野村證券
証券業界のリーディングカンパニーである野村證券について研究を行います。
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野村證券は、野村ホールディングスを持ち株会社とし、傘下に中核会社である野村證券をはじめ各事業会社が属する持ち株会社制を採用しています。なお、新卒採用は傘下の会社別に行っています。したがって、野村ホールディングスと野村證券の研究とします。
会社概要
会社概要
<野村ホールディングス>
1925年設立(2001年旧野村證券から商号変更)
資本金 約5944億円
従業員数 連結27630名
<野村證券>
2001年設立(1925年創業、2001年に持ち株会社制への移行に伴い新設)
※旧野村證券は野村ホールディングスへ商号変更
資本金 100億円(野村ホールディングスの100%子会社)
従業員数 単体181名 連結約45,856名
関連会社 352社
事業内容(事業部門)
会社ごとに差異があるため、本箇所は同社の採用HPより引用しています。
<野村ホールディングス>
営業、ホールセール、アセットマネジメント、マーチャント・バンキング
<野村證券>
営業、ホールセール
●営業
野村の営業部門は、全国の本支店・営業所やコールセンター、インターネットを通じて国内の個人や法人の顧客にさまざまな金融サービスを提供しています。具体的には株式・債券・投資信託・ファンドラップ・保険商品の他、お客様のライフステージにあった資産運用のご提案や、相続・事業承継に関するサービスなど、きめ細かなコンサルティングを行っています。また、日本とアジアでウェルス・マネジメント・ビジネスを展開しています。
●ホールセール
金融商品の組成・販売やリサーチ、トレーディング業務を行うグローバル・マーケッツと資金調達のアレンジやM&Aアドバイザリー業務などを行うインベストメント・バンキングから構成され、国内外の事業会社、政府機関、金融機関などの幅広い顧客に、さまざまなサービスを提供しています。
●アセットマネジメント
野村アセットマネジメントを中核として、日本をはじめ世界12か国・地域において約1,400名のプロフェッショナルが、各地域の個人投資家のみならず年金基金や機関投資家に至るまでの幅広い投資家層に対し、高品質な運用戦略、商品ならびにサービスを提供しています。
●マーチャント・バンキング
マーチャント・バンキング部門の中核企業として、2018年1月に野村キャピタル・パートナーズ(NCAP)が設立されました。運用資金1,000億円は全額、野村グループの自己資金にて拠出しています。多様化・複雑化する顧客のさまざまな課題に対し、野村グループの自己資金を活用したエクイティ等の資金提供と、人的な支援を含むさまざまなソリューション提供ならびにお客様との協働を通じて、課題の解決と事業成長の実現を共に目指しています。
歴史
野村グループは、初代野村徳七が始めた両替商に端を発します。跡を継いだ二代目野村徳七は「顧客第一の精神」で1918年(大正7年)に大阪野村銀行が設立。また証券業にも積極的に取り組み、1925年、野村銀行の証券部が独立し職員数84名で野村證券を設立しました。
野村證券は1920年代前半の無担保社債時代に急成長を遂げます。また、満州国経営のため発行される日本国債の発行業務を担う八大証券会社の一つとなりました。
1941年に日本初の投資信託業務の認可を受け、第二次世界大戦の戦費をファイナンスし、1941年から終戦する1945年まで野村證券は投信市場の約半分を取引しました。1957年に野村不動産を設立し不動産事業に進出。また1965年には調査部を分離独立させて株式会社野村総合研究所 (NRI) を設立しました。
その後、2001年に持株会社移行に伴い野村證券と持株会社の野村ホールディングスに機能を分割。旧野村證券が野村ホールディングス(持株会社)に衣替えし、新たに旧野村證券が行っていた証券・付帯業務を行う事業会社、新・野村證券が設立されました。
そして、2008年、サブプライムローン危機により破綻したリーマン・ブラザーズの欧州・中東部門を中心とする大部分を野村ホールディングスが買収しました。
以後アジアに立脚したグローバル金融サービス・グループとして発展を続け現在に至ります。
財務分析
野村グループとして全て連結の財務分析です。
基礎データ
2018年度は構造改革に伴う減損処理で約810億円を損失計上しています。2016-2017年度は収益や利益ともに安定していますが、2018年度は上記の減損処理という特殊事業を除いても、市場環境の悪化により大幅に減益となっています。ただ、収益が2兆円近くあり、証券業界では圧倒的な最大規模です。
※単位:億円
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部門別収益
(金融費用控除後)
個人事業に強い野村らしく、3割を占めています。また、リーマン・ブラザーズの大部分を買収して以降、ホールセールが飛躍的に拡大したためほぼ半分を占めています。
