電通
国内広告市場において、長年リーディングポジションを取ってきた電通について研究を行います。
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会社概要
会社概要
1901年創立
資本金約747億円
本社所在地 〒105-7001 東京都港区東新橋1-8-1
従業員数 単体従業員数 6,921人 連結従業員数 62,608人(2018年12月末)
事業内容
「Integrated Communication Design」を事業領域としたコミュニケーション関連の統合的ソリューションの提供、経営・事業コンサルティングなど。
事業部門は、マーケティング、デジタルマーケティング、クリエーティブ、プロモーション、メディア、コンテンツ、PR、グローバル・ビジネスの8事業部門。
歴史
電通は1901年に光永星郎によって設立されました。会社名は「日本広告株式会社」で、これが電通の前身となります。設立当初は、マスコミは新聞とラジオであった時代です。したがって、家庭訪問を含めた市場調査のデータを取得し分析する調査部、調査データをもとに新聞およびラジオにおける広告宣伝を作成する宣伝技術部がありました。
その後、テレビや雑誌の普及により、対象とする媒体が広がっていきます。それに応じて、4マスといわれるテレビ・新聞・ラジオ・雑誌業者の広告枠を広告主に営業し手数料をメディアと呼ばれる新たなビジネスモデルも行うようになりました。このような、主要メディアにおける広告宣伝の制作と、メディアが持つ広告枠の販売代理という、現在の事業の形を築いたのは、4代目の社長である吉田秀雄氏です。その際に、企業名も現在の株式会社電通に変更しました。以降、広告代理店として発展をつづけました。しかし、バブル崩壊以降、広告宣伝市場は、経済成長の低迷に応じて伸び悩んだため、海外進出を開始します。2010年には欧州・米州事業を管轄する「電通ネットワーク・ウエスト」を設置、2013年には英国の広告会社イージス・グループを買収し、「電通イージス・ネットワーク社」を設立もしました。
さらに、2000年代に入ると、インターネットの普及により、デジタル広告が浸透します。それに伴い、従来の伝統的なメディアにおける広告代理の価値が希薄化していきます。そのため、広告代理店業界研究での説明の通り、従来の広告制作代理=価値の伝達、というビジネスモデルから、価値の設計にまで入り込むビジネスモデルへ進化を続けています。また、手法もリアルとデジタルを統合させた包括的な手法に進化させています。
財務比較
電通が様々な会社を連結させており、電通の決算=電通グループの決算と捉えることができます。
基礎データ
<グループ>
5兆円を超える売り上げで日本を代表する水準です。広告業界内では圧倒的である一方で、利益率が2%程度と低く、広告業界で用いられるオペレーティングマージン(営業利益/総利益)は20%程度ですが、直近下降傾向にあります。総じて利益率が博報堂と比較するとやや低めにでています。これは、電通グループとしての数値が、電通単体と比較しかなり低く出ているため、海外事業の拡大=まずは利益率を度外視して参画・拡大していくことによるものと思われます。※単位:億円(3年平均値)
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<単体>
電通単体では、売り上げは1.5兆円で、グループの半分も占めていません。売上総利益も同水準です。一方で、純利益では多くの割合も占めており、圧倒的な最終利益の稼ぎ頭となっています。そのため、利益率は4-6%と非常に高く、オペレーティングマージンも20-27%と高水準です。※単位:億円
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地域別売上総利益
<グループ>
※単位:億円
※マウスオーバーで拡大地域別売上総利益を見てみると、まさに海外事業は利益率を置いて規模の拡大を目指している傾向が見て取れます。国内事業(電通単体)は、2018年においてはもはや40%を切っており、海外事業の総利益割合が極めて高いです。グローバルカンパニーと言えます。しかし、当期純利益は電通単体とさして変わりないことから、海外事業では最終利益を上げきる水準にまで達していないと考えられます。※2018年度
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媒体・部門別売上高
<単体>
※単位:億円
※マウスオーバーで拡大従来型の広告代理店業である価値伝達を行う4マス広告(TV、新聞、雑誌、ラジオ)からの収益が、約半分を構成しています。しかし、4マス広告は年を追うごとに減り続けています。一方で、新しい価値設計を行う事業領域は4割を占めています。そして残り1割がデジタル広告という構成です。電通が、価値設計を重視していること、そこに強みを持っていることが財務分析に現れています。※2018年度
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企業ストーリー
電通は、企業理念として、スローガンとステートメントを定めています。内容から、スローガンをビジョン、ステートメントをバリューと読みかえます。また、アニュアルレポート内に、ミッションに類似する内容が盛り込まれていたので、切り出してミッションと位置付けます。
ビジョン
人や社会に対して、新しい価値をもたらすための様々な変革を行っていくことを宣言しています。新し価値によって、お客様にGood Innovationを提供するということとを目指していると読み取れます。※マウスオーバーで拡大
電通のアニュアルレポートにおいても、目指す姿として、「顧客のビジネス・トランスフォーメーションを実現する最良のパートナーとして、社会をより豊かにする多様な価値の創造をリードし、新しい時代を切り拓いていく企業集団となること」となっており、イノベーション=トランスフォーメーション=新しい価値であり、価値創造企業を目指していることがわかります。
ミッション
アニュアルレポートにて、上記ビジョンをどのような考え方で実現していくかの方針が記載されています。以下三点です。※マウスオーバーで拡大
①グローバルな社会課題を発見し、問題喚起をしていくこと。
②顧客と電通グループ全体で協働していくこと。
