マツダ
日本・世界を代表する自動車メーカーであるマツダについて研究します。
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会社概要
会社概要
1920年創立
資本金約 2860億円
販売車数 国内22万台 / 海外139万台 (2018年度実績)
従業員数 連結約5万名
販売会社 国内218社 海外140社
事業内容(事業部門)
乗用車・トラックの製造など
歴史
1920年に創業したコルク製造業の「東洋工業コルク株式会社」に端を発します。
1931年に三輪トラック(通称マツダ号)の生産を開始し、自動車製品開発に着手します。その後戦中期は軍需工場として兵器製造を余儀なくされますが、戦後は四輪トラックなどから徐々に生産を拡大、特需景気の波に乗り、1957年には生産累計20万台を突破します。
1960年代になると、乗用車輸入自由化による業界再編の中での生き残りを賭け、NSU(現・アウディ)と技術提携を開始し、ロータリーエンジンという革新的なエンジンの量産化に成功します。このロータリーエンジンは、一般的なレシプロエンジンが一旦往復動機構を経由してガソリンのエネルギーを回転動力(タイヤの回転)に変換するのに対し、直接回転動力を生み出すことが出来るため、コンパクト・大出力かつ低振動な内燃機関として注目を集めました。その後の1978年にはロータリーエンジン車の累計生産が100万台を突破します。
しかし、低速走行時の燃費が悪い・メンテナンスが難しい・税制等の問題により、徐々に下火となり、特に北米での業績が悪化。これを受けて、住友銀行が財政再建を主導し、最終的に米フォード社の傘下に入りました。フォードとの提携により、プラットフォーム・部品の相互共有等のシナジーが生まれ、マツダの経営は再び好転します。
その後フォードの業績低迷により傘下を外れてからは、トヨタ自動車とも提携しつつ、「SKYACTIV」という次世代技術への注力を開始しました。これは従来別々に設計されていたエンジン・トランスミッション・プラットフォーム等の車体パーツに関わる技術を、パッケージとして包括的に見直すことで全体の最適化・高性能化を図るというものです。
さらに1980年代後半からは車体のデザイン面にも注力し、現在は「魂動」をコンセプトに、生物が見せる一瞬の動きの強さ、美しさや緊張感を表現したデザインを、すべての車種に取り入れています。
歴史から、各社がハイブリッド自動車を志向する中で、あえてガソリンエンジンでの革新的な技術開発を行った点に、マツダの革新的な技術への強いこだわりが現れています。また、デザインにも強いこだわりを見せており、自動車への思いが強い企業という感じられます。
財務分析
基礎データ
売上はグローバルで3兆円程度で推移しており、日本を代表する巨大企業と言えます。売上高は、日本・ASEANでの出荷台数の増加等により、微増傾向にあります。ただし、利益率に関しては、北米での販売費用の増加や販売ネットワーク改革への投資、さらに円高等の影響もありコストが嵩んだことで、低水準となっています。
※単位:億円
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地域別販売台数
マツダの販売売上の殆どは海外での販売であり、世界を代表するグローバルマニュファクチャラーと言えるでしょう。販売地域としても全世界に均等に注力している事がわかりますが、中でも特に北米市場に強みがあるといえるでしょう。ただし、生産拠点は日本が比較的多く、半分程度を占めているため為替や政情の変化の影響を受け易いと言えます。北米市場へのさらなる注力と安定化のため、2021年に北米の生産拠点を拡大する予定です。
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開発費
マツダでは、2018年度には1000億円以上の研究開発費を支出しています。売上収益に対する研究開発支出は2018年度に3.9%となっており、これはトヨタ自動車(3.5%)、日産自動車(4.5%)、本田技研工業(5.2%)と比較して標準的と言えます。近年では、年間100億円程度のペースで研究開発費を増額しています。
※単位:億円
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企業ストーリー
