業界研究
総合商社
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長らく高い就職活動における人気を維持する総合商社業界。かっこよく高収入のイメージです。でも、商社の仕事とは何か、わかりづらいという声も多いです。そこで今回は総合商社を研究します。業界概要
主な企業
総合商社には、三菱商事、三井物産、住友商事、伊藤忠商事、丸紅の5大総合商社、そこに豊田通商と双日を含めた七大総合商社、が主な企業です。
本業界のビジネス
総合商社はトレーディングと事業投資を生業としています。総合商社のような業態は、世界でも日本と韓国にしか存在しないといわれています。後段で詳述します。
総合商社と専門商社の違い
総合商社や専門商社ともに分類として卸売業となります。卸売業とは、供給者と需要者をつなぐ仲介を行う事業です。例えば、メーカーと店舗をつなぐ仲介などがそれにあたります。この仲介において、取り扱う商材が多岐にわたる商社を総合商社といい、特定の領域のみを扱う商社を専門商社、と言います。取り扱う商材の幅の違いということです。
総合商社のビジネスモデル
総合商社には、トレーディングと事業投資といわれる主に二つのビジネスモデルがあります。
トレーディング
トレーディングは、上記の卸売であり、これを国家間で行うと貿易になります。海外の資源・素材・製品を日本企業が購入できるように仲介する、またはその逆ということが基本的な事業です。
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このトレーディングには、需要者と供給者がそれぞれに依頼する場合がありますが、いずれにしても、依頼した側が、商社に手数料(口銭といわれます)を支払う必要があります。口銭を払ってでも商社に依頼したいメリットがあるわけです。
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このようなメリットを提供し、円滑に取引を仲介することで、口銭を得るというビジネスモデルです。上記のメリットはほとんどが国家間の取引=貿易であるため、商社=貿易というイメージですし、トレーディングの実態も貿易の仲介になっています。
事業投資
次に、事業投資を見ていきましょう。事業投資は、リスクを追って、資金と人材を支援し、事業を発展させることで、収益を上げるビジネスモデルです。
トレーディングは、あくまで仲介であるため、原則投資や出資のような出した資金が0になるような事業リスクを負わないビジネスモデルでした。
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この事業投資は、実は様々な種類があります。
トレーディング強化型事業投資
その名の通り、トレーディングを強化するために始まった事業投資で、最初に始まった事業投資の形です。取引を増加させるために、供給者または需要者に投資を行い、その強化を行う事業投資です。天然ガスの権益への投資などはもともとこの分類の事業投資が由来です。
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バリューチェーン型事業投資
トレーディング強化型事業投資の延長として、該当商材の生産から販売までの一連の流れをすべて押さえる事業投資です。これにより、当該商材を一手に担うことができるため、商社自身及びその商材の競争力を高めることができます。穀物の生産・加工・販売を一手に押さえる投資などがそれにあたります。
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長期保有型事業投資
トレーディング強化型やバリューチェーン構築型で事業投資の経験をつみ、事業投資そのもののノウハウが蓄積されたことで、トレーディングとかかわりのない純粋な事業投資が行われるようになります。リスクを取って事業を開発またはバリューアップするものです。現在の商社の主力がここであり、かっこいいイメージや高収益の源泉もここにあります。
投資対象は会社か事業です。例えば海外空港の買収と運営などが一例です。ただし、原則は経営権を支配しないマイナー出資であり、お金と重要な経営事項のための人を派遣するにとどまります。日々の事業の経営そのものには入り込みません。
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短期保有型事業投資
純粋事業投資の発展形として、今後価値があがる事業権や事業会社の株式を取得し、バリューアップしたのちに売却する事業投資です。一部保有のみでバリューアップに踏み込まないケースもあります。欧米での再生可能エネルギー事業の買収などがこれにあたります。これもおなじく、マイナー出資で重要な経営事項に対してのみ支援を行います。
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事業経営型事業投資
そして、直近の総合商社が今後の中心として見据えているものが、事業経営型事業投資です。長期保有型事業投資の発展形として、実際に事業の経営にまで踏み込んで行うものです。そのために、マイナー出資で重要な経営の意思決定のみに参画するのではなく、メジャー出資し、事業や会社の支配権を保持したうえで、日々の事業経営に踏み込みます。いわばお金と経営者を派遣する事業投資です。コンビニの経営が最もわかりやすい例でしょう。
