業界研究
国内証券
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長らく高い就職活動における人気を維持している証券業界。ただ、実際どんな事業でどんな業務を行っているのかイメージが湧きづらいと思います。そこで今回は証券業界を研究します。
なお、外資系証券及び国内証券のうち特定専門採用(部門別の少数精鋭採用)は、より詳細に部門ごとの業務内容への理解が必要となるため、別途投資銀行業界を設け説明します。(外資系)投資銀行志望の方は、ここでは概要を理解するためにご活用ください。業界概要
証券会社の定義
証券会社とは、有価証券の売買や取次、引き受け、その他有価証券に関する業務を行う会社を指します。
有価証券とは、財産的価値を有する証券(券)を意味します。有価証券があることにより、権利などの物理的には存在しない債権であっても、譲渡や移転が可能となります。
有価証券の種類は、以下の通りです。
① 貨幣証券:手形や小切手など
② 運送証券:船荷証券など
③ 物財証券:倉荷証券など
④ 資本証券:株式や社債券や信託受益券
実はプリペイドカードや商品券も有価証券(貨幣証券)です。
一般的には、有価証券といえば資本証券を表すことが多く、証券会社の文脈においても資本証券を指します。
したがって、証券会社とは、株式や社債や信託受益券などの資本証券の売買や取次や引き受けをおもに扱う会社です。
証券業界の種類と主な企業
証券会社は、野村證券・大和証券・三菱UFJモルガン・スタンレー証券・SMBC日興証券・みずほ証券が主な企業です。
証券会社には、独立系と銀行系、外資系と国内で大きく分かれます。国内については、伝統的証券かネット証券か、総合証券かリテールまたはホールセールのみの専門証券かで分かれます。※マウスオーバーで拡大
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証券会社の事業部門
證券会社は、機能が多岐にわたっているため、何をしているのかの全容を把握することが簡単ではありません。大きく分けると、リテール、ホールセール、リサーチ、管理の4部門にわかれます。その他に、アセットマネジメント、PE投資を行う部門もあります。※マウスオーバーで拡大
証券会社と投資銀行
証券会社は、法的には証券を取り扱う会社です。
一方で投資銀行は米国固有の形態であり、世界恐慌を契機に制定されたグラス・スティーガル法により商業銀行から証券事業を切り離し、証券事業のみを扱う企業を投資銀行とし、商業銀行に対比する形で名付けられました。そのため米国版証券会社の名称です。
法的には上記ですが、日本での一般的な意味合いでは、証券会社はリテール・ホールセール・リサーチまでの全事業を扱う会社を指すことが多いです。一方で、投資銀行は、富裕層向けのプライベートバンキングとホールセール部門+リサーチ部門を扱う会社(特にホールセール中心)を指すことが多いです。また、部門の文脈で投資銀行部門を指す場合は、証券の発行体に対する事業(M&Aアドバイザりー、株式や債券の発行引き受け等)を表す場合が多いです。このように、国や文脈によって多少意味合いが変わりますので注意が必要です。
商業銀行と投資銀行
近年、メガバンクを中心に銀行も投資銀行業務に参入しており、敷居があいまいになってきています。投資銀行業務は、財務戦略のアドバイスと実行支援、金融商品の販売や運用といった「直接金融」にかかわる業務を行います。直接金融とは、マーケット(投資家)から直接資金を融通させる方法をいいます。
一方で、商業銀行は、一旦預金者を介して商業銀行が資金を集め、集めた資金をもとに商業銀行の判断と裁量により顧客に資金融通するという「間接金融」にかかわる業務を行います。
メガバンクの場合は、銀行と証券が一体でグループ経営を行っており、案件の発生の窓口兼専門性の低い案件は銀行の投資銀行部門が対応し、専門性の高い案件はグループの証券会社が対応するといったすみわけのようです。
業界のビジネスモデル
ビジネスモデル
証券業界は、何をやっているか具体的にはよくわからないという声が多いです。ビジネスモデル及び各事業部門を簡単に図解したものが三菱UFJモルガン・スタンレー証券の採用ページにありましたので転載します。
