博報堂
大手総合広告代理店業界で電通と並びトップ2の博報堂について研究を行います。
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博報堂は、博報堂DYホールディングの完全子会社であり、ホールディングの中では総合広告事業を管轄しています。博報堂が企業研究の対象であるため、原則博報堂について企業研究を行いながら、必要に応じてホールディングスにも触れていきます。
会社概要
会社概要
1895年創業(1924年設立、2003年ホールディングス設立)
資本金 博報堂:約358億円(ホールディングス:約103億円)
従業員数 博報堂 約3,614名 連結約2万名
事業内容
マーケティング、クリエイティブ、プロモーション、PR、コンサルティング、事業開発/イノベーション、メディア&コンテンツ、テクノロジー・R&D
歴史
1895年(明治28年)、瀬木博尚によって、教育雑誌の広告取次店として設立されました。社名の「博報堂」由来は、瀬木の経営理念「博く、華客に奉仕報酬する」からきています。1924年に株式会社に改組。教育分野を基盤に、広告取次の領域を拡大し広告代理店として大きく成長していきます。2003年には、大広・読売広告社と経営統合し、現在の「博報堂DYホールディングス」を設立しました。ここから国内1位の電通と合わせて、広告代理店の二大巨頭という意味で「電博」(でんぱく)と称されているようになりました。
財務比較
財務分析は、博報堂DYホールディングスのみが上場会社であるため、ホールディングスの決算情報をもとに、ホールディングス全体及び博報堂単体について研究を行います。
基礎データ
<グループ>
1兆円を超える売り上げで広告業界内では電通に次ぐ2位です。電通の1/3と売上高については差が開いています。一方で、利益率が2%強と若干電通よりも高く、広告業界で用いられるオペレーティングマージン(営業利益/総利益)も電通を上回っており、収益性が高く効率的な経営を行っていることがうかがえます。※単位:億円(3年平均値)
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<単体>
グループ内の7割程度を占める売り上げです。利益率は電通単体と比較すると大きな差が開いています。これは、電通が価値設計といった高単価業務の割合が大きいことに起因するものと推察されます。※単位:億円
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地域別売上総利益
<グループ>
※単位:億円
※マウスオーバーで拡大電通とは異なり、圧倒的に国内事業が占めています。2018年度は8割が国内です。海外のオペレーティングマージンがマイナスにあり、赤字であることが推察されます。海外事業は規模としても利益率としても苦手分野と言えます。逆に国内オペレーティングマージンは27%-30%と非常に高く電通を上回っています。※2018年度
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媒体・部門別売上高
<単体>
※単位:億円
※マウスオーバーで拡大媒体・部門別においては、従来型の広告代理店業である価値伝達を行う4マス広告(TV、新聞、雑誌、ラジオ)からの売り上げが、約4割強を構成しています。電通とは異なり、特に減少することなく安定している点特徴です。新しい価値設計を行う事業領域は3割強を占めています。そして残り2割強がデジタル広告という構成です。デジタル広告が電通よりも1割高い構成で、デジタルに強みをもっています。※2018年度
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全体としては、既存の価値伝達事業も同じ利益規模を維持しており、各事業のバランスが取れています。全方位的にバランスよく注力し、結果バランスの取れた部門売り上げの構成となっていると読み取れます。
企業ストーリー
博報堂は、2014年に中長期ビジョンとして企業ビジョンを新たに設定しました。また、設立以来受け継がれているフィロソフィーをミッション、VIに込められた思いをバリューと読みかえます。
ビジョン
5年後、10年後に向けて、博報堂自身が「生活者とともに未来をつくる」存在になっていたいという、強い意思表示です。未来の発明の定義は、「広告をつくる」を超えて、生活者とともに、「未来」つまり新しい価値をつくるということです。※マウスオーバーで拡大
