大和証券
証券業界で野村證券に次ぐ大和証券について研究を行います。
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大和証券は、野村證券同様に、大和証券グループ本社を持ち株会社とし、傘下に中核会社である大和証券をはじめ各事業会社が属する持ち株会社制を採用しています。なお、新卒採用は傘下の会社別に行っています。したがって、大和証券グループ本社と大和証券の研究とします。
会社概要
会社概要
<大和証券グループ本社>
1943年設立(1902年創業)
※1999年に持ち株会制への移行に伴い大和証券グループ本社に商号変更
資本金 約2473億円
従業員 14,691人
<大和証券>
1999年設立(2001年に持ち株会社制への移行に伴い新設)
※旧大和証券は大和証券グループ本社へ商号変更
資本金 1,000億円(大和証券グループ本社の100%子会社)
事業内容(事業部門)
会社ごとに差異があるため、本箇所は同社の採用HPより引用しています。
<大和証券グループ本社>
リテール、ホールセール、アセット・マネジメント、投資部門、その他(大和総研など)
<大和証券>
リテール、ホールセール
●リテール※マウスオーバーで拡大
大和証券において、主に個人や未上場法人のお客様を対象に、全国の店舗網やコンタクトセンター、インターネットを通じて、金融商品・サービスを提供しています。
●ホールセール
大和証券において、国内外の機関投資家、事業法人、金融法人および公共法人などのお客様に対し、セールス&トレーディング業務、投資銀行業務を通じて様々な金融商品、サービス、ソリューションを提供しています。
●アセット・マネジメント
大和証券投資信託委託において、アセット・マネジメント部門を担っており、国内外の株式・債券・REITなどを投資対象とした投資信託の運用を行っています。投資信託は、大和証券グループを含む全国の金融機関の窓口などで投資家に提供されています。
●投資部門
大和企業投資などを中心に、PE(プライベートエクイティ)投資事業として、ベンチャー投資・バイアウト投資を展開し、多くの企業の成長・株式上場に貢献しています。
●その他
大和総研グループは、IT・シンクタンク部門として、リサーチ、コンサルティング、システムの各分野、さらにはアジアでのビジネス展開において、大和証券グループの企業価値向上を支える高品質の付加価値を提供しています。またグループ外のお客様に対しても、さまざまなニーズに応じたソリューションを提供しています。大和証券ビジネスセンターは、証券関連のバックオフィス事業を提供するサポート部門を担っています。
歴史
1902年に藤本ビルブローカーとして創業。1907年には藤本ビルブローカー銀行に商号変更し銀行業に進出。藤本ビルブローカー銀行は、当時の銀行の種類の一つであり、金融機関相互間で資金の運用や決済を行う市場(銀行間取引市場)において、主として1年未満の短期的な資金の貸借またはその媒介を業として行う短資業兼営を行う銀行でした。当時は「大正バブル」と呼ばれる時代にあり、当時のベンチャー企業です。
1942年には藤本証券に商号変更し証券会社となります。1943年に日本信託銀行と合併し大和證券となります。その後ニューヨークやロンドンなど世界展開を進め発展を遂げます。
そして、1998年には住友銀行と資本提携を行い、1999年に日本の上場企業で初めて純粋持株会社制に移行します。これに伴い、旧大和證券は大和証券グループ本社となり、リテール事業会社として大和証券、ホールセール事業会社として大和証券SBキャピタルマーケッツ、アセット・マネジメント事業会社として大和住銀投資投信顧問の3社を設立します。しかし2010年には三井住友フィナンシャルグループとの資本提携が解消となり、大和証券キャピタルマーケッツへ変更します。2012年には大和証券と大和証券キャピタルマーケッツが合併し現在の大和証券となりました。以後発展を続け現在に至ります。
財務分析
大和証券グループとして全て連結の財務分析です。
基礎データ
売り上げにあたる営業収益は順調に伸びています。利益は、2018年度については市場環境が悪く減少しています。営業収益や純営業収益では野村證券に倍以上の差が開いていますが、利益面では野村證券の減損処理の影響もあり2018年度は逆転しています。また、利益率も野村證券を上回っており、収益性の高い効率的な経営が行われているものと見て取れます。
※単位:億円
