業界研究
メガバンク
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長らく高い就職活動における人気を維持してきたメガバンク業界。ただ、昨今は人員削減などのニュースが耳に入ってきており、何となく不安を感じている人がいると思います。そもそもメガバンク業界はどうなっているのか、今度どうなっていくのでしょうか。そこで今回はメガバンク業界を研究します。業界概要
メガバンクの定義
メガバンクとは、三菱UFJフィナンシャルグループといったグループを指すのか、三菱UFJ銀行といったグループの中核となる銀行を指すのか、文脈によって分かれます。本記事では、グループの中核となる銀行を意味します。
一方で、メガバンクは、各社とも、グループの親会社を上場させ、銀行は100%子会社化させ非上場としています。そのため、IR資料を当たる場合は、親会社であるグループ会社に当たる必要があります。これは、総合的な金融サービスを提供するグループになることを各社が志向しているためです。その中核かつ総合的に対応するのがメガバンクです。
したがって、メガバンクは銀行を意味しますが、銀行≒フィナンシャルグループと捉えて差支えはありません。
主な企業
メガバンク会社は、三菱UFJ銀行・三井住友銀行・みずほ銀行が主な企業です。
ビジネス
メガバンク会社は、規模が非常に大きく、機能も多岐にわたっているため、何をしているのかの全容を把握することが簡単ではありません。大きく分けると、リテール、ホールセール、グローバル、投資銀行、市場、コーポレートの6部門にわかれます。
メガバンクと地方銀行
メガバンク(都市銀行)と地方銀行の違いは、まずは対象エリアと対象顧客です。地方銀行の場合は、その地方と周辺及び東京と大阪などの大都市のみカバーします。そして、対象顧客は、基本的にはその地方に縁がある顧客です。一方で、メガバンクは、対象エリアも顧客もグローバルにカバーします。結果として、規模も圧倒的に異なります。それゆえ、強みも異なります。地方銀行は、その地域に狭くも強く濃いネットワークと情報を有しています。メガバンクはその逆です。
商業銀行と投資銀行
近年、メガバンクを中心に銀行も投資銀行業務に参入しており、敷居があいまいになってきています。投資銀行業務は、財務戦略のアドバイスと実行支援、金融商品の販売や運用といった「直接金融」にかかわる業務を行います。直接金融とは、マーケット(投資家)から直接資金を融通させる方法をいいます。
一方で、商業銀行は、一旦預金者を介して商業銀行が資金を集め、集めた資金をもとに商業銀行の判断と裁量により顧客に資金融通するという「間接金融」にかかわる業務を行います。
メガバンクの場合は、銀行と証券が一体でグループ経営を行っており、案件の発生の窓口兼専門性の低い案件は銀行の投資銀行部門が対応し、専門性の高い案件はグループの証券会社が対応するといったすみわけのようです。
業界のビジネスモデル
ビジネスモデル
メガバンク業界は、融資をやっているのはわかるが、具体的にはよくわからない、それ以外に何をやっているのかわからない、という声が多いです。大きすぎて理解をしにくいということだと思います。
ビジネスモデルを簡単に図解すると下図の通りです
メガバンクは、預金者からお金を集め、預金により融資行う、という銀行の祖業である間接金融がその中心にあります。つまり金融への仲介者ということになります。預金者に支払う支払利息と融資で得られる貸付利息の差が収益となります。※マウスオーバーで拡大
また、顧客のため、あるいは自社の預金により、市場で運用も行っております。その他、近年では、M&Aアドバイザリーなどの投資銀行業務(直接金融)も行っております。
このビジネスモデルが成り立つ本質は、決済機能にあります。預金が集まらなければ、融資や運用するお金が生まれません。預金者は決済機能や資金を預かって保全する機能に価値を感じ預け入れます。
部門
ビジネスモデルから、メガバンク会社の業務を簡単に体系化すると下図の通り導き出されます。それゆえ、大きく部門を分けると、リテール・ホールセール・市場・海外・都市銀行部門、そしてそれを下支えするコーポレート部門となるわけです。具体的な業務は、各部門において様々にあります。いずれにせよ、「金融ソリューション」を仲介する、ということが本質です。※マウスオーバーで拡大
