日産自動車
国内3位、グローバルでもルノー・三菱と組んで3位の規模を誇る巨大自動車メーカー、日産自動車について研究します。
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会社概要
会社概要
1933年創立
資本金 約6060億円
販売車数 日本 約60万台 グローバル 約550万台 (2018年度)
従業員数 単体約2万3千名 連結約14万名
事業内容(事業部門)
自動車の製造、販売及び関連事業
【国内主要拠点】
研究・開発7、生産・物流14、その他1
【海外主要拠点】
北米11、欧州8、アジア37、大洋州2、メキシコ・中南米10、中東・湾岸諸国2、アフリカ3
歴史
明治時代、都心部では車道が整備され多くの車が往来するようになったものの、殆どがアメリカから輸入された外車でした。国産自動車の開発を目指した鮎川義介らが設立した戸畑鋳物自動車部などが前身となり、昭和9年に日産自動車と社名変更され、国産自動車の製造による発展を遂げました。
しかし、バブル崩壊の影響で、高価格で収益性の高いシーマやセドリック、グロリアなどの高級車の販売が減少した上に、もともと商品企画や販売戦略が不得意な上にヒット車種を数多く出せないこと等から、1998年には約2兆円もの有利子負債を抱え経営危機に陥ってしまいます。倒産寸前の経営状態となった1999年3月に、フランスの自動車メーカーのルノーと資本提携(ルノー=日産アライアンス)を結び、同社の傘下に入り更生を図る事となりました。さらに、2016年には、経営危機に陥った三菱自動車を傘下に入れ、ルノー・日産・三菱アライアンスとなりました。
財務分析
基礎データ
売上はグローバルで10兆円をコンスタントに超えており、日本を代表する巨大企業と言えます。しかし近年では米中での新車需要の落ち込み、ゴーン体制下での過度な拡大政策の反動に加え、そのゴーン前CEOの逮捕等の混乱もあり、売上は15年をピークに頭打ちの状況にです。
※単位:億円
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地域別販売台数
トヨタ自動車は、国内・海外ともに圧倒的なプレゼンスを示して日産自動車は、日本でのシェアが10%前後と低めであるのに対し、中国・北米市場で比較的大きなプレゼンスを持っていることが特徴的です。また、日産自動車単独でグローバルで6%前後の市場占有率を持っていることからも、日本のメーカーというよりも既に「日本発祥のグローバルマニュファクチャラー」というポジションを確立していることがわかります。これは日本の自動車メーカーの中でも際立った数字であると言えます。
※単位:千台
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企業ストーリー
日産自動車は、ビジョン、ミッションに加え、それらを実現する行動指針として”NISSAN WAY”をグローバル全社員で共有しています。
<全体像>
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ビジョン
日産自動車のビジョンは「人々の生活を豊かに」です。シンプルなワンフレーズで、今の豊かな時代に聞くと少し陳腐に感じてしまうかもしれません。しかし、日産自動車の創業当時は、国産の車もなく、外国製の車ばかりが走る中で、西洋列強諸国に追いつき、豊かな日本を目指そうと誰もが必死に努力していた時代。車という移動手段を通じて人々の生活を向上させようという意気込みは、今に至るまで日産のDNAとして受け継がれています。※マウスオーバーで拡大
「日産」という社名は、日本産業の略で、創業者の鮎川義介の「日本の産業を強くしたい」という思いが込められています。また鮎川は、会社は社会の公器であり、私有物ではないという哲学を持っていたため、自らの名前を社名に冠することを嫌ったといいます。これは他の多くの自動車企業が創業者の名前を冠しているのとは対照的です。
ミッション
ビジョンを実現する具体としてのミッションには、「独自性」「革新的」というような言葉が並んでいます。日産はCMなどでも「技術の日産」をアピールしているように、研究開発に重きを置き、新しく高性能なモビリティ作りを目指していると言えるでしょう。また、ミッションの部分でルノーとの提携に言及していることからも、単なる協力関係を超えた、非常に深いアライアンス関係を大事にしていることが読み取れます。※マウスオーバーで拡大
バリュー
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ビジョン、ミッションを実現するバリューの部分には、NISSAN WAYと呼ばれる独自の行動指針を設定し、全世界の従業員の間で共有しています。グローバル企業らしく英語で書かれており、項目の中にも「多様性」「共有」「競争」など、「日系企業」とは少し異なる要素が含まれています。また、全体を通して、組織の中で成果を出していくことが重視されていることも表現されています。トヨタ自動車のように、「誠実」「責任」を全面に押し出した企業バリューとはかなり違いがあることが見て取れます。※マウスオーバーで拡大
総じて、革新的で情熱的で、ベンチャースピリット溢れる企業ストーリーです。
企業ストーリーで使用される言葉を分類整理すると、下図のように表現することができると思います。※マウスオーバーで拡大
中期経営計画
現在の自動車業界の中期経営計画は、自動車業界の「100年に一度の変革期」、”CASE(connected, autonomous, shared, electric)”などの、業界の変動に関する対応方針に重点を置いていることが特徴的です。
日産の現在の中期経営計画は、2017年からの6か年計画で、”Nissan M.O.V.E. to 2022”と呼ばれています。
方針
