全日本空輸(ANA)
日本の航空業界の二大巨頭の一つである全日本空輸(全日空)について研究を行います。
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全日空は持ち株制をとっており、ANAホールディングス(ANA HD)が、航空事業を行う中核企業である全日本空輸をはじめ各社を連結子会社としており、ANAグループとして一体経営をしています。したがって、グループとしての研究とし、会社としては、ANAHD及び全日本空輸を研究します。
会社概要
会社概要
<ANAホールディングス>
1952年設立(持ち株会社制への移行に伴い2013年に全日本空輸から商号変更)
資本金 約3,188億円
従業員数 単体187名 連結43,466名(2019年3月末時点)
<全日本空輸>
2012年設立(持ち株会社制への移行に伴い新設)
資本金 250億円
従業員数 14,242名(2019年3月末時点)
事業内容
<ANAホールディングス>
グループ経営及びグループ会社の経営支援等
<全日本空輸>
定期航空運送事業及び不定期航空運送事業
航空機使用事業
その他附帯する又は関連する一切の事業
歴史
1952年、第2次世界大戦により壊滅したわが国の定期航空事業を再興することを目的に、日本ヘリコプター輸送株式会社を設立。日本ヘリコプター輸送株式会社のルーツは、戦前の朝日新聞航空部で上司部下の関係であった美土路昌一(後に全日空社長、朝日新聞社長)と中野勝義(後に全日空副社長)が中心となり、終戦後の民間航空関係者の失業救済を目的として、1945年に設立した社団法人興民社にあります。1953年に定期・不定期航空運送事業免許を取得。1957年、社名を全日本空輸に変更。1963年藤田航空株式会社を吸収合併。1971年には、東京―香港間で国際線不定期便の運行開始。1986年国際定期便を運行開始。1999年にはスターアライアンスに加盟。2001年の世界同時多発テロや翌年のSARSなどによる航空需要の落ち込みを受け、業績が悪化し経営再建を行いました。その後は順調に発展を続け、2011年のJALの経営破綻により顧客を取り込み、規模の面では国内トップの航空会社となりました。
なお、全日空(ANA)の成長の過程で特徴的な事として、総代理店制度の採用が挙げられます。これは、航空輸送事業の黎明期に、各就航地の有力企業と提携し、航空会社の業務のうち、市内業務(営業活動)と空港業務(ハンドリング業務)を業務委託するという画期的な制度でした。
財務比較
ANA HDが様々な会社を連結させており、全日空の決算=ANA HD(ANAグループ)の決算と捉えることができます。
基礎データ
<グループ>
売上規模ではJALに差をつけています。規模の観点では国内No.1の航空会社です。一方で、利益では逆転されており、利益率は半分程度です。※単位:億円
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部門別収益
<グループ>
航空事業以外に、航空関連事業、旅行事業、商社事業、その他のセグメントを設けています。但し、その割合の9割は航空事業であり、JALと差異はありません。※単位:億円
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航空事業内部門別売上
<グループ>
※単位:億円
※マウスオーバーで拡大国内・国際線が同程度です。LCC事業があることが特徴です。※2018年度
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国内線 収益性
<グループ>
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※ASK=総座席数×総輸送距離
※RPK=総輸送旅客数×総輸送距離旅客数・ASK・RPK・旅客収入と規模に関する部分はJALを上回っていますが、座席利用率は下回っています。それゆえイールド・ユニットレベニューも下回っています。ASKやRPKから、輸送の総量や総旅客数が多いことがわかります。JALと比較し大型機が多いことがその要因と思われます。※マウスオーバーで拡大
国際線 収益性
<グループ>
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※ASK=総座席数×総輸送距離
※RPK=総輸送旅客数×総輸送距離国内線よりも旅客数は劣りますが、単価が高いこと、収益性の高い路線に集中できるため、収益額は同等程度であり、収益性はむしろ上回ります。国内線の場合は、公共インフラとして収益性が低い路線を維持する必要があるため、収益性が国内線の方が高いものと思われます。※マウスオーバーで拡大
JALとの比較では、国内線ほど、旅客数・旅客収入・ASK・RPKと規模に関する指標に差がありません。収益性では、利用率はJALの方が高いですが、単価はANAの方が高く、結果として収益性ではANAが若干上回っています。これは、高単価路線(米州・欧州など)をANAの方が飛ばしているということだと思われます。
国際線路線
<グループ>
長距離高単価路線である米州・欧州路線が高いことが特徴的です。これは国際線収益性の項での分析で得た仮説と同じでした。また、JALの特徴であったハワイ・グアム線では大きく差が開いています。ただし、直近ANAも大型旅客機を本便に投入するなどとシェア争奪戦が激化しています。※単位:億円
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総じて、収益の規模の大きさが特徴的です。国内線は収益性でJALの後塵を拝していますが、国際線では収益性でも上回っており、国際線に強い航空会社と言えます。
企業ストーリー
全日空は、ANAグループとして、グループ経営理念、グループビジョン、グループ行動指針を企業理念とANAフィロソフィを経営理念として定めています。グループ経営理念をミッション、グループビジョンをビジョン、グループ行動指針をバリューと読み替えます。ミッション
「安心と信頼」が経営の根幹に位置づけられています。心の翼という特徴的な表現があります。この定義は、「挑戦し続ける」「強く生まれ変わる」「いつもお客様に寄り添う」気持ち、としています。バランスとエモーショナルな表現が特徴的です。※マウスオーバーで拡大