金融ソリューションの仲介・提供においては、その内容により下図のように部門の特徴を整理できます。この特徴に基づき、採用も、おおむね以下のように分類されています。※マウスオーバーで拡大
①リテール部門の採用:総合職採用、地域限定や事務職採用
②選抜採用:市場・投資銀行・海外部門、ホールセール部門の中心部署に配属する選抜採用
③オープン採用:ホールセール部門の採用(総合職採用)
直近では、IT人材の採用にも積極的です。
オープン採用の場合は、各支店営業部に配属され、銀行の祖業である融資業務を担当します。そこから、様々な融資業務経験を様々な支店で経験したのちに、本社勤務や海外部門などの、より知識集約的で高度な業務を行うようにステップアップしていきます。
業務
それでは、各業務を見てみましょう。
リテール
個人向け商品の場合は、店舗での窓口対応が中心となります。来店者から、様々な相談が持ちかけられるので、それに対応していきます。また、書類が多いため書類にまつわるバックオフィス業務も多数あります。したがって、基本的には、お客様に親身になって接客相談する良い意味での労働集約型業務となります。店舗マネジメントや資産運用の相談など、一部知識集約的な業務もあります。ただし、接客以外の事務作業系の純粋労働集約業務は総じて自動化の方向です。
ホールセール
融資は、コーポレートローンやプロジェクトファイナンスやMBOファイナンスなど、融資対象と目的によってさまざまなローンがありますが、基本的な業務プロセスは共通です。業務プロセスは下図の通りです。リテールと同様、まずは顧客企業の状況や要望を理解し、相談に乗るリレーションシップマネジメントが重要です。そのうえで、顧客企業から要望があるか、より良くするために、ニーズを充足する融資ソリューションを提案します。提案がまとまれば、行内に融資承認を得るための稟議取得に向け対応します。※マウスオーバーで拡大
行内がまとまった後は、複数行で融資を行うシンジケート(協調融資)で、融資団をまとめる立場(メジャーリードアレンジャー)にある場合は、銀行団の取りまとめを行います。それらが完了すると晴れて融資実行となります。
その後は、プロセスの最初に戻り、貸付先の状況管理と監視(モニタリング営業)をしながら、管理監督とさらなる提案を行っていきます。
一昔前は、担保さえ取れれば固定金利で融資を行うといった定型融資を中心に行っておりました。そのため、業務に創造性や思考力が入り込む余地がなく、信頼できる人間性とある程度の財務知識があれば、粛々と業務をこなすことで問題がありませんでした。
しかし、現在は、低成長で放っておいても融資拡大するような状況になく、また将来はICTテクノロジ―の発展の影響で、銀行の存在価値が希薄化する恐れがでています(末尾で当社の見解を提示します)。
したがって、現在の銀行では、信頼される人間性のみならず、顧客企業の現状と課題を把握する理解力、それを解消する方策と融資ソリューションを提案できる構想力、社内外をまとめる力、が求められます。
海外
海外業務には、トレードファイナンスや日系企業の海外財務支援などの従来からある一般業務と海外銀行の買収という特殊業務があります。特殊業務については、国内の人口やGDPが停滞傾向にあり、国内市場は頭打ちの状況であること、企業活動が非常にグローバル化していることから、各銀行は積極的に海外に進出しています。海外の商業銀行を買収し、新たな預金源と融資先の確保を行うわけです。※マウスオーバーで拡大
買収を行う段階と買収後に経営・運営を行う(PMI)の二段階があります。いずれも非常に高度な業務であることや伸びしろや重要性から、この両業務については、非常に優秀な一部の社員が配置されます。買収後の経営業務の下で、運営の改善などを行う運営業務も含まれます。こちらは、経営業務の下にあり、難易度が相対的に低いため、一部の優秀な社員以外も行います。
市場
顧客依頼に基づき、金融市場で金融商品の売買を行う金融マーケット業務です。リスクヘッジとして行われます。為替、デリバティブなどがその一例です。いずれも高度な金融市場への理解が求められます。※マウスオーバーで拡大
