日本航空(JAL)
日本の航空業界の二大巨頭の一つである日本航空について研究を行います。
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日本航空は、日本航空が各社を連結子会社として日本航空グループとしており、一体経営をしています。したがって、日本航空グループとしての研究とします。
会社概要
会社概要
1951年設立
資本金 約3,559億円
従業員数 単体12,750名 連結約34,003名
事業内容
定期航空運送事業及び不定期航空運送事業
航空機使用事業
その他附帯する又は関連する一切の事業
歴史
1951年に、日本航空株式会社(旧会社)が資本金1億円をもって設立。翌年10月から自主運航による国内線定期航空輸送事業を開始。1953年には、日本航空株式会社法の定めるところにより、20億円の資本金をもって日本航空株式会社が設立。旧会社を引き継ぎ、国内幹線の運営にあたるとともにわが国唯一の国際線定期航空運送事業の免許会社として発足。1963年、日本航空整備株式会社を吸収合併。1964年、日東航空株式会社、富士航空株式会社、北日本航空株式会社の合併により日本国内航空株式会社設立。1971年、日本国内航空株式会社と東亜航空株式会社の合併により東亜国内航空株式会社設立。1987年には完全民営化。2006年には、日本航空ジャパン(旧、東亜国内航空)と合併。
しかし、2010年に経営破綻に陥り、会社更生法の申し立てを実施。経営破綻の原因は、効率の悪い大型機器の大量保有、多角化によるホテル等の投資の失敗などによるずさんな経営管理体制にあったとされます。そこで、当時の政権の下、稲森和夫氏を社長に招き、本件のために設立された政府系ファンドの企業再生支援機構主導のもと再生を行いました。
再生内容は、5,000億円を超える債務放棄、公的資金3,500億円の注入による財務強化を行うとともに、大型機から中型機への切り替え、事業の選択と集中、リストラ、路線ごとの収支状況を監視する制度など経営管理体制の改革も行いました。
こうした再生計画の取り組みの結果、2010年度は1,337億円の営業赤字であったが、2012年度は2,049億円の営業黒字へとV字回復を成し遂げました。これにより、2012年に東京証券取引所に再上場を果たしました。
財務比較
日本航空が様々な会社を連結させており、日本航空の決算=日本航空グループの決算と捉えることができます。
基礎データ
<グループ>
売上規模ではANAと差が開いています。一方で、利益では逆転しており、利益率は倍近い差をつけています。非常に収益性の高い企業といえます。経営破綻以前は日本最古にして最大の航空会社であったことを考えると、経営破綻を経験したことで、客層がANAに流れ取り戻し切れていない一方で、経営体質や体制を徹底的に強化したことで収益性が飛躍的に高まった結果と捉えることができます。※単位:億円
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部門別収益
<グループ>
航空事業以外のセグメントは設けていません。経営破綻で航空事業に集中と選択を行ったためと思われます。※単位:億円
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航空事業内部門別売上
<グループ>
※単位:億円
※マウスオーバーで拡大国内・国際線が同程度です。その他が大きいことが特徴です。その他は基本的には旅行売上(JAL PACK)とカード事業(JALカード)であり、旅行及び関連事業にも注力していることがわかります。なお、現時点ではLCCはありません。※2018年度
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国内線 収益性
<グループ>
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※ASK=総座席数×総輸送距離
※RPK=総輸送旅客数×総輸送距離旅客数・ASK・RPK・旅客収入と規模に関する部分はANAを下回っていますが、座席利用率は上回っています。それゆえイールド・ユニットレベニューも上回っており、収益性の高さの要因となっています。※マウスオーバーで拡大