マツダはその企業理念として、「コーポレートビジョン」を掲げています。マツダという企業がどのように人々・クルマと向き合うかをその方法とともに記述していることが特徴的です。また、マツダというカーブランドの基軸として、『ブランドエッセンス「走る歓び」』を掲げています。
ここでは、「コーポレートビジョン」をビジョン・ミッション、「ブランドエッセンス」をバリューと読み替えて(マツダは基本的に「マツダ」ブランドの車両製造がメインの企業のため)、それぞれについて考察します。
ビジョン
マツダのビジョンは、「私たちはクルマをこよなく愛しています」から始まる、面白いビジョンです。マツダというクルマをこよなく愛し徹底的に向き合う企業が、クルマという軸を通して地球・社会・人々にどのような価値を提供するか、という珍しい構成で企業の目指すところを表現しています。※マウスオーバーで拡大
ミッション
コーポレートビジョンの中に使命に類する表現が3つあります。そこには、「人生の輝きを提供する」「地球や社会と共存する」「独創的な道を極める」と定めています。マツダのクルマ・技術に対する徹底的なこだわりと、そうした革新的なクルマ・技術によって新たなクルマの可能性と企業としての活路を切り開いていこうとする姿勢が見えます。歴史の項目でもまさにそのような歩みとなっていることはすでに確認しました。
バリュー
マツダは上記のコーポレートビジョンに基づき、そのブランドであるマツダのブランドエッセンスを、「走る歓び」と定義しています。クルマという機械の主な価値は、人をA地点からB地点へ運ぶことができることです。昨今のCASEといったクルマの進化も、この価値をさらに高めていると言えます。しかし、クルマの価値はそれだけではありません。クルマは、選ぶ歓び、所有する歓び、そして走る歓びといった価値も提供しています。マツダはこの「走る歓び」を特に重視し、人々がマツダのクルマを走らせて、純粋な歓びを得られる、ということをブランド思想の最も重要な原点に置いています。※マウスオーバーで拡大
企業ストーリーで使用される言葉を分類整理すると、下図のように表現することができると思います。※マウスオーバーで拡大
中期経営計画
マツダでは、2019年に中期経営方針及び中期経営計画を発表しています。ここでは、2030-40年のマツダのあるべき姿を見据え、次の五年間(2020-2025年)にどのような経営方針・施策を進めるかを定めています。
方針
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マツダは、2030-40年のありたい姿を上記のように定義し、その実現のためには「人とともに創る」というキーワード、そしてマツダというブランドの独自性を追求することが必要であるとしています。
戦略
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上記のビジョンを達成するため、マツダは中長期的には上記のような戦略を定めています。全般的には、ブランド・インフラ・人への投資が中心です。
施策
戦略の具現化するための施策も同じ図に記載されています。
まず、マツダはブランドの独自性の追求により、ブランド価値を中長期的に向上させ、自動車製品の単価を上げていくことを目指しています。これは、市場の変化への対応という面が大きいです。CASEに代表されるようなクルマの進化への要請や、自動ブレーキ等の運転支援システムを搭載したクルマが市場のスタンダードになりつつあるためです。
そこで、マツダはブランド価値向上のために、新世代商品、ネットワーク、顧客体験に投資していくとしています。CASEについても順次対応していく計画ですが、他メーカーと比べるとやや遅れていることは否めません。マツダでは、ガソリン車の新世代技術群であるSKYACTIVを軸に、電動パワートレインなどを組み合わせていくことで付加価値をつけていく構えです。
また、個々の車種ではなく、すべてのマツダ車を群として認知させることで、一貫したブランド価値を訴求する方向に転換したことも特徴的です。
例として、旧デミオをMAZDA2、旧アクセラをMAZDA3のように改名しており、これは欧州の高級車メーカーに似た戦略と言えます。同じく、ブランド価値を低下させる支出の抑制も同時に目指しています。プロモーションの評価により販売店への奨励金を減額するとともに、コネクティビティを活用してクルマの状態をモニタリングして故障を抑制するなど、クルマの品質向上にも取り組むとしています。