最初の段階は、営業を行い顧客の要望を理解することですが、ここでもある程度の金融知識を有していないと理解すらできない状況になります。その後の、提案の作成と実行については、金融市場に精通し、さらに数理モデルを駆使してソリューションを構築できる非常に高度な能力を要求されます。営業は総合的な領域にとどまりますが、提案の作成・実行については専門的な領域になってきます。
投資銀行業務
近年は、メガバンクが積極的に投資銀行業務に進出しています。具体的には、M&A、IPOといった財務アドバイザリー業務です。メガバンクは、グループで事業を行い、総合金融サービスグループを目指しております。そのため、総合的な対応は銀行で、専門性が高い案件はグループ内の各専門会社に案件配分し、グループ内での案件配分の最適化を行っているためと考えられます。
投資銀行業務は、高度な知識集約業務であるため、本来は投資銀行会社による特殊専門的な技能を有した社員が行ってきました。専門性が比較的浅い案件を銀行でピックするとはいえ、本質的には難度が高い業務であるため、銀行の中でも一部の優秀な社員が行います。
本業界の簡単な歴史
日本の大手銀行は、バブル景気が崩壊した1990年代以降、不良債権で急速に体力を失っていきました。その原因となる、不透明な融資体制、護送船団方式により喪失した国際競争力などの是正のため1996年に金融ビッグバンを行い、外資の参入等金融市場は大きく自由化されました。さらに、1998年には独占禁止法が改正され持株会社の設立が可能になり、統合のための制度的環境が整備されました。
バブル崩壊後に山一證券をはじめとする銀行や証券会社が倒産していく危機感の中、銀行の統合による規模の経済性、多角化による経済性、コスト削減効果等により見込まれる経営改善効果を期待した各銀行は、制度変更により、1999年以降雪崩を打って再編へ走り出しました。こうして1970年代から1980年代に「都銀13行」「大手20行」と呼ばれた各行は、段階的な合併劇を繰り返した末、3大メガバンク(三菱UFJフィナンシャルグループ、三井住友フィナンシャルグループ、みずほフィナンシャルグループ)体制に落ち着きました。
現在は、親会社であるフィナンシャルグループを上場させ、銀行は100%子会社化し、グループ経営を行う方向となっています。
本業界の機能
概要とビジネスモデルを踏まえ、メガバンクの機能を整理すると以下の図のようになります。
本質的な価値は、決済です。そのうえで、基本的価値である融資を筆頭とした「金融ソリューション」機能があります。総合金融サービスグループの中核として、融資にとどまらず、金融市場への仲介や投資銀行業務など幅広く機能を持っています。さらには、専門性を要する案件の場合は、グループ内の専業会社へアクセスする窓口機能も果たします。※マウスオーバーで拡大
求められる人物像
これまでの業界研究から、必要な人材が導き出されます。
全体的には、人の事業に踏み込んで金融に関するコンサルティングを行うため、何よりも、親身なれること、性格が穏やかで人当たりが良いこと、といった人から信頼されるバランスの取れた人間性を求められます。そのうえで、変革の時期にある為、創造性、思考力も求められます。※マウスオーバーで拡大
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まとめ
メガバンクの本質は、金融ソリューション提供・仲介者提供
です。
その主たる方法として、融資があります。それを生み出す源泉は、決済と資金保全機能による資金の集約による資金力と、資金を活用して金融サービスを提供する人材です。金融という踏み込んだ領域を取り扱うため、メガバンクは、金融パートナーになるほど信頼される人間的な魅力とソリューション提供能力が必要です。
そのため、各社は、エントリーシートや面接を通じて、信頼されるような人かどうか、言い換えれば一生懸命頑張れる人かどうかを徹底して確認します。
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コラム:銀行の未来