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部門別純営業収益
(金融費用控除後)
大和証券もリテールに強く4割を占めています。野村證券と比較し、金額規模ではホールセールが3倍以上の差となっていますが、リテールは倍以内にとどまっており、リテールが相対的に強いことがうかがえます。また、投資部門がある点が特徴的です。大和証券は、1980年代から投資部門を設けてリスクを負うPE投資などを手掛けてきています。その点からも柔軟かつ創造的な企業姿勢が見て取れます。
※単位:億円
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※2018年度
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種類別営業収益
さらに収益を種類別で見てみると、金融収益と手数料収入が4割、トレーディング損益が1割強という状況です。総合的かつ安定的なポートフォリオであり、野村證券と割合は非常に類似しています。
※単位:億円
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※受入手数料:株式や債券を売買する際の仲介手数料、アセットマネジメント手数料(信託販売、運用)、投資銀行業務手数料で構成される手数料収入
※トレーディング損益:証券売買の差額により得られる損益
※営業投資有価証券関連損益:投資事業による損益
※金融収益:保有する有価証券の受取利息や配当金、有価証券貸借取引に係る収益
※2018年度
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地域別経常収支
経常収支の定義がなされておらず、国内を交えた比較が困難であるため海外のみの表示です。海外の中では比較的米州が強く、次いでアジア・オセアニアという状況です。
ただし、経常収支の定義が仮に経常収益や当期利益だとしても、国内の金額と比較すると非常に小さく、海外を合計しても1割弱程度です。グローバル化はあまりなされていないといえます。
※単位:億円
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主な資産の状況
最後に資産状況ですが、担保付き契約、トレーディング資産・PE(プライベートエクイティ)投資が大きいです。三菱UFJモルガン・スタンレー証券同様にトレーディング資産・PE投資最大であり、野村證券やSMBC日興証券が担保付き契約が最大であったことと比較すると、相対的にリスクが高めの資産構成です。ただし、その分現預金などの流動性が最大の資産も相応に保有しています。
※単位:億円
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※現預金:現金・預金と預託金の合計
※貸付金及び受取債権:約定見返勘定と短期差入保証金の合計
※担保付き契約:有価証券担保貸付金
※トレーディング資産・PE投資:トレーディング商品と信用取引資産とPE投資の合計
総じて、規模は野村證券に劣るものの、安定的な事業ポートフォリオと利益率の高さが特徴です。利益率では業界No.1です。また、以前から投資部門を設けていた点も特徴的です。収益の種類や部門別のポートフォリオは一定バランスが取れていますが、グローバル化は進んでいません。また、事業の特性上、市況の影響を直接受けてしまうものの、利益の安定性は野村證券を上回っているものと思われます。
企業ストーリー
大和証券はグループとして、企業理念を定めています。企業理念はミッションにあたる内容であるためミッションと読みかえます。現代的なビジョン・ミッション・バリューの枠組みでは設定していません。
ミッション
金融機関らしい堅実でバランスが中心のミッションです。※マウスオーバーで拡大
総じて、金融機関らしい堅実でバランスを重視する企業ストーリーです。
ただし、人材の部分においては、創造性、チャレンジ精神、自由闊達といった表現が用いられており、組織としては堅実でバランスを重視し、人材としては創造性を重視している点が読み取れます。
企業ストーリーで使用される言葉を分類整理すると、下図のように表現することができると思います。野村證券は組織も人材も情熱が最優先でしたが、組織としては大和証券の方が堅実でバランスを重視しており人材としてはより創造性を重視している点に違いあります。※マウスオーバーで拡大
中期経営計画
