業界研究
生命保険
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長らく就職活動における人気を維持する日本生命をはじめとする生命保険会社。なんとなく生命保険は知っているけど、仕事内容のイメージがわきづらいという声も多いです。そこで今回は生命保険業界を研究します。業界概要
主な企業
生命保険会社には、日本生命、第一生命、明治安田生命が主な企業です。外資系生命保険会社も多数日本に進出しています。また、ネット生保という新しい業態も発生しています。
生命保険のビジネス
生命保険会社は、生命保険の開発部門、営業(個人・法人)部門、保険金支払い部門、運用部門、海外部門(M&A等)の5部門があります。
生命保険と損害保険の違い
生命保険の対象は人であり、人が抱える志望や病気等のリスクに対して、「保障」を付与するビジネスです。一方で、損害保険の対象はモノ(物・事業)が抱えるリスクに対して、損害の補償を付与するビジネスです。対象が異なること、保障と補償という違いがあります。
業界のビジネスモデル
ビジネスモデル
生命保険業界は、当然ながら生命保険が商品です。そもそも生命保険とはなんでしょうか。
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生命保険は、保険加入者たちが保険料を納め、保険が適用される事象があった場合に、加入者が支払った資金プールから、保険金という救済資金が支払われるという相互扶助の保障システムです。
死亡や事故などの予測のつかない事象に対して、個人で対応しようとすると貯金をたくさんせねばなりません。しかし、たくさん貯金をできる人は限られた人になるため、みんなでお金を寄せ集めて、何かあった人を救済する、というものです。
その際に、年代が若ければリスクが低すぎて入らず、年代が高ければリスクが高すぎて保険料が高すぎて入れないため、保険料を平準化させ、若年層のうちに加入してもらうように設計されています。
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この相互扶助のビジネスモデルから、生命保険会社の業務プロセスが下図の通り導き出されます。
①定型商品型※マウスオーバーで拡大
②オーダーメード型※マウスオーバーで拡大
保険商品の開発
まずは、保険商品の開発を見てみましょう。開発には、リスク戦略と営業戦略が必要になるため、実際の数理モデルに基づく開発作業のみ、開発部隊の人間が行いますが、作業以外は営業と開発が連携・相談しながら行います。顧客は、個人(リテール)と法人(ホールセール)に分かれます。
<リテール>
個人向け商品の場合は、ターゲットのボリュームと訴求力(競争力)のバランスを取りながら、商品を開発していく必要があります。ターゲット戦略を定め、具体的に保険商品の設計(リスク対象・提供条件・保険金・保険料)を行います。マーケティング的な戦略を構築する力、戦略を踏まえて数理的に保険商品を設計開発する能力が求められます。※マウスオーバーで拡大
<ホールセール>
法人向け商品の場合は、オーダーメードでの商品開発が中心となります。もちろん中小企業向けなどにはあらかじめ商品を開発する場合もありリテールと同様です。重要なのは、オーダーメードの場合であり、そのプロセスは下図の通りです。各社の独自性はここに表れます。リスクプロファイルとは、何のリスクにどのくらいさらされているかを意味します。※マウスオーバーで拡大
これ作成したうえで、リスクとリターンの判断において各社の違いが現れます。例えば、下表のような各社の考えがあります。※マウスオーバーで拡大
営業
次に営業・販売を考えます。
<リテール>
日系企業の多くでは、個人宅への訪問販売等は、生保レディと呼ばれる営業実行部隊が行います。総合職の営業は、生保レディを統括する立場になります。エリアの振り分け、エリア内での戦略、営業実行部隊の統括、が主な業務です。また、現場から保険商品開発への意見だしを行うこともあります。
外資系企業の場合は、日系企業のように全方位をターゲットとはせず、富裕層をターゲットとする傾向にあるため、単に保険商品の紹介や営業にとどまらず、フィナンシャルプランナーとしてお金回りについて、総合的に相談にのるライフプランナー方式での営業を行います。
<ホールセール>
企業へのオーダーメード商品販売の場合は、営業を行いリスクプロファイルの作成に必要なヒアリングを行います。商品開発部門と連携し、顧客企業の課題を解消する商品を開発するために、情報収集と営業戦略の構築を行います。
運用
つぎに、集めた保険料の運用について考えます。
納められた保険料は、資金プールとなりますが、全額保険金の支払いに残しておく必要はありません。保険業法でソルベンシーマージン比率という、支払い余力に関する比率が設定されており、法規上はそれを越えていればよいわけです。また、過去の経験から、各社独自で設定していると思います。そのため、ソルベンシーマージン比率を超える部分の資金プールについては、寝かせていても何も生まないため、運用を行います。新聞等で、「機関投資家」という言葉を聞くと思います。投資を行っている組織を意味しますが、まさに生命保険会社は、最も大きい機関投資家の一つです。※マウスオーバーで拡大