ミッション
設立以来、博報堂は「生活者発想」を発想の原点とし、「パートナー主義」をビジネスの原点とし、フィロソフィーとしています。そしてそれぞれの独自の定義をしています。 ①生活者発想※マウスオーバーで拡大
「生活者発想」とは、人を、単に「消費者」として捉えるのではなく、多様化した社会の中で主体性を持って生きる「生活者」として全方位的に捉え、深く洞察することから新しい価値を創造していこうという考え方です。生活者を誰よりも深く知っているからこそ、クライアントと生活者、さらには社会との架け橋をつくれると考えています。
②パートナー主義
「パートナー主義」とは、「責任あるパートナーとしてクライアントとともに語りあい、行動し、創造する」ことです。生活者発想という異なる視点を持った上で課題を共有できるからこそ、パートナーになれると考えています。
そして、ビジョンの実現に向け、30年以上にわたり培ってきた「生活者発想」を「より具体的に、未来を描き出す手法」として、また「パートナー主義」を「生活者、企業、メディアなどあらゆるプレイヤーとの共創の仕組み」として、それぞれ進化させていくことを表明しています。
バリュー
①顧客に対して、常に最善のサービスを提供し、ビジネス価値の向上に貢献する。
②メディアの革新と向き合い、メディア価値の向上に貢献する。
③世界的にネットワークを展開し、サービス網の充実を図る。
④生活者から発想することで、人々の次世代の豊さを創造し、社会の発展に寄与する。
⑤自由と自立を尊重し、多様な個性とチーム力を価値創造の厳選とする。
⑥自立と連携の精神で新しい挑戦を続け、マーケティング の進化とイノベーション創出する、世界一の企業集団を目指す。
⑦企業価値の継続的な向上を図り、株主からの信頼と期待に応える。
革新、価値、創造、挑戦、イノベーションといった創造性に関する表現が中心にあり、そのうえで自立、チーム力、連携、信頼と期待に応えるといったバランスに関する表現が続いています。
総じて、広告業界というビジネスモデル及び市場環境により、創造性や革新性が求められるため当然創造性が最優先にはありますが、教育領域から始まった歴史に起因し、バランスにも重きを置いている企業ストーリーであることが読み取れます。電通と比較して、よりバランスを重要視している企業ストーリーだと感じます。その結果が、先に確認したバランスのとれた財務状況ということだと考えられます。
企業ストーリーで使用される言葉を分類整理すると、下図のように表現することができると思います。※マウスオーバーで拡大
中期経営計画
博報堂は、博報堂単体としては中期経営計画を公表しておらず、博報堂DYホールディングスとして2019年に、2019年度から2023年度の五か年の中期経営計画を公表しています。したがって、ホールディングスの中期経営計画を研究します。
ホールディングスの中期経営計画は、その前提として、未来は生活の全てにデジタルが絡む「オールデジタル化」社会となると設定しています。テクノロジー進化による産業構造の転換、企業活動のボーダレス化が加速していくと予想をしています。
方針
この背景の中で、生活者発想を基軸に、クリエイティビティ、統合力、データ/テクノロジー活用力を融合することで、オールデジタル時代における企業のマーケティングの進化と、イノベーション創出をリードする方針となっています。※マウスオーバーで拡大
戦略
上記方針を具体化する戦略として、3つの成長基盤の強化を挙げ、そのためにデータ/テクノロジー/インフラ/人材/M&Aなど幅広く投資を積極化するという戦略です。※マウスオーバーで拡大
施策
3つの成長基盤の強化という戦略を具現化する方法論を確認します。
成長基盤1. デジタル領域でのリーディングポジションの確立
環境変化に合わせ、あらゆる側面でデジタル化を行うという内容です。※マウスオーバーで拡大
①については、テクノロジーを活用しデータ・システムを構築しそれを活用するというものです。②は、既存メディアのデジタル化、そして新たなデジタルタッチポイントへの対応を行うということです。※マウスオーバーで拡大
③は、デジタルマーケティングの拡大であり、そのために、高度デジタルマーケティングエージェンシーの拡充、リアルとデジタルを統合した包括的なマーケティングの拡充、そして統合メディア事業会社の基盤化です。※マウスオーバーで拡大
