三井住友銀行(SMFG)
メガバンクの一角、三井住友銀行(SMFG)について研究を行います。
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会社概要
会社概要
設立:1919年
設立:1909年(株式会社三井銀行設立)
資本金:約17,709億円
拠点数:国内444 海外19
従業員数:単体約28,401名
事業内容(事業部門)
リテール部門、ホールセール部門、国際部門、市場営業部門、ファイナンシャル・ソリューション部門、管理部門(コーポレートサービス部門、コンプライアンス部門、コーポレートスタッフ部門、リスク管理部門)の6部門。
フィナンシャル・ソリューション部門が特徴的で、ストラクチャードファイナンス・M&Aアドバイザリといった投資銀行業務を中心とした高度なフィナンシャルサービスを集めた部門。
歴史
源流は、住友銀行と三井銀行にまで遡ります。合併の流れは下図の通り。現代においては、2001年に三井銀行と住友銀行が合併し三井住友銀行が発足、2002年には三井住友フィナンシャルグループが設立されました。※マウスオーバーで拡大
財務分析
各メガバンクとも、親会社であるグループ会社を上場させ、銀行そのものは100%子会社化し、単体での決算公表は行っていないため、グループの財務情報による比較です。
損益状況(収益性)
基礎情報
<グループ>
<グループ>
売り上げに相当する連結業務粗利益、営業利益に相当する連結業務純益、純利系ともに安定にあります。ただ、純利益は7千億円と三菱UFJフィナンシャル・グループ(以下、smfg)には1千億円超差をつけられています。
※単位:億円
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<単体>
銀行を見てみると、グループのほとんどを占めていることがわかります。経費率がsmfgと比較して非常に低く、それゆえ利益率も非常に高い状況です。効率的な経営を行っていることが読み取れます。
※単位:億円
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財務状況(健全性)
自己資本比率
<グループ>
総自己資本比率、Tier1比率ともに安定して推移しており、堅調な財務体質と言えます。
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預貸額
<単体>
預金・貸出額ともに安定的に推移しており、堅調な預貸状況と言えます。※億円
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地域別貸出額
<グループ>
やや米州に寄った地域構成となっています。欧州・中近東・アフリカは9割近くを西欧が占めています。西欧と米州に強みを持つといえるでしょう。ただし、金額的には、smfgと少し差が空いています。※億円
※マウスオーバーで拡大※3年平均
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事業構造(安定性)
セグメント業務純益
<グループ>
リテールに安定感を欠くものの、法人、国際、市場と3部門は非常に安定しており、安定的な事業ポートフォリオとなっています。※百万円
※マウスオーバーで拡大※2018年度
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会社別利益
<グループ>
銀行が圧倒的な割合を占めています。銀行業以外ではリースファイナンスが堅調です。銀行連結に寄った利益構造となっています。※億円
※マウスオーバーで拡大※2018年度
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総じて、銀行が非常に強く、銀行自体はホールセールに強くリテールに弱く、一定グローバル金融化しているものの米州にやや寄っている状況です。全般的にMUFGに水をあけられている状況です。
企業ストーリー
三井住友フィナンシャルグループは、経営理念のみが提示されています。経営理念は使命を記載しているためミッション、そしてコーポレートロゴに込められた思いをバリューと読みかえます。なお、目指す姿を描いたバリューはありませんでした。
ミッション
一層価値あるサービスを提供、事業の発展と株主価値の永続的な拡大といった、進化に関する表現が中心です。また、勤勉で意欲的な社員といった情熱に関する表現があることが特徴的です。※マウスオーバーで拡大
バリュー
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コーポレートロゴに込められた思いがバリューに近い内容でしたので、バリューと読みかえます。先進的・革新的・知性という進化に関する表現、若々しさ・やさしさという情熱に関する表現、伝統・信頼・安定感という堅実性に関する表現が統合しています。※マウスオーバーで拡大
ミッションとバリューから、銀行では珍しく情熱、そして進化を大切にしていることが読み取れます。
総じて、smfgとの比較では、堅実性に関する表現がなく、情熱に関する表現がある点が異なります。その意味では、総合商社業界の三菱と三井の違いとおおむね共通であり、情熱と進化を大切にする旧三井財閥の企業姿勢を受け継いでいる企業ストーリーです。
また、smfgは、進化の定義をグローバル金融グループとしていましたが、三井住友フィナンシャルグループでは、企業ストーリーにおいては進化の定義がなされていません。より柔軟に社員それぞれが自分で定義をしていく、あるいは数年の中期で変えていく、という柔軟さの表れと思います。
その意味では、smfgは、全員で同じ方向を同じ方法を共有して進んでいく戦略的グループだとすれば、三井住友フィナンシャルグループは戦略性には欠けるもののより自由で柔軟なグループと言えると思います。
企業ストーリーで使用される言葉を分類整理すると、下図のように表現することができると思います。経営理念において、進化や情熱に関する表現が中心にある点に、特徴的な企業姿勢が見受けられます。※マウスオーバーで拡大