投資に際しては、保険業法上でも資産の種類についての割合が定められており、厳格かつ安全な運用が求められます。したがって、厳密な数理モデルを用いて理論的に投資を行います。それゆえ、運用舞台に在籍する人材は、超高学歴で数学系で修士や博士を取得した、ごく限られた少数の人間です。そのため、一般的な就職活動においては、あまり関係のない部隊となります。
保険金支払い
保険金を支払う事案が発生した場合は、保険金支払い事務業務が発生します。基本的には保障ですので、適用条件に適合していれば全額支払うこととなるため、適用条件に合致しているかの状況確認が基本となります。
海外
プロセスには出てきませんが、新聞を読んでいると、生命保険会社が海外の生命保険会社を買収した、などというニュースを見ることがあると思います。これはなぜ発生しているのでしょうか。
生命保険は、若年者が負担し、老年者が受け取る、という基本的な構成であるため、支払い層(若年者)が常に受取層(老年者)を上回っていなければ、保険料収入よりも保険金支払いが上回り、保険会社が破綻してしまいます。一方で、日本は若年層が減り続け、超高齢化社会です。さらには人口減も予期されています。※マウスオーバーで拡大
したがって、支払い層の確保、事業の拡大のためには、海外に進出するしかないわけです。海外に0から進出することは時間と労力を要するため、海外の生命保険会社を買収する動きが各社で少しづつ行われている、という状況です。したがって、生命保険会社に就職する場合、基本的には文系なら営業、理系なら開発、共通で財務に強い人材ならば海外、という振り分けになると思われます。※マウスオーバーで拡大
本業界の簡単な歴史
なぜ保険というものができたのでしょうか。生命保険と保険会社の歴史を見ればわかります。ごく簡単に見てみましょう。生命保険は中世ヨーロッパの都市で組織された同業者組合である「ギルド」ではじまったともいわれています。18世紀になると「ハレー彗星」で有名な天文学者エドモンド・ハレーによって、実際の死亡率に基づいた生命表が作られました。この生命表によって、合理的に保険料計算した「生命保険」が作られました。日本では1868年に福澤諭吉が著書「西洋旅案内」の中で欧米の文化の一つとして近代保険制度(損害保険、生命保険)を紹介したことが発端となっています。
戦前までは株式会社が主流でしたが、戦後、保険業法に基づき相互会社に変更されました。戦後期に、女性営業職員による募集が考案され、戦争未亡人の働き口として供給が豊富だったこともあり、各社がこぞってセールスレディによる護送船団方式による職域営業を採用するようになりました。バブル期になると、外資系生命保険会社が次々と参入、生命保険業の税制・法律・社会保障などの関連知識を備えた生命保険とプロとライフプラン表の作成・収支分析・家計相談、その中での生命保険の相談、というファイナンシャルプランナーを掛け合わせ、ライフプランナー型営業スタイルにより、新しい価値と新しいチャネルにより、富裕層を中心にシェアを拡大しています。
本業界の機能
ビジネスモデルと歴史を踏まえ、生命保険会社の機能を整理すると以下の図のようになります。
制御不能なリスクに対する保障が本質的な価値です。保障対象や内容や方法によって保険が細かく分かれますが、対象は大きく分類すれば死亡・病気・生存の3つに分類されると思います。そして、保険によっては、満期時に元本(保険料払い込み総額)と運用益含めて払い戻されるものものあり、一部には運用という機能もあります。※マウスオーバーで拡大
求められる人物像
これまでの業界研究から、必要な人材が導き出されます。
全体的には、人の事業に踏み込んで損害に関するコンサルティングを行うため、何よりも、親身なれること、性格が穏やかで人当たりが良いこと、といった人から信頼されるバランスの取れた人間性を求められます。※マウスオーバーで拡大
営業についていえば、野球のキャッチャーが務まる人だと思います。状況を正確に把握し、自分と相手を俯瞰し、何が最適かを見分け、盤石な守りを固めるリーダーがキャッチャーです。
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まとめ:
生命保険会社の本質は、ライフプランパートナー
です。
その主たる方法として、生命保険による制御不能なリスクの保障があります。
それを生み出す源泉は、人材です。ライフプランという踏み込んだ領域を取り扱うわけです。
したがって、生命保険会社は、ライフプランパートナーになるほど信頼される人間的な魅力とソリューション提供能力が必要です。
そのため、各社は、エントリーシートや面接を通じて、信頼されるような人かどうか、言い換えれば一生懸命頑張れる人かどうかを徹底して確認します。