています。その点は、拙速な変化ではなく、地に足をつけて一歩ずつ変化・進化していく、地道な覚悟を感じます。このあたりは近江商人の伝統が息づいていると感じます。
求める人物像の推察
求める人物像
企業ストーリー、中期経営計画から、求める人材は、地に足の着いたバランスを持ち、創造性と情熱も兼ね備えた人材です。
今ある事業の着実に拡充するバランス、理想形を思い描くバランス、それを丸紅が持つ資産や事業と掛け合わせて進化させることのできる創造性とバランス、そしてそれら情熱をもって行える人材ということです。
キーワード
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まとめ
企業理解イメージ図
これまでの概要、歴史、財務分析(ビジネスモデル)、中期経営計画、企業ストーリーを構造化し、イメージ図に落とし込むと下図のようになります。
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誠実、広い視野といったイメージだと思います。
このイメージを分解すると、創造性とバランス、情熱の全てが満遍なく見えてきます。
地に足がついた誠実さや正義感を持ちながら、プラットフォーマーとしての創造性、商人としての情熱を持ち合わせているということに分解できます。
なぜこのキーワードになっているかというと、
①伊藤忠兵衛にルーツを持ち、様々な合併、分離を繰り返しなが総合商社として活躍している歴史
②リスクある資源にも積極的に関与しながらバランスのとれた事業ポートフォリオをつくり、日本を代表する水準に利益を上げている財務状況
③長期を見越した堅実な企業価値向上を目指す中期経営計画
から、構成されたものです。
そのような歴史・現在(財務・ビジネスモデル)・未来(中期経営計画)となっているのは、企業ストーリーが商人由来の堅実なものと現代的な定義を加えたバランスのとれたものだからです。
業界内での志望理由
業界内で、住友商事を志望すべき理由としては、これまで見てきた特徴から、以下が考えられます。
1.事業プラットフォーマーという方向性
丸紅の強みを基盤に、今ある事業やネットワークをつなげ、社内外を連携させるという丸紅自身を事業プラットフォームをとらえる独自の方向性。
2. 既存事業の進化にフォーカスする堅実性
新しい領域への参入よりも、既存事業や有形無形資産を駆使し、それらを掛け合わせて進化させることに当面フォーカスするという他社とは異なる会社の方向性。
宿題:各社のHP、IR資料、中期経営計画を熟読し、理解を深めましょう。
【出典】:2019年12月同社HP、2019年12月まで発表の同社決算短信、中期経営計画、その他同社公表資料