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企業などの資金調達需要のある発行体に、資産運用行いたい投資家が直接判断し投資する「直接金融」における発行体・投資家両者の支援を行う事業です。
発行体に対しては最適な資金調達となる提案と実行支援(投資銀行業務)行います。プライマリーマーケット(発行市場)業務とも呼ばれます。
投資家に対しては、最適な資産運用となるようセールス・トレーディング(マーケット業務)を行います。セカンダリーマーケット(流通市場)業務とも呼ばれます。
それでは部門ごとにビジネスモデルを見ていきます。
<営業(リテール)部門>
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営業(リテール)部門では、個人および法人(未上場、中堅以下企業)といった一般投資家と呼ばれる顧客に対して、様々なソリューションを提供し、「資産運用の支援」を行う事業部門です。
個人には、将来の各種ライフイベントを踏まえた資金収支の試算から運用をコンサルティングするフィナンシャルプランナー機能や相続、事業承継等、幅広い提案を行います。
法人には、余剰資金の運用について、流動性や期待利回りの確保等、ニーズに合わせた運用のコンサルティングを行っています。
<投資銀行部門>
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投資銀行部門では、資金需要者たる発行体に対して、最適な資金調達を行う提案と実行支援を行います。具体的には、株式および債券の引受、企業の合併・買収、新規公開(IPO)に関わるアドバイザリー、不動産証券化といった業務といった内容です。
顧客の存亡にかかわる案件の取り扱いとなるため、非常に高度な業務となります。
また、発行体が発行した債権(株式や債券など)を、マーケット部門や営業部門につなぎ、流通させるための役割も果たします。
<マーケット(市場商品)部門>
●債券業務(フィクストインカム・セカンダリ―業務)
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●債券業務(フィクストインカム・セカンダリ―業務)
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マーケット(市場商品)部門は、資産運用を行いたい機関投資家に対して、金融商品の販売・取り次ぎ等を通じて最適なソリューションを提供する事業です。債券(フィクストインカム)と株式(エクイティ)に大きく分かれます。
投資家向け資産運用をセルサイドといい、資産運用を行う機関投資家側をバイサイドといいます。バイサイドの資産運用を支援する(セル)ことが業務です。顧客であるバイサイドも投資のプロであるため、それをさらに上回る知見が必要となる高度な業務です。
<リサーチ部門>
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リサーチ業務では、エコノミスト(経済の専門家)、ストラテジスト(市場の専門家)、アナリスト(特定領域の専門家)と呼ばれる各分野のプロフェッショナルが、世界中の機関投資家や国内の個人投資家に向けて、投資判断や経済見通し、投資戦略など、資産運用を支援するさまざまな情報を発信しています。
業務
それでは、各業務を見てみましょう。
<リテール(営業>
リテールは、個人・法人の一般投資家向けの資産運用の支援を行います。具体的には、店舗での窓口対応が中心となります。来店者から、様々な相談が持ちかけられるので、それに対応していきます。商品に関する膨大な知識と最適な資産運用を提案する構築力が必要となります。また、書類が多いため書類にまつわるバックオフィス業務も多数あります。したがって、基本的には、お客様に親身になって接客相談する良い意味での労働集約型業務と最適な資産運用を提案する知識集約業務のハイブリッドとなります。
<投資銀行>