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成長基盤2. ボーダレス化する企業活動への対応強化
3つの要素を起点に海外事業を強化し、顧客のパートナーとしてボーダーレス化する企業活動への対応体制を拡充していくということです。グローバルマーケティングカンパニーになろうというよりは、顧客企業のボーダレス化に合わせた進化であり、バランスをとりながら進化をしようとしている姿勢が読み取れます。※マウスオーバーで拡大
成長基盤3:外部連携によるイノベーションの加速
これまでの取引先企業に加え、ベンチャー企業を含め先進的なテクノロジー企業など外部企業との「連携基盤」を構築し、提供サービス、および自社のイノベーションを加速するということです。※マウスオーバーで拡大
総じて、博報堂DYホールディングスは、デジタル化対応が中心です。テクノロジーを取り込み活用することで進化しよう、という方向性です。合わせて顧客企業の変化にともなう海外事業の強化です。
電通は、事業開発や事業投資といったリスクを取って、事業領域や事業プロセスを広げて提供価値を上げる革新的な方向性でしたが、博報堂は、テクノロジーの取り込みという今あるものをよりうまく生かすバランスの取れた中期経営計画であることがわかります。
企業ストーリーで見られた両社の企業姿勢の違いがそのまま中期経営計画に出ていると思われます。
求める人物像の推察
求める人物像
財務分析、企業ストーリー、中期経営計画を統合して考えると、求められる人材は、「テクノロジーへの理解と活用を基盤に、データを踏まえて、デジタルを取り込み、統合したマーケティングを行うことのできる価値のプロフェッショナル」です。
そのため、テクノロジーやデジタルといった最先端へのアンテナがあること、データを活用しきることのできる分析力、分析を踏まえてデジタルとリアルを統合させるマーケティングを行うことのできる俯瞰的な視野と知力、そしてそれを社内外問わず周囲と連携して進めることのできるチームワーク力や人間性、が求められます。
キーワード
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まとめ
企業理解イメージ図
これまでの概要、歴史、財務分析(ビジネスモデル)、中期経営計画、企業ストーリーを構造化し、イメージ図に落とし込むと下図のようになります。
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イメージは、クリエイティブ・切れ者集団・キツいといったところだと思います。このイメージを分解すると、創造性、バランスです。より詳しく言うと、バランスよく豊富なデータの力で、創造的なアイデアを作り出し、パートナーの未来を明るくする、というキーワードとなります。
なぜこのキーワードになっているかというと、以下3点から構成されたものです。
①教育領域から始まった堅実で真面目な歴史
②価値伝達、価値設計、デジタルとバランスの取れた事業構造
③テクノロジーを活用した最先端デジタルマーケティング会社になるという中期経営計画
そのような歴史・現在(財務・ビジネスモデル)・未来(中期経営計画)となっているのは、企業ストーリーがバランスと創造性に重きをおいたものとなっているからです。
業界内での志望理由
企業分解イメージ図を踏まえ、現在・未来・企業ストーリーの3階層を焦点に、業界内で同社を志望すべき理由を考えます。
1.バランスの取れた事業構造
(現在=財務状況から)価値伝達、価値設計、デジタルとバランスのとれた事業構造。
2.最先端デジタルマーケティング企業という方向性
(未来=中期経営計画から)最先端テクノロジーとデジタルに深い理解をもち、新しいデジタルマーケティングを創っていく方向性。
3.創造性とバランスの融合が最適な企業風土
(企業ストーリー・未来・現在から)創立当時から、生活者発想とパートナー主義を貫いてきたからこそ、顧客に寄り添い、創造性的な解決策を提供してきた創造性とバランスが最適に融合した企業風土。
宿題:各社のHP、IR資料、中期経営計画を熟読し、理解を深めましょう。
【出典】:2019年12月同社HP、2019年12月まで発表の同社決算短信、中期経営計画、その他同社公表資料