ビジョン
世界をリードし続ける確固たる地位を築くことを目標に設定しています。その意味合いは、顧客満足を高め、ひとつでも多くの笑顔を生み出し、様々な価値の創造を通じて自立した強い企業として発展し世界をリードすること、としています。強くグローバルを志向する点にJALとの違いがあります。※マウスオーバーで拡大
バリュー
非常に親しみやすく平易な表現が特徴的です。また、安全・お客様視点・社会への責任・チームスピリットとほとんどがバランスや健全性に関する内容です。※マウスオーバーで拡大
総じて、堅実さといったバランスが最優先に、情熱と創造性が同じ程度に続いています。JALとの比較では、JALが高潔で情熱的な内容であったのに対し、ANAは平易で親しみやすくバランスが最優先の内容です。
企業ストーリーで使用される言葉を分類整理すると、下図のように表現することができると思います。※マウスオーバーで拡大
中期経営計画
ANAグループは、2018年度から2022年に向けて5年間の中期経営計画を発表しています。
方針
「足元を固め、未来へ動く」
堅実な方針です。経営の基盤である安全の堅持、定時性をはじめとした基本品質に徹底的にこだわり、安全と品質・サービスを追求するとともに、競争力の源泉である人財や成長領域への投資を積極的に進めていくとしています。
戦略
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航空事業の強化、選択と集中及び新事業開発、ICT活用の3つの戦略を上げています。
施策
具体的な方法・施策の全体像は下図の通りです。※マウスオーバーで拡大
一つ一つ見ていきます。
戦略1:「エアライン収益基盤の拡充と最適ポートフォリオの追求」
国内線:現状維持ないしは強化 「ANAグループの収益基盤を維持・向上」
① サービス・プロダクト強化
② 機材小型化
国際線:拡大 「成長の柱として路線ネットワークを拡大」
① 首都圏空港(羽田・成田)を拠点に事業を拡大
② ホワイトスポットへの進出、提携戦略の推進
③ 新機材の導入
LCC:拡大 「バニラエア・Peachの連携強化」「中距離路線へ進出」
① 短距離事業領域の拡大:ローカル線を中心に需要を開拓
② 中距離路線へ進出 : ANAグループの空白領域へ
戦略2:「既存事業の選択・集中と新たな事業ドメインの創造」
顧客データを活かした新事業の開発を行う方向性です。革新的な事業の創造というよりは、今ある無形資産を活用する「開発」に近い意味合いでの新事業創造です。※マウスオーバーで拡大
戦略3:「オープンイノベーションとICT技術の活用」
革新的技術とオープンイノベーションによる『超スマート社会』の実現に取り組むとしています。※マウスオーバーで拡大
総じて、足元を固めつつ、新しい取り組みも行うという、バランスのとれた方向性です。その内容は、「グローバルとLCCへの強い意識、先端ICT技術を活かした新事業への取り組み」が中心です。
JALは、航空事業の着実な強化の他、空港周辺地域の活性化を含めた地方創生に取り組むというリスクを取って新事業を行う方向性や、グローバルよりむしろ国内を意識した内容であったのに対し、ANAはグローバルとICTの方向性であり、違いが出ています。これは、それぞれ企業ストーリーの違いがそのまま出ていると思われます。
求める人物像の推察
求める人物像
企業ストーリー、歴史、財務分析、中期経営計画を統合すると、求められている人材は、「親しみやすく、グローバル意識と先端ICT技術へのアンテナが高い、堅実でバランス感覚のある人材」です。企業ストーリーにあるような、顧客目線と世界への意識を強くもつことが求められます。
そのうえで、各部門の業務内容に基づき、上記の求める人材像のうちの焦点が異なります。
<採用部門について>
ANAグループで航空事業を管轄する中核企業である全日本空輸は、下表の部門採用を行っています。全日空の説明を転記します。
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これら運航に直接的にかかわる部分を日本航空が行い、下表のような運航の周辺業務をグループ会社が行うという構造になっています。※マウスオーバーで拡大
キーワード
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まとめ
企業理解イメージ図
これまでの概要、歴史、財務分析(ビジネスモデル)、中期経営計画、企業ストーリーを構造化し、イメージ図に落とし込むと下図のようになります。
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親しみやすいというイメージだと思います。あんしん、信頼、お客様視点、明るく元気に!というような言葉がキーワードとなります。
なぜこのキーワードになっているかというと、
① 連携により発展してきた歴史
② 規模No.1であり国際線に強い財務状況
③ 着実な強化、グローバル拡大、データとICT技術活用による新事業という将来計画
から、構成されたものです。
そのような歴史・現在(財務・ビジネスモデル)・未来(中期経営計画)となっているのは、企業ストーリーが平易で親しみやすく、堅実性やバランス感覚を中心においたものとなっているからです。
業界内での志望理由
企業分解イメージ図を踏まえ、現在・未来・企業ストーリーの3階層を焦点に、業界内で同社を志望すべき理由を考えます。
1.航空業界No.1(規模No.1)
(現在=財務状況から)規模では航空業界No.1。
2.堅実で着実な強化(特にグローバル化)という方向性
(未来=中期経営計画から)堅実に航空事業を強化していく、特に世界のリーディングエアラインになるというビジョンの下、強い国際線をさらに拡大するというグローバル化、という方向性。
3.堅実で着実な強化(特にグローバル化)という方向性
(企業ストーリー・未来・現在から)親しみやすく平易であり、内容はエモーショナルで顧客第一であることが特徴的な企業ストーリーと企業姿勢。
宿題:各社のHP、IR資料、中期経営計画を熟読し、理解を深めましょう。
【出典】:2019年12月同社HP、2019年12月まで発表の同社決算短信、中期経営計画、その他同社公表資料