投資銀行業務は、M&Aのアドバイザリー、株式・債券の発行・引き受けの支援といった発行体の資金需要に対して、最適な提案を行い実行支援する業務です。営業にあたるカバレッジと提案を構築するプロダクトという業務に分かれます。カバレッジが営業行い、それを受けてプロダクトが執行するということが大きな流れです。
●カバレッジ※マウスオーバーで拡大
資金発行体に対して、適切な時期に適切な方法で資金調達またはM&Aを実施するよう営業・提案を行う業務です。顧客の現況への理解と適切な提案を行うゼネラルな思考力や知見が求められます。
●プロダクト
案件執行において、どのような方法で資金調達またはM&Aを実行するかを決定していきます。高度な数的思考力や専門性が求められます。
<マーケット>
マーケット業務は、資産運用需要者に対して、債券や株式や為替といった市場に流通する金融商品を用いて、最適な運用ソリューションを提案・実行する業務です。営業を行うセールス、金融商品の売買を行うトレーダー、商品開発を行うストラクチャリングに分かれます。それらが株式や債券といった商品ごとに分かれます。業務の分け方は各社それぞれの強みに応じた分け方となっていますので、上記は大まかな分け方です。
●セールス
顧客に担当する金融商品の販売を行う営業職です。顧客とリレーションを構築し、顧客の資産運用の支援を行うべく、金融商品の提案を行います。金融商品の販売が成立した際の販売手数料が収益源となります。
●トレーダー
金融商品の売買を行う役割です。セールスと一体となり、「顧客の注文を執行する」フロートレードの業務と自己勘定で行うプロップトレードという業務があります。いずれも単純な執行ではなく、「アクティブ運用」を行い利ザヤの獲得を狙います。
●ストラクチャリング
顧客のニーズに対応した金融商品の組成やソリューションの提供を行うのが、ストラクチャラーの業務です。
トレーダーと議論を重ねて収益性の高い商品を設計するだけではなく、セールス担当者と共にマーケティングを行います。ストラクチャリング&マーケティングと言われることもあります。
<リサーチ>
リサーチは、世界中の機関投資家や国内の個人投資家に向けて、投資判断や経済見通し、投資戦略など、資産運用を支援するさまざまな情報を発信しています。経済学に対するアカデミックな深い知見、複雑に変動する経済を分析・予測を立てる思考力が求められます。
本業界の簡単な歴史
日本の証券取引所の起源は、17世紀末大阪・淀屋橋の「淀屋」という有力な米売買の商人のもとで形成された米の市場と言われています。1730年には幕府の許可の下コメの先物取引が行われ日本で最初の先物取引が始まりました。
1878年に株式取引所条例が制定され、フランスとイギリスの取引所を参考にして、東京と大阪に「株式取引所」ができました。取引所は、金禄公債(旧士族の年金券)の売買安定化と株式会社組織の普及を目的に、渋沢栄一らの尽力によって設立されました。その後富裕層を中心に利用され、1920年代に最初の証券会社が誕生したといわれています。野村證券、大和証券、日興証券、山一證券が「四大証券会社」と呼ばれ、長く日本の証券市場をけん引しました。世界恐慌やそれに端を発する昭和恐慌等で変動しながらも取引所は発展を続けます。
しかし、第二次世界大戦に入り、末期には臨時休会が相次ぐ状況となり、終戦後はGHQにより取引所は停止させられました。GHQは財閥本社から買い取った旧財閥子会社株式を、子会社のある地域の住民や従業員に安く転売し、会社を株主とした監視するとともに、将来の資産形成に役立てるよう投資家教育も行い、いわゆる「証券民主化」を推し進めました。そして終戦から4年後の1949年に、証券会社を会員とする東京証券取引所、大阪証券取引所が設立されました。証券民主化の影響、戦後の発展、高度経済成長による産業の発展等に応じて会社も発展し、取引所も発展していきます。
なお、証券取引所は地方にも開かれましたが、2000~2001年にかけて広島、新潟、京都が廃止され、2013年)には東京証券取引所と大阪証券取引所が統合されました。東証と大証の統合は「国際競争力の向上」と「コスト削減」が目標ですが、それだけ生き残り策が必要な時代だともいえます。
その後も、オイルショックやバブル崩壊、金融ビッグバン(自由化と外資参入)、金融商品取引法施行、リーマンショックなど、証券市場を取り巻く環境は変動や混乱を繰り返しながら、自由で開かれた市場へと進化を続けています。
