本田技研工業(ホンダ)
四輪自動車、二輪車、パワープロダクツ、飛行機まで手がける総合輸送機器メーカーである本田技研工業について研究します。
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会社概要
会社概要
1948年創立
資本金 約860億円
販売車数 二輪車2014万台 四輪車527万台 パワープロダクツ630万台 (全世界・2018年度実績)
従業員数 単体約2万3千名 連結約22万名
事業内容(事業部門)
二輪車・自動車・パワープロダクツの製造、販売及び関連事業
歴史
戦後間もない1946年に、創業者の本田宗一郎が当時人々の主な移動手段であった自転車移動を快適なものにしたいとの思いから、旧陸軍の発電用エンジンを元に自転車用補助エンジンを開発したことに端を発します。1948年に本田技研工業株式会社が設立され、農業用機械、自動二輪車などの開発・販売を進めました。1955年には二輪車生産台数日本一を達成。現在も二輪車生産において国内外で圧倒的首位を誇っています。1962年には四輪車製造に着手し、自動車メーカーとしても成功をおさめました。高度経済成長とともに急激に規模を拡大し、1980年には売上高1兆円を達成しています。
その後も発展を続けると共に、スポーツカー、ハイブリッド車、水素燃料車、ジェット機など、多種多様な輸送機器を開発・販売し続けています。
財務分析
基礎データ
売上はグローバルで15兆円前後で推移しており、日本を代表する巨大企業と言えます。
※単位:億円
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部門収益
創業時のメイン事業である二輪車事業はグローバルで2兆円ほどであり、四輪車事業が11兆円ほどと殆どを占めています。
※単位:億円
※マウスオーバーで拡大※2018年度
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地域別販売台数
ホンダは四輪車のみならず、二輪車とパワープロダクツ(卸売用部品・発電機・耕うん機等)も重要な事業ドメインであるため、この各ドメインごとに世界での販売実績を発表しています。
まず、二輪車においては、アジアがほとんどの販売台数を占めていることがわかります。特に東南アジア諸国では、ホンダのバイクはほぼ国内シェアの半分以上を占めるなど、まさに圧倒的なプレゼンスです。
次に、四輪車に関しては、北米とアジアがほぼ同程度です。特に北米では、高級ラインのアキュラから、中位モデルまで、幅広いモデルが支持されています。また、パワープロダクツに関しても、北米市場に重点が置かれています。
※単位:千台
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開発費
本田技研工業では、2018年度には8000億円以上の研究開発費を支出しています。売上収益に対する研究開発支出は2018年度に5.2%となっており、これはトヨタ自動車(3.5%)、日産自動車(4.5%)に比べても際立って高く、技術にこだわりを持つ姿勢が見て取れます。
※単位:億円
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企業ストーリー
本田技研工業はその企業理念として、「Hondaフィロソフィー」を掲げています。この要素として、「人間尊重」「三つの喜び」からなる”基本理念”と”社是”、”運用方針”です。ここでは、”社是”をビジョン、”基本理念”をミッション、”運用方針”をバリューと読み替えて、それぞれについて解説します。
ビジョン
本田技研工業のビジョンは、「世界中の顧客の満足」のために「質の高い商品」を「適正な価格」で供給することという三点が強調されています。企業ビジョンの中でも、適正な価格というところに重点が置かれたものは珍しいです。これは、本田技研工業が、人々の暮らしを豊かにしたいという一心で、自転車用補助エンジンを安価に開発・販売したところから一貫している哲学と言えるでしょう。いかに高機能であっても、人々に手が届き、その生活を向上させるものでなければならないという強い志を読み取ることができます。※マウスオーバーで拡大
この社是での「質の高い商品」へのこだわりは、現在日本の自動車メーカーの中でトップクラスの研究開発費率(売上高に対する研究開発費)を拠出し、先進技術に常に挑戦していることからも伺えます。また、ホンダは社の伝統的な方針として、最高経営責任者は研究に携わったことのある技術者から選ばれています。