※単位:億円
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※2018年度
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種類別収益
さらに収益を種類別で見てみると、金融収益が4割と群を抜いています。他は、委託・投信募集手数料・アセットマネジメント手数料、トレーディング損益が2-4000億円のレンジです。総合的にかつ安定的な収益ポートフォリオと言えます。
※単位:億円
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※委託・投信募集手数料:株式や債券や投信の販売・仲介する際の手数料
※アセットマネジメント手数料:投信を運用することでる管理運用手数料
※投資銀行業務手数料:株や債券の引き受け、MRA、IPOなど投資銀行業務の手数料
※トレーディング損益:証券売買の差額により得られる損益
※営業投資有価証券関連損益:投資事業による損益
※金融収益:保有する有価証券の受取利息や配当金、有価証券貸借取引に係る収益
※2018年度
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地域別税前利益
国内がほとんどであり、グローバル化はまだまだ余地があることが分かります。アジア・オセアニアは比較的安定的に利益貢献していますが、欧州・米州は乱高下しており安定性に欠けています。
※単位:億円
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主な資産の状況
最後に資産状況ですが、担保付き契約、トレーディング資産・PE(プライベートエクイティ)投資が大きいです。SMBC日興証券同様に担保付き契約が最大であり、ややリスクが高めの資産構成となっていますが、大和証券や三菱UFJモルガン・スタンレー証券がトレーディング資産・PE投資が最大であったことと比較すると、相対的にリスクを抑えた資産構成です。
※単位:億円
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各項目の定義がないため、以下と推察。
※現預金:現金・預金と預託金の合計
※貸付金及び受取債権:約定見返勘定と短期差入保証金の合計
※担保付き契約:有価証券担保貸付金
※トレーディング資産・PE投資:トレーディング商品と信用取引資産とPE投資の合計
総じて、規模の大きさが特徴です。圧倒的な業界No.1です。営業部門の強さ、ホールセール部門の規模大きさが特徴的です。収益の種類や部門別のポートフォリオは一定バランスが取れていますが、地域ポートフォリオはバランスが十分とは言えない水準です。また、事業の特性上、市況の影響を直接受けてしまうため、利益の安定性も十分ではありません。
企業ストーリー
野村證券はグループとして、コーポレートスローガンと企業理念を定めています。企業理念は、下図の通り、社会的使命→会社のあるべき姿→Code of Conduct→わたしたち一人ひとりの価値観の順で構成されています。
Code of Conduct(行動規範)がバリューより上位に位置付けられている点が他社にはない特徴です。
<全体像>
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ミッション
シンプルかつ王道のミッションです。金融資本市場での事業活動を通じて豊かな社会の創造に資するということを使命としています。※マウスオーバーで拡大
ビジョン
同様にシンプルかつ王道のビジョンです。最も信頼できるパートナーになることとしています。※マウスオーバーで拡大
Code of Conduct
主要な部分のみの抜粋です。ビジョン・ミッションを具現化するための行動規範が記載されています。詳細はぜひ全文に目を通してみてください。Code of Conduct※マウスオーバーで拡大
バリュー
そのために、挑戦(変化・成長・情熱・勇気)という情熱に関連する表現がなされています。そのうえで、協働(新たな価値創造、多様性)という創造性に関連する表現がなされています。そして、誠実というバランスに関連する表現です。※マウスオーバーで拡大
コーポレートスローガン
この企業理念を表現するコーポレートスローガンとして、「今以上の未来」という表現としています。よりよくすることへの情熱が見えます。※マウスオーバーで拡大
総じて、シンプルで王道の企業理念です。情熱と創造性が重要だと読み取れる企業ストーリーです。通常、顧客資産に関する金融業界では、堅実性が最も重要な価値観におかれがちですが、野村證券は情熱が最も重要な価値観と読み取れる内容であることに特徴があります。
企業ストーリーで使用される言葉を分類整理すると、下図のように表現することができると思います。※マウスオーバーで拡大
中期経営計画
野村證券は、2014年に2020年までの長期経営ビジョンC&Cを公表しています。