業界の現状と将来予測
上記歴史を踏まえて現在は、ICTの台頭により、高度な処理システムやネット証券が登場するなど新たな時代となっています。さらにはラップ口座(口座に資金を入れておくだけに運用管理をしてくれる投資一任口座)やロボアドバイザーなどの新たなサービス登場しています。今後はさらにAIの台頭が予期されていますし、すでに各社AIを積極的に取り込んでいます。
リーマンショック以降の市場の縮小とテクノロジーの台頭で、証券事業は構造的に縮小ないしは淘汰、そして人員削減の方向に向いています。そのため、特に労働集約的な業務の多いリテールは削減が行われ始めています。野村證券などは、店舗削減、リテール人員を区分け(富裕層担当とマス担当)するといった対応を行うことを公表しています。従来とは異なり、大手でも成果が出せなければそれ相応の扱いしかされない、というシビアな世界に入ってきています。
知識集約業務が中心のホールセールも例外ではありません。UBSは本国で投資銀行部門の従業員を大きく削減すると公表していますし、ドイツ銀行は本国の業績の悪化を受けてグループで投資銀行部門を中心に1.8万人削減すると公表してます。また、ゴールドマンサックスはマーケットの株式トレーダーを数百人削減し現在では数名しかいないという状況のようです。逆にテクノロジーの人員は大量に採用しています。また、一部のファンドではすべてAIが行うAIファンドも登場しています。
したがって、証券会社は、営業力や数理的思考力に優れた人材により証券サービスの提供を行うという従来の収益モデルから、テクノロジーが証券サービスを行い、人員がテクノロジーを支えるという方向にシフトしつつあります。それゆえ、テクノロジー以外の部分においては、従来よりも非常にシビアで結果を残せる一部の優秀な人材のみが生き残っていく厳しい世界に入っていると思います。
証券会社を志望するに際しては、決して安泰ではなく、対他社・他社員・対テクノロジーとの比較でシビアに成果を求められるという意識をもっておくべきかと思います。これは逆に言えば、個人の成長にはうってつけの厳しい環境であるということもいえます。
本業界の機能
概要とビジネスモデルを踏まえ、証券会社の機能を整理すると以下の図のようになります。
本質的な価値は、発行体・投資家それぞれに対して直接金融を用いた金融支援です。具体的には、資金調達・財務戦略支援と運用支援です。その機能は、営業力や営業網または高度な専門性を用いて具現化するパターンでした。しかし、ICTにより営業網が不要となりつつあり、高度な専門性はAIに代替される方向性となりつつあります。※マウスオーバーで拡大
求められる人物像
これまでの業界研究から、必要な人材が導き出されます。
全体的には、人の事業や資産に踏み込んで金融に関するコンサルティングを行うため、何よりも、親身なれること、性格が穏やかで人当たりが良いこと、といった人から信頼されるバランスの取れた人間性を求められます。そして、高度な専門性とそれを身に付けうる高い論理的思考力が求められます。そのうえで、変革の時期にある為、創造性、思考力も求められます。※マウスオーバーで拡大
そして、将来的には、ほかの会社やほかの社員やAIでは生み出せない独自の価値を生み出せる人材が活躍するようになると思われます。そのため、自分なりに自分の独自性は何なのかを考えながら成長をしていく必要があるかと思います。
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まとめ:
証券会社の本質は、直接金融ソリューション提供です。
その主たる方法として、資金調達・財務戦略支援と運用支援があります。それを生み出す源泉は、システム、営業網、人材です。これまでは圧倒的に人材の割合が大きかったですが、徐々にシステムに奪われ始めています。
金融という踏み込んだ領域を取り扱うため、金融パートナーになるほど信頼される人間的な魅力とソリューション提供能力が必要です。そのため、各社は、エントリーシートや面接を通じて、信頼されるような人かどうか言い換えれば一生懸命頑張れる人かどうか、論理的思考力があるかを確認します。