劇的な変化が予想される業界ゆえ、特別に将来予測に関する内容を参考用に記載します。ただし、当社としての見解が多分に入るため、おまけの扱いとしています。こういう見解もあるんだという参考程度の取り扱いとしてください。
銀行の本質は、決済機能と資金保全機能による資金の集約でした。集約した資金をどう使うかというところで、融資を中心に発展してきました。
しかし、ICT技術の飛躍的発展が予期されており、ブロックチェーンなどにより通貨の電子化とその保全が十分になされるようになれば、銀行に預ける意味がなくなってしまいます。そうなると、銀行の決済機能は低下し、預金が集まらなくなる可能性があります。預金が集まらなくなれば、融資などで運用する資金が減少するため、破壊的なダメージを受けかねません。
資金を使う側においても、融資をオンライン申請できるようになり、AIで自動審査ができるようになれば、融資申請の手間が大きく減少するため、多数の申請を行い条件面でのみ選定されるようになります。また、クラウドファンディングのような代替資金調達方法もさらに出てくると考えられます。運用でも、AIが発展し自動運用ができるようになれば、銀行よりも安い手数料で運用する企業に委託されるようになるかもしれません。
結局のところ、銀行にしかない独自性の本質的な源泉は、資金の集約なのです。資金の集約は貨幣に依存しており、貨幣がなくなると崩れます。資金集約と信用創造があるからこそ、融資も運用も行えるわけです。
一方で、ICTテクノロジーの進化はだれにも止められません。発展の結果、資金集約がなくなった先に、銀行はどうあるべきなのでしょうか。この問いは、銀行の独自性・価値をどうしていくべきか、という問いに変換されます。
各社の企業研究の中期経営計画の項に記載していますが、現在のところ、各社「総合化」と「適切なIT化」と「海外銀行の買収による規模の拡大」が経営方針です。
当社としては、そこに加えて、現状の金融仲介者(機能提供)の立場から、銀行自身が価値を生み出せる価値提供者になることだと思います。その方法は、価値を人に落とし込むか、徹底的なテクノロジー銀行になるか、の二つに一つ、あるいはその両方だと思います。
前者は、具体的には、銀行員が銀行員ではなくなり、財務・リスク・事業のスペシャリストになることだと思います。経営における守りの面のスペシャリストです。平たく言えば、各社にCFOを派遣するCFO派遣会社です。ちょうど三菱商事がCEO派遣会社のような姿を目指していますが、その財務版です。
後者は、ICT時代の決済と資金保全機能を自ら作り出すことです。そのうえで、その市場を制覇することです。しかし、後者はこれまでの銀行の強みが完全に生きる分野ではないですし、市場制覇は現実的ではありません。どれだけ注力して行っても、現在とは比較にならないほどの資金の分散は生じると思います。
そのため、前者のCFO派遣会社になることが、最も有効と現時点では考えています。顧客企業の成長にコミットし、経営の中に入り込み、必要に応じて融資などの自行の金融サービスを使用する。そうなるにせよならないにせよ、銀行という業界が劇的に変化することだけは間違いありません。それに応じて、銀行員としても劇的に変化することが求められます。テクノロジーに最も代替されやすい定量的で論理的な領域を超えていかねばなりません。
将来がどうなるにせよ、銀行員は銀行員であることをやめ、財務・リスク・事業経営パートナーになることを求められていると思います。より具体的には、顧客企業の進化のために何ができるかを主体的に徹底的に考えること、無担保であってもリスクとリターンを見極め、融資すべきものにはするリスク引き受けと見極めの能力、融資実行後リスクを顕在化させないリスク・事業マネジメント能力が間違いなく必要になると思います。
当社としては、銀行を目指す学生の方には、上記を頭に入れ、銀行に入るとか銀行員になるという意識ではなく、財務・リスク・事業パートナー会社に入る、財務・リスク・事業のプロフェッショナルになる、という考え方をもって、入社してほしいと願っています。そうすれば、日々の一つ一つの細かいタスクからでも、リスクとリターン、判断、を常に意識して業務を行うことができ、あなた自身の市場価値を向上させることにつながると思います。