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総合商社の簡単な歴史
では、なぜトレーディングと事業投資を行っているのでしょうか。なぜ事業投資には様々な種類があるのでしょうか。それは総合商社の歴史を見ればわかります。ごく簡単に見てみましょう。
総合商社は、元々は明治維新後の産業振興期に、海運による貿易業を営む会社、繊維の輸出入を行う会社などでした。三菱商事などは、坂本龍馬が設立した亀山社中にまでその系譜は遡ります。明治維新以降の産業振興政策と合致し、商社は海運業によって飛躍的に成長を遂げ、重工業など多岐に事業を展開する財閥を形成しました。
拡大にともなって、船舶を保有する海運会社と貿易の仲介と海外の情報の取得を行う商社とに部門が分かれました。しかし、第二次世界大戦終了後、GHQにより財閥解体がなされ、商社や財閥は徹底的に解体をされました。GHQの占領政策ののち、分解され細かく乱立していた旧商社は、合併を行い、総合商社となりました。
戦後は、戦後復興と高度成長に合わせて、鉄・自動車・重工業・エネルギー資源など国家の基盤を成す商材の輸出入の仲介を中心に発展を遂げました。ただ、石油危機後、流れが変わります。いわゆる商社冬の時代がやってきます。石油危機で企業のコスト意識が危機的な高さとなったこと、戦後に時間をかけてメーカーなどが海外に進出していたため、もはや商社の仲介は不要という流れになりました。その冬の時代を乗り切るために、トレーディングを進化させ、商社の価値を向上させるために、トレーディング強化型が生み出されました。
そして、バブル崩壊時に、同様にコスト意識の高まりとさらなるグローバル化の進展により、商社不要論が世の中を覆いました。ここで、商社自身と取り扱う商材の競争力を高めるために、バリューチェーン型事業投資が開発されました。
さらにIT革命で情報の非対称性が薄れ、グローバル化が一層進む中で、これまでの事業投資で蓄積したノウハウを生かし、純粋な事業投資が開発されました。そして現在、さらに価値を高めるため、事業経営型事業投資に向かっている、というのが商社の簡単な歴史です。
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総合商社の機能
ビジネスモデルと歴史を踏まえ、総合商社の機能を整理すると以下の図のようになります。
トレーディングは、買い手と売り手をつなぐ役割であり、つなぐために、仲介によりメリットを与える商取引機能、世界中の要人人脈をもつネットワーク機能、世界中の情報を持つ情報機能、取引を金融支援する金融機能があります。
事業投資は、事業がよりよくなるように支援する役割であり、人とお金を用いて行います。人の面では、事業の開発や支援機能、プロジェクトマネジメント機能、そして今後の中心は事業経営機能です。お金では投資機能です。経験豊富で知恵のある優秀な人材により、事業や会社をよりよくする支援を行います。
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求められる人物像
総合商社のビジネスモデルと機能から、必要な人材が導き出されます。
事業投資がすでに中心にあり、今後はさらに進化した事業経営型事業投資へ向かう以上、事業投資で活躍できる人材が必要です。
事業投資で活躍できる人材は、平たく言えば「知力のあるリーダー」だと思います。言い換えれば理想の社長を思い浮かべればよいと思います。
創造性に富み、たくましく、発想も行動力も豊かで、周囲を巻き込みつぎつぎと新しいことを成し遂げていくリーダー、といった具合ではないでしょうか。まさにそれが求めてられる人材です。
一方で、総合商社である以上、その基盤はあくまでトレーディングにあり、事業投資には劣後しますが、トレーディングで求められる要素も持っている必要があります。取引をつなぐ役割である以上、組織としては上述した機能の提供になりますが、個人としては、こいつに任せて大丈夫だという信頼を得る力だと思います。それは、営業力、コミュニケーション力、相手の懐に入る力、かわいがってもれる人間性、間に立ってまとめる取りまとめの能力などです。
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まとめ:総合商社の本質
総合商社の本質は、企業の課題解決パートナー
です。
その方法として、事業投資をトレーディングがあります。
それを生み出す源泉は、資金と人材です。特に、事業投資は、顧客企業の経営を行うこととなり、それに見合った人材が必要です。
したがって、総合商社は、経営を行えるほど信頼され、極めて優秀で、挑戦心に富み、経営という難題にも立ち向かえる強さや逞しさが必要です。
そのため、各社は、エントリーシートや面接を通じて、信頼されるような人かどうか、優秀かどうか、挑戦してきたかどうか、困難に立ち向かう経験してきたかどうか、を確認するわけです。つまるところ、将来経営者になれる人材を求めているということです。
それゆえに、人材が企業の価値の源泉故、高い報酬を支払うわけです。