大和証券は、2018年4月に2020年までのグループ中期経営計画「Passion for the Best2020」を公表しています。
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方針
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未来を創る、パイオニアという創造的な表現が用いられています。創造性が最も重要な企業ストーリーを反映した方針となっています。
戦略
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そのために、付加価値の高いソリューションの提供(高度化)、ハイブリッド型総合証券グループ(進化)となり新たな価値の提供、の2点を戦略としています。
ハイブリッド型総合証券グループとは、証券会社の通常事業(リテール、ホールセール、アセット・マネジメント)に加え、従来から行っている投資やシンクタンク、さらには大和ネクスト銀行による銀行の各事業を強化し、幅広い金融・資本サービスを提供する総合証券グループという意味合いとして使用されています。
施策
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具体的な施策・方法としては上図の通りです。全体としては、金融手法の多様化とビジネス領域の拡大による事業創造を行っていくとしています。
リテールでは、営業体制の改革と外部チャネル・リソースの活用を挙げています。ホールセールでは、高付加価値化事業・産業構造の転換の支援に注力するとしています。アセット・マネジメントでは、オルタナティブ投資商品の拡大を行うとしています。
また、各事業の進化の実現に向けて、グループとしては、デジタル・トランスフォーメーションとビジネス革新・生産性向上を基盤にし、財務・資本、人事、IT、リスクマネジメントの4つの観点で対応を行っていくとしています。
総じて、高度化と総合化の方向にあり、独自の方向に進むことが読み取れます。
方針と戦略共に創造的で独自の内容であり、単なるこれまでの延長線上の進化というよりは、大きく変革していこうとする内容と見受けられます。
求める人物像の推察
求める人物像
企業ストーリー、歴史、財務分析、中期経営計画を統合すると、求められている人材は、「誠実でチャレンジ精神旺盛な創造性あふれる人物」です。
いち早く純粋持ち株会社制を導入するまたは投資部門を設けるなど、業界内でも新しい挑戦・創造を行う自由闊達な企業姿勢があります。それは、社員一人ひとりが日々革新・進化させることに意識を置いていることの表れでもあります。
さらには、現在は証券業界自体が構造的な変化をしていく事業環境にあります。どのような状況においても、誠実に、そして進化を追求する創造性が重要です。
キーワード
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まとめ
企業理解イメージ図
これまでの概要、歴史、財務分析(ビジネスモデル)、中期経営計画、企業ストーリーを構造化し、イメージ図に落とし込むと下図のようになります。
※マウスオーバーで拡大
スマート、自由闊達といったイメージだと思います。
未来を創る、パイオニア、信頼、誠実さ、Passion for the Bestというような言葉がキーワードとなります。
なぜこのキーワードになっているかというと、
①大正ベンチャーとして発展してきた歴史
②バランスのとれた幅広い事業ポートフォリオが特徴の財務状況
③ハイブリッド総合証券グループという独自の将来計画
から、構成されたものです。
業界内での志望理由
企業分解イメージ図を踏まえ、現在・未来・企業ストーリーの3階層を焦点に、業界内で同社を志望すべき理由を考えます。
1.利益率No.1 幅広い事業構造
(現在=財務状況から)利益率No.1であり、幅広い事業ポートフォリオがある特異性。
2.ハイブリッド総合証券グループを目指すという独自の方向性
(未来=中期経営計画から)証券会社を超える幅広さを得ようとする独自の方向性のある将来計画。
3.創造性と堅実性あふれる企業姿勢
(企業ストーリー・未来・現在から)大正ベンチャー由来で革新的な取り組みを行ってきた自由闊達な企業風土と企業姿勢。
宿題:各社のHP、IR資料、中期経営計画を熟読し、理解を深めましょう。
【出典】:2019年12月同社HP、2019年12月まで発表の同社決算短信、中期経営計画、その他同社公表資料