ASKやRPKから、輸送の総量や総旅客数が少ないことがわかります。これは、経営破綻後大型機から中型機へ切り替えたことに由来するものと思われます。それが逆に高い座席利用率と収益性につながっています。経営再建計画が今もなお効果を発揮しているということでしょう。
国際線 収益性
<グループ>
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※ASK=総座席数×総輸送距離
※RPK=総輸送旅客数×総輸送距離国内線よりも旅客数は劣りますが、単価が高いこと、収益性の高い路線に集中できるため、収益額は同等程度であり、収益性はむしろ上回ります。国内線の場合は、公共インフラとして収益性が低い路線を維持する必要があるため、収益性が国内線の方が低いものと思われます。※マウスオーバーで拡大
ANAとの比較では、国内線ほど、旅客数・旅客収入・ASK・RPKと規模に関する指標に差がありません。収益性では、利用率はJALの方が高いですが、単価はANAの方が高く、結果として収益性ではANAが若干上回っています。これは、高単価路線をANAの方が飛ばしているということだと思われます。
国際線路線
<グループ>
ハワイ・グアム便の割合が特徴的です。長らく、高収益路線である本便はJALが圧倒的なシェアを占めています。ただし、直近ANAも大型旅客機を本便に投入するなどとシェア争奪戦が激化しています。米州や欧州線の割合がANAと比べて低く、ANAの方が長距離・高単価路線の割合が高いです。これは国際線収益性の項での分析で得た仮説と同じでした。※単位:億円
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総じて、収益性の高さが特徴的で、単価を引っ張れるブランド力と高い座席利用率を実現する効率的な経営が行われていることがわかります。
企業ストーリー
日本航空は、企業理念とJALフィロソフィを経営理念として定めています。企業理念をミッション、JALフィロソフィをバリューと読み替えます。
日本航空の企業ストーリーは、経営破綻後の2011年に制定されました。JALの再建を託された稲森和夫氏は、最大の問題は意識だととらえていました。したがって、企業理念とJALフィロソフィを定めるにあたり、各部門からリーダーを集め、稲森氏主導のもと、社員が一丸となり制定されました。そして単に制定にとどまらず、浸透させることに大きな力を割いています。
その意味では、経営破綻を経験したという特殊な歴史があるため、通常の会社以上に企業ストーリーを非常に重視していると思われます。日本航空志望者は特に意識を割いて企業ストーリーを理解する必要があります。ミッション
「全社員の物心両面の幸福を追求」が最初にあるところが特徴的です。顧客に最高のサービスと企業価値を高めて社会の進歩に発展するという目標を達成するためには、なによりもまず「全社員の幸福」が重要だというものです。これは、経営破綻前は社員の意識が低かったことによるものと思われます。※マウスオーバーで拡大
バリュー
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内容に稲森氏らしさが全面にでています。特に一つ目の方程式は、稲森氏が提唱した有名な成功の方程式です。各章のタイトルが特徴的です。素晴らしい顧客サービスを行い、社会の発展に貢献するには、何よりもまず社員が素晴らしい人生を送ること、その社員たちが集まって素晴らしいJALを作ることが重要であるという思いが伝わってきます。素晴らしさの定義・内容は、各項目にある通りです。※マウスオーバーで拡大
総じて、情熱が最優先に、バランスと創造性も高いレベルで意識されている企業ストーリーだと感じます。
企業ストーリーで使用される言葉を分類整理すると、下図のように表現することができると思います。※マウスオーバーで拡大
中期経営計画
日本航空は、2016年に、2017年度から2020年に向けて4年間の中期経営計画を発表しています。
方針
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「挑戦、そして成長へ」をテーマとし、世界のJALと一歩先を行く価値の創造による成長を大きな目標に据えています。創造的かつ情熱的な方針です。
戦略
ポートフォリオ見直しの内容です。紙面のほとんどがポートフォリオマネジメントに割かれていました。まずは、企業としてのバランスを重視し足元をきっちり固める姿勢が見えます。※マウスオーバーで拡大