進化と情熱を大切にしているため、リスクを恐れずに進む姿勢となっており、それが以下のような経営判断に現れていると思います。
①ホールセール部門の強化・高度化
→投資銀行業務やストラクチャードファイナンスといった高度な業務を部門として切り出し統合。その前段として旧日興Citi証券(日興コーディアル証券後、現SMBC日興証券)の投資銀行部門の取り込み。
②カードローン事業の強化
→SMBCコンシューマーファイナンスのみならず、モビット、プロミスの取り込み。
smfgは、グローバル金融化のための、モルガンスタンレーやアユタヤ銀行の取り込みでしたが、三井住友フィナンシャルグループはあくまで、高度化の方向での取り込みであり、目的により違いがあると思われます。
中期経営計画
方針
タイトルは、「SMBC Group Next Stage」です。テーマは以下の通りです。
「新体制の下、グループ総合力の結集と構造改革の推進により持続的成長を実現」
総合力の結集と構造改革という手段により、あくまで「持続的成長の実現」です。今あるものを進化させていく、ということです。
戦略
方針を踏まえた戦略は以下の通りです。規律ある事業展開、強みにフォーカスした成長、運営高度化と足腰を「強化」するための戦略です。※マウスオーバーで拡大
施策
①Disciplineについて
事業ポートフォリオの転換が中心です。付随して、リスクアセットの質の展開と生産性向上(デジタル化・グループ一体化)が述べられています。従来フォーカスしてきた、リテール(特にカードローン)や投資銀行業務は、優先度は高いですが最優先にはなく、資産運用やグローバルプロダクトといった市場側が最優先に来ています。リテールとホールセール(投資銀行業務)の強化・高度化が一定完了したので、次は市場側の強化・高度化を行う、というように理解できます。※マウスオーバーで拡大
その意味では、ホールセールと市場の高度化により、外資系の投資銀行のモデルに近づいていく方向性の中期経営計画と見受けられます。
②Forcusについて
強みにフォーカスしていく中で、具体的な対象を特定しています。各領域で分類していますが、中身を見ると、①一体化(グループ、銀行と証券)、②生産性(デジタル化)、③投資銀行業務、の大きく3つを説明しています。※マウスオーバーで拡大
③Integrationについて
グループ一体化とデジタライゼーションが述べられています。
グループ一体化は、下図の通り、一体経営となる組織に変更することが述べられています。デジタライゼーションは、おおむね他グループと同じです。ただし、新規ビジネスの創造が大きな目的の一つの位置づけになっている一方で、スタートアップへの出資といった外部連携が特段述べられていない点が、smfgとの差異です。※マウスオーバーで拡大
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全体的には、企業ストーリーで見受けられた情熱や革新的な姿勢に比して、中期経営計画は堅実かつ着実な進化という印象であり、バランスをとっていると思われます。強化がテーマであること、グループ一体化とデジタライゼーションという方針までおおむね同じです。
違いが出るのは、smfgは最優先としてデジタライゼーションを提示している一方、三井住友フィナンシャルグループは、事業ポートフォリオの転換を最優先に掲げている点だと思われます。財務分析と掛け合わせて考えると、三井住友フィナンシャルグループが、smfgよりも経費率がかなり低く、利益率が高かったことから、より経営の効率性と収益性を重要視していることが感じ取れます。
求める人物像の推察
求める人物像
企業ストーリー、歴史、財務分析、中期経営計画を統合すると、求める人材は、先進的でパワーと知性を持った人材です。銀行という社会の公器である以上、堅実性は基盤であり必ず必要となりますが、それ以上に高度化・強化(グループ一体化・デジタル化)に寄与する人材を求めています。高度化の為には、知性と先進性が重要になりますし、勤勉で主体的な情熱を発揮することが必要となる為と思われます。
キーワード
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まとめ
企業理解イメージ図
これまでの概要、歴史、財務分析(ビジネスモデル)、中期経営計画、企業ストーリーを構造化し、イメージ図に落とし込むと下図のようになります。
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厳しい、実力主義、若手にも仕事を任せる柔軟さ、といったイメージだと思います。このイメージを分解すると、進化と情熱です。情熱をもって、投資銀行業務といった高度な事業・会社への進化、ということに分解できます。
なぜこのキーワードになっているかというと、
①関西商人に源流がある歴史
②高度な投資銀行業務、リスクあるリテールなどの困難な事業に強みがある財務状況
③さらに高度になろうとしている将来計画
から、構成されたものです。
そのような歴史・現在(財務・ビジネスモデル)・未来(中期経営計画)となっているのは、企業ストーリーが進化と情熱を謳う内容であるためです。
業界内での志望理由
企業分解イメージ図を踏まえ、現在・未来・企業ストーリーの3階層を焦点に、業界内で同社を志望すべき理由を考えます。
1.高度な業務が得意な金融グループ
(現在=財務状況から)投資銀行業務を得意とする、高度な金融グループ。
2.強化(資産運用・市場)とさらなる高度化(外資系投資銀行化)
(未来=中期経営計画から)これまで強化してきた投資銀行業務とリスクの高いリテールローンのくわえて、資産運用や市場側の強化を図る内容で、外資系投資銀行のような姿を目指していると感じられる。
3.進化と情熱
(企業ストーリー・未来・現在から)自由闊達で柔軟な企業風土。
宿題:各社のHP、IR資料、中期経営計画を熟読し、理解を深めましょう。
【出典】:2019年12月同社HP、2019年12月まで発表の同社決算短信、中期経営計画、その他同社公表資料