方針
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アジアに立脚したグローバル金融サービス・グループを目指すとしています。
戦略
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そのために、EPS100円を安定的に確保すること、どんな事業環境においても持続的に成長できるレジリエンスの向上、の2点を戦略としています。
施策
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具体的な施策・方法として、2014年の長期経営ビジョン策定時点では、国内のビジネスモデル改革と海外ビジネスの収益改善の二点を設定していました。いずれも戦略的に強化すべき事業領域を特定し、強化させるための体制を構築するといったものです。
その後進捗を続け、最新の2019年度の投資家向けプレゼンテーションにおいては、「ビジネスプラットフォームの再構築」へと施策の表現が更新されていました。2014年より取り組んできた変革・強化を踏まえ、非効率性の排除とシンプル化に乗り出しています。具体的には、マネジメント・コーポレート・ビジネスの3つの観点で効率化を図っています。※マウスオーバーで拡大
そして、今後については、ビジネス領域をマッピングし、重点領域を特定し、戦略的に強化を図っていくとしています。
具体的には、富裕層強化、対面ビジネスのすそ野拡大、顧客基盤の拡充、非対面ビジネスの拡大、デジタル技術活用があげられています。
効率化の期間を経て、強化・拡充・事業領域の拡大の段階に入っていくということです。そのため、2018年1月に野村キャピタル・パートナーズを設立し、新たな第四の部門としてマーチャント・バンキング部門を設置しました。これは、自己資産でリスクを負って投資を行っていく一歩踏み込んだ事業領域です。
総じて、現状から着実に進化しようとする地に足の着いた堅実・王道的な内容です。
これまでは非効率性の排除というマイナスの排除の段階でしたが、今後は強化・拡充というプラスの拡大の段階に入っていくということで、マーチャント・バンキング部門の設置等を含めて創造的な内容が組み込まれています。
求める人物像の推察
求める人物像
企業ストーリー、歴史、財務分析、中期経営計画を統合すると、求められている人材は、「最高の品質の価値を提供するために、情熱をもって進化をし続ける挑戦者」です。
証券業界自体が構造的な変化をしていく事業環境において、活躍できる人材です。それは、成長意欲が高く、高度な専門性を希求し、困難を乗り越える情熱とタフネスをもち、進化をし続けていこうとする人材です。
なお、野村證券には、一般的なオープン採用とは別に、ホールセール部門(グローバル・マーケッツ、インベストメントバンキング)に配属を行う特定専門業務の採用コースもあります。こちらは、野村證券の中のいわゆるエリート採用であり、少数の極めて優秀な人員のみが採用されるコースです。
キーワード
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まとめ
企業理解イメージ図
これまでの概要、歴史、財務分析(ビジネスモデル)、中期経営計画、企業ストーリーを構造化し、イメージ図に落とし込むと下図のようになります。
※マウスオーバーで拡大
体育会系、リーディングカンパニー、グローバルといったイメージだと思います。お客様に選ばれる、挑戦、情熱、新たな価値を生み出すというような言葉がキーワードとなります。
なぜこのキーワードになっているかというと、
①両替商に端を発し国家の発展に金融面で支えてきた歴史
②バランスのとれた事業ポートフォリオと営業・ホールセールが強い財務状況
③アジアに立脚したグローバル金融サービス・グループを目指す将来計画
から、構成されたものです。
そのような歴史・現在(財務・ビジネスモデル)・未来(中期経営計画)となっているのは、企業ストーリーが、金融では珍しく、情熱を最優先に、次いで創造性を重要な価値観においたものとなっているからです。
業界内での志望理由
企業分解イメージ図を踏まえ、現在・未来・企業ストーリーの3階層を焦点に、業界内で同社を志望すべき理由を考えます。
1.業界No.1(規模No.1)
(現在=財務状況から)圧倒的な業界No.1。特に営業・ホールセールの規模。
2.アジアに立脚したグローバル金融サービス・グループを目指すという独自の方向性
(未来=中期経営計画から)新たにマーチャント・バンキング部門を創設するといった、拡充・強化を行う前向きで創造的な将来計画。
3.創造性と情熱あふれる企業姿勢
(企業ストーリー・未来・現在から)野村證券ならではの情熱的な企業姿勢。
宿題:各社のHP、IR資料、中期経営計画を熟読し、理解を深めましょう。
【出典】:2019年12月同社HP、2019年12月まで発表の同社決算短信、中期経営計画、その他同社公表資料