フルサービスキャリアの事業をさらに進化させることと新事業の創造の二点が主な戦略です。航空事業においては、LCC事業を取り込むANAとは対照的です。
施策
国内線
①羽田・伊丹といった主要幹線の供給拡大
②座席利用率及び単価の現状維持
→新機材の導入・ラウンジのリニューアル、JAL SKY NEXT(新しい高級座席)の導入による商品・サービス強化で対応
国際線
①座席利用率及び単価の拡大・維持
②海外需要の取り込みとプレミアム戦略の推進
→北米・アジアといった高イールド路線の供給増、JAL SKY SUITE導入でイールド押上げ
新事業
ベンチャーとの協業、空港周辺領域を含めた地方創生事業に取り組むとしています。
共通
また、共通の施策として、人財の育成と先端テクノロジーの活用によるイノベーション創出に取り組むとしています。
総じて、国内国際とも着実な(特に高級化の方向で)維持発展をさせながら、新規事業を創造する、という堅実さと創造性のバランスが取れた内容です。新規事業はベンチャーとの協業や地方創生など自らリスクを負う領域に踏み込むとしており、先進的・創造的な姿勢も見られます。
求める人物像の推察
求める人物像
企業ストーリー、歴史、財務分析、中期経営計画を統合すると、求められている人材は、「小さな稲森和夫氏」です。
経営破綻時の再生者があの稲森和夫氏であり、情熱と高潔な精神や志が強く求められます。そのうえで、人々のくらしによりそい、より良くしていくことのできる創造性が必要です。そのためには、誠実であること、日々主体的な小さな創意工夫を行う力があるか、今まで行ってきたか、高潔な人間性があるかが重要です。
上記を踏まえて、各部門の業務内容に基づき、上記の求める人材像のうちの焦点が異なります。
<採用部門について>
日本航空は、下表の部門採用を行っています。
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これら運航に直接的にかかわる部分を日本航空が行い、下表のような運航の周辺業務をグループ会社が行うという構造になっています。※マウスオーバーで拡大
キーワード
あえて優先順位をつけるなら上図のイメージですが、情熱、バランス、創造性の全てに関するキーワードが重要となってきます。※マウスオーバーで拡大
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まとめ
企業理解イメージ図
これまでの概要、歴史、財務分析(ビジネスモデル)、中期経営計画、企業ストーリーを構造化し、イメージ図に落とし込むと下図のようになります。
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経営破綻、プレミアム、稲森氏といったイメージだと思います。熱意、本気、美しい心、挑戦と創造、というような言葉がキーワードとなります。
なぜこのキーワードになっているかというと、
①経営破綻を乗り越えた歴史
②プレミアム戦略を中心とし、高い収益性を実現した財務状況
③着実な強化と新事業創造というという将来計画
から、構成されたものです。
そのような歴史・現在(財務・ビジネスモデル)・未来(中期経営計画)となっているのは、企業ストーリーが稲森和夫氏の定めた情熱・高潔さ・創造をバランスよく高いレベルで定め、未来への創造を中心においたものとなっているからです。
業界内での志望理由
企業分解イメージ図を踏まえ、現在・未来・企業ストーリーの3階層を焦点に、業界内で同社を志望すべき理由を考えます。
1.航空業界No.1(収益性・利益No.1)
(現在=財務状況から)旅行業のみならず、ホテルやテーマパークなど多様な事業構造。
2.新事業の拡大という創造的な方向性
(未来=中期経営計画から)ベンチャーとの協業や地方創生事業を拡大するというリスクを取って挑戦と創造を行う将来計画。むしろ、国内を空港周辺含めて活性化していくという方向性。
3.情熱・高潔さ・創造性あふれる稲森和夫氏の哲学が基盤にある企業姿勢
(企業ストーリー・未来・現在から)経営破綻を稲森和夫氏の哲学を基盤に全社員で一丸となって乗り越えた要因となっている独自の企業ストーリー、そしてそれが根付いている企業姿勢。
宿題:各社のHP、IR資料、中期経営計画を熟読し、理解を深めましょう。
【出典】:2019年12月同社HP、2019年12月まで発表の同社決算短信、中期経営計画、その他同社公表資料