こうした目標の達成のための施策として、インフラへの投資、仲間づくりへの投資などの5項目を掲げています。
インフラへの投資は、前述の北米での新工場稼働に加え、日米で次世代コネクティッドサービスを開始し、上記のクルマの品質向上や、走行データ等を活用した顧客体験の向上も狙っています。
仲間づくりへの投資とはアライアンス強化という意味で、コネクティッドなど、自社のナレッジの薄い部分をIT系の他社との協業によりカバーすることを目指しています。また、トヨタ・ホンダが参加する自動運転・MaaS領域のコンソーシアムであるMONET Technologiesへの出資も決定しています。
このように、マツダの中長期経営計画は、2030-40年のマツダのありたい姿を目指し、次の5年間に、「マツダの独自性」をどのような方法で打ち出していくかを定めています。現在、業界はCASE革命という100年に一度の変革期に置かれており、クルマというものの提供価値が変化してゆく中で、マツダもそこへの対応を迫られている形です。
しかし、その対応の方法論は、マツダの独自性によるものであり、この独自性とはなにかといえば、コーポレートビジョンで示されている「クルマへの愛」「走る歓び」に他なりません。他メーカーが時代の先を目指しているのに対し、マツダはそれに追従しつつも、どこかレトロな、「人とクルマの関係性にこだわる、独創的自動車メーカー」を目指しているように見えます。
求める人物像の推察
求める人物像
中期経営計画及び自動車業界の現状から、マツダに求められている人材は、「クルマへの圧倒的な愛」を持ち、「時代の変化を捉えつつも、ぶれない軸を持ち」、「人とクルマの関係性」を重視する独創的かつ革新的な人物であるといえるでしょう。
自動車業界の変革期である現在、CASEをはじめとする先進技術への積極的投資を行い、新しいモビリティの市場でリーディングプレーヤーになるというのは、日本の大手自動車メーカーのように、既に世界で圧倒的なプレゼンスを持っている企業の戦略としては正しいオプションでしょう。
しかし、マツダは、単に追従するのではなく、コアである「歓び」を提供するために、既に支持されている独自性を発展させ、「やっぱりマツダ車じゃないと」と言ってくれる固定のファンをどれだけ獲得できるかというところに意識を割いているように見られます。
そういう意味では、上記の特徴に加え、物事の主流に対して少し「斜に構える」と言っては言いすぎかもしれませんが、独創で革新的なポジションを好む人が求められていると言えるかもしれません。
キーワード
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まとめ
企業理解イメージ図
これまでの概要、歴史、財務分析(ビジネスモデル)、中期経営計画、企業ストーリーを構造化し、イメージ図に落とし込むと下図のようになります。
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業界内での志望理由
企業分解イメージ図を踏まえ、現在・未来・企業ストーリーの3階層を焦点に、業界内で同社を志望すべき理由を考えます。
1.挑戦と独創の歴史
(現在=財務状況から)戦後の輸入車解禁に伴う業界再編での生き残りを賭けたロータリーエンジン開発、フォードとの提携、販売チャネル分化、SKYACTIVと、いずれも他のメーカーにない大胆な挑戦です。すべてが成功したとは言えませんが、これほどの大企業にもかかわらず、次々に大胆な挑戦を続ける企業は珍しいです。
2.クルマへの愛と創造の方向性
(未来=中期経営計画から)コーポレートビジョン・そして中期経営計画から分かる通り、クルマの愛を色濃く打ち出した将来計画です。
3.独創的な企業姿勢
(企業ストーリー・未来・現在から)CASEでどれだけクルマが変わっても、人とクルマの関係性は変わらない。クルマで走る歓びを徹底的に追求するという企業姿勢は、非常に独自性があります。
宿題:各社のHP、IR資料、中期経営計画を熟読し、理解を深めましょう。
【出典】:2019年12月同社HP、2019年12月まで発表の同社決算短信、中期経営計画、その他同社公表資料