③最適なソリューションを提供することで、サステナブルな社会の実現に貢献していくこと。
新たな価値を生み出して課題を解決していくことことで、サステイナブルな社会の実現に貢献することを使命としていることがわかります。
バリュー
自社のビジョンとミッションを達成するために、電通では、アイデア・技術・企業家精神を発揮していくことがコーポレートステートメントで宣言されています。企業家精神という言葉に非常に特徴がでており、まさに価値設計・価値創造、つまり新しい事業を企てる精神が重要だということです。※マウスオーバーで拡大
企業ストーリーで使用される言葉を分類整理すると、下図のように表現することができると思います。※マウスオーバーで拡大
中期経営計画
電通は、2018年に、2020年までの中期方針を公表しています。2020年以降を新たな持続的成長フェーズと位置づけ、2020年までをその準備期間と位置付けています。
方針
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電通の中期経営計画は、はじめに社会全体が激しく変化している中で、電通グループ自身の自己革新、すなわち事業そのものの変革を強調しています。※マウスオーバーで拡大
戦略
国内事業
事業ドメインの拡張と事業開発・投資への挑戦について、具体的には下図のような変革が記載されています。広告事業の強化をしながら、事業領域の拡大と事業開発・投資へ踏み込んでいくチャレンジングな戦略です。※マウスオーバーで拡大
海外事業
海外事業に関しては、「100%デジタルエコノミーに対応した継続的な成長」をテーマに、価値設計側へ踏み込んでいく先戦略です。
施策
国内事業
①事業ドメインの拡張
●Marketing Technology
顧客の事業を継続的に発展させるために、「顧客のカスタマーデータをどのように集め、どのように活用してゆくか のコンサルティング」、「カスタマーデータを安全に管理するためのクラウドシステムの設計や構築」、そして、「コミュニケーションと流通チャネルの統合データドリブンプランニングによる優れたカスタマーエクスペリエンスの創出」、といった領域で顧客のパートナーとなることを目指していくようです。
●Business Design
国内グループのコア・コンピタンス(ネットワーク・価値へのノウハウ、マーケティングデータなど)を生かした経営変革支援、新事業開発支援を行うことです。また、開発に関しては、メディア媒体業者と一緒になって番組やキャラクターの開発であったり、スポーツ競技の新たな演出方法を開発したりすることも積極的に行っていくようです。
②事業開発・事業投資への挑戦
クライアント、メディア、プラットフォーマー、ライツホルダー、コンテンツメーカー、各種団体、公共機関など、多種多様な顧客と密接な関係を有するネットワーク活かし、電通自社の人材や資金も投じながら協働して新たな価値を創造していく方法です。
海外事業
海外事業に関しては、下図のような6つの成長状況を掲げています。国内事業と同じようにクライアントと一緒に価値を設計する段階へと踏み込んでいくことが読み取れます。※マウスオーバーで拡大
総じて、価値設計や価値創造への転換、クリエイティブ面からの事業投資や事業開発にリスクを取って進んでいくという、革新的な挑戦を掲げています。同時に海外展開も強化していく方向です。企業ストーリーから、革新を大事にする企業姿勢であるためと思われます。そのため、バランスも大切にする博報堂は、デジタル化がメインであり、その方向性には大きな違いがあります。
求める人物像の推察
求める人物像
財務分析、企業ストーリー、中期経営計画を統合して考えると、求められる人材は、「時代の先駆者として様々な課題に対して、コミュニティー内外を巻き込みながら新しい価値を生み出し解決していく事業家」です。
時代の先駆者になるために、「様々な分野に深い造詣がある」ことや「ただでは倒れないタフネスさ」が素養として求められます。また、様々な人を巻き込みながら課題を解決する事業家になるために、「主体的であること」、「価値を創造する発想力」、「関係者と共調してやり遂げていくチームワーク」そして「やり遂げる実行力」が求められていると考えられます。
キーワード
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まとめ
企業理解イメージ図
これまでの概要、歴史、財務分析(ビジネスモデル)、中期経営計画、企業ストーリーを構造化し、イメージ図に落とし込むと下図のようになります。
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イメージは、メディアトップ・クリエイティブ・キツい・高収入といったところだと思います。このイメージを分解すると、変革、新しい価値、情熱です。
なぜこのキーワードになっているかというと、以下3点から構成されたものです。
①家庭訪問から始まり長年トップでいる広告代理店としての歴史
②広告主、メディア業者、広告制作会社、をリードしてきた事業構造
③価値を伝える存在から、自ら価値を作り、伝える存在になることを宣言した将来計画
そのような歴史・現在(財務・ビジネスモデル)・未来(中期経営計画)となっているのは、企業ストーリーが、多様な価値の創造をリードする価値のプロフェッショナルとして、新しい時代を切り開こうとする創造性あふれるものだからです。
業界内での志望理由
企業分解イメージ図を踏まえ、現在・未来・企業ストーリーの3階層を焦点に、業界内で同社を志望すべき理由を考えます。
1.業界No.1
(現在=財務状況から)長年にわたって国内広告業界の一位でありつづけ、日本一の広告代理店とも称される王者。
2.価値設計の拡大、事業開発・投資へという先進的な方向性
(未来=中期経営計画から)従来の価値伝達事業から価値設計・創造事業への進化、さらには事業投資や事業開発にまで踏み込んでいくことが表明されており、独自の方向性であること。
3.革新性あふれる企業姿勢
(企業ストーリー・未来・現在から)情熱と創造性で常に広告代理店業界をリードしてきた歴史、そしてそれを生み出す革新的な企業姿勢に特徴があります。
宿題:各社のHP、IR資料、中期経営計画を熟読し、理解を深めましょう。
【出典】:2019年12月同社HP、2019年12月まで発表の同社決算短信、中期経営計画、その他同社公表資料