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MOVEとはモビリティ、オペレーションエクセレンス、お客さまへの価値提供、電動化の頭文字で、それぞれに注力してゆくことを表しています。また、製品についても、”Nissan Intelligent Mobility”というスローガンのもと、電気自動車、自動運転車、MaaS強化を目指しています。その他、ゴーン事件で露呈したコーポレートガバナンス面での問題についての対応策に、多くの紙面を割いています。
戦略
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方針を分解すると、持続的な成長を進めるものと進化をリードするものに分解されます。安定的かつ健全な成長によるキャッシュフローを生み出し、それを技術の日産をさらに発展させるMOVEに投下していく、という安定と革新のバランスの取れた戦略です。
施策
ミッションをさらに具体化し、対象と施策を特定しています。
①持続可能な成長
持続的な成長のため、事業・地域ごとに位置づけを設定しています。安定的な利益基盤のある市場・事業(米国、販売金融等)は着実な成長と収益性の両立を、投資を行い成長を加速させてきた市場・事業(ブラジル、インフィニティ等)は投資成果の刈り取りを、日産の取り込みが十分でない市場・事業(欧州、ピックアップ等)はポテンシャル最大化に向けた取り組みを行うとしています。※マウスオーバーで拡大
②進化をリード
ここで特徴的なのは、自動運転配車サービス事業への早期参画を明言していることです。自動車メーカー業界は、各社電動化と自動化への過渡期であり、向かう方向は同じです。したがって、どこまで深くその方向へ向かうのか、どういう方法で向かうのか、に各社の特徴が出ます。※マウスオーバーで拡大
その意味では、日産は、自動運転により、自動車を保有しないでシェアする未来を見据え、配車事業にまで踏み込んでいます。従来の製造ではなくソフトウェアとオペレーションが主体となる配車事業参画すらも行うという、先進性が出ています。日産自動車は、単なるモビリティカンパニーになろうというよりは、クリエイティブモビリティサービス企業になろうとしていると解釈できます。このあたりは、革新が根幹の企業ストーリーがもとになっていると思います。
<モビリティへの対応状況>
EV自動運転化に向けては、日産は下図のイメージように、世界的に包括的な連携を結んでいます。特にグーグルとの提携が特徴的です。業界研究のイメージ図の通り、トヨタ・ソフトバンク陣営とグーグル・日産陣営、そしてインテルやフォルクスワーゲン陣営と大きく3陣営に勢力図が分かれており、日本の自動車メーカーでは、日産・三菱自動車のみが、トヨタ/ ソフトバンク陣営ではなくグーグル陣営に参画しています。
このあたりは、革新を基盤とする企業ストーリーに基づく経営判断と思われます。※マウスオーバーで拡大
求める人物像の推察
求める人物像
中期経営計画及び自動車業界の現状から、日産自動車に求められている人材は、「変革期を担える人材」といえるでしょう。
これまで主にガソリンエンジン及び車体の生産において他国に比べ低コスト、高品質であるという優位性により発展してきた日本の自動車産業は、現在岐路に立っています。近い未来に、比較的単純な技術で製造できる電気自動車が世界を席巻し、自動運転とカーシェアで販売台数も激減するとすれば、現状を維持するのみではすべての自動車企業は立ち行かなくなります。
こうした業界全体の市場環境の中で、さらに日産は他社と比較し、革新を非常に重要視する企業ストーリーであり、中期経営計画でも、従来の製造ではなくソフトウェアとオペレーションが主体となる配車事業参画すらも行うという、先進性が出ています。日産自動車は、単なるモビリティカンパニーになろうというよりは、クリエイティブモビリティサービス企業になろうとしていると解釈できます。
そのため業界全体として共通ですが、特に日産自動車の場合に必要とされるのが、「変革期を担える人材」です。自動車製造という形にとらわれず、モビリティカンパニーとしてどうあるべきか、何をなすべきか、を考え、創造し、実行に移すことのできる人材です。「型にはまらず、自由に柔軟であること」、柔軟さを「0→1を生み出せることにつながるクリエイティビティ」、「それらを物怖じせずコミュニケーションできる人」といったものが挙げられます。
キーワード
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まとめ
企業理解イメージ図
これまでの概要、歴史、財務分析(ビジネスモデル)、中期経営計画、企業ストーリーを構造化し、イメージ図に落とし込むと下図のようになります。
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業界内での志望理由
企業分解イメージ図を踏まえ、現在・未来・企業ストーリーの3階層を焦点に、業界内で同社を志望すべき理由を考えます。
1.真のグローバルカンパニー
(現在=財務状況から)圧倒的な海外売上高の割合にあること、ルノー傘下であり外資系企業となったこと、グローバルなアライアンスを結んでいることから、外面内面ともにグローバル化している真のグローバル企業。
2.クリエイティブモビリティサービス企業
(未来=中期経営計画から)もともと企業ストーリー上で「車サービス」と表現していたが、さらにEV・自動化・自動運転配車サービス参画と革新的な方向=モビリティサービス企業へと進もうとしている方向性。
3.革新的かつ情熱的な企業風土
(企業ストーリー・未来・現在から)創業以来の革新的で情熱的な風土は、経営破綻危機を乗り越えたことでより成長し今でも力強く根付いている。
宿題:各社のHP、IR資料、中期経営計画を熟読し、理解を深めましょう。
【出典】:2019年12月同社HP、2019年12月まで発表の同社決算短信、中期経営計画、その他同社公表資料