ミッション
本田技研工業の基本理念の柱は、「人間尊重」と「三つの喜び」です。※マウスオーバーで拡大
「人間尊重」は自立・平等・信頼の三要素からなっています。
自立とは、「既成概念にとらわれず自由に発想し、自らの信念にもとづき主体性を持って行動し、その結果について責任を持つこと」としています。製品に対する飽くなき革新を、すべての従業員が追求する姿勢が見て取れます。平等とは、「お互いに個人の違いを認めあい尊重することです。また、意欲のある人には個人の属性(国籍、性別、学歴など)にかかわりなく、等しく機会が与えられることでもあります」としています。これはダイバーシティインクルージョンにあたる要素です。
最後に、信頼とは「一人ひとりがお互いを認めあい、足らざるところを補いあい、誠意を尽くして自らの役割を果たすことから生まれます。 Hondaは、ともに働く一人ひとりが常にお互いを信頼しあえる関係でありたいと考えます。」としています。前述の”平等”に加えて、従業員同士が誠実に向かい合い、会社を運営していくという姿勢から、「誠意」「信頼」といったキーワードを読み取ることができます。
「三つの喜び」は、買う喜び・売る喜び・創る喜びの三要素からなっています。この三つは、いずれも目的語に「製品」を取る動詞であり、ホンダがその「製品」というコアを起点に、各ステークホルダーとのつながりを非常に大切にしていることが読み取れます。
バリュー
ビジョン・ミッションから、従業員の日々の仕事に対して、以上のような運営方針を示しています。仕事・研究など、製品に対して誠実に向き合うという要素に加え、「夢と若さ」など、遊び心と情熱を常に付加していくことを求める企業姿勢が伺えます。※マウスオーバーで拡大
企業ストーリーで使用される言葉を分類整理すると、下図のように表現することができると思います。※マウスオーバーで拡大
中期経営計画
トヨタ自動車は、中期経営計画を公には公開していません。ただ、毎年発行されるアニュアルレポートで、トヨタ自動車が目指す方向性を細かく提示しています。2018年のアニュアルレポートから、就活生が注目すべきポイントは三点あります。
方針
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本田技研工業の2030年ビジョンの骨子は、「すべての人に、『生活の可能性が拡がる喜び』を提供する」です。自動車業界は、業界研究で詳説したとおり、100年に一度の変革期にあります。CASEに代表される技術革新で、モビリティの意味合いが変化する中で、ホンダは自社の商品を、単なる輸送機器ではなく、「人々の生活」を変えるものとして定義しなおし、その道具・手法の部分に位置づけていることが特徴的です。
戦略
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上記のビジョンを達成するための戦略として、《喜びの創造》《喜びの拡大》《喜びを次世代へ》の三つを設定しており、その手段として、「量から質」への転換を目指しています。
施策
一つづつ見ていきます。
《喜びの創造》
キーワードは、「『移動』と『暮らし』の価値創造」です。
自由で楽しい移動の喜びの提供と、生活が変わる・豊かになる喜びの提供のために、「モビリティ」「ロボティクス」「エネルギー」の三分野に注力するとしています。
具体的には、二輪・四輪双方に持つ強みを生かして、他社とのパートナーシップを軸にこれらを進めるとしています。
例えば、北米では自動運転タクシーなどの開発を目指すGMクルーズ社に7.5億ドルを出資して資本参加し、自動運転×電動車×ライドシェアの北米市場への注力を目指しています。また、日本においても、ソフトバンクとトヨタ自動車が設立したMONET Technologiesに10%の資本参加を決め、国内に置ける自動運転・MaaS領域に積極的に挑戦する姿勢を明確化しています。さらに、可搬型バッテリー”Honda Mobile Power Pack”事業においては、再生可能エネルギーを蓄電し、小型モビリティの動力として用いることを目指しており、既にフィリピンにおいて電動バイクを用いた実証実験を開始しています。
このように、製品を様々なパートナーシップを活用して、シームレスなユーザ体験に結びつけることで、「移動」と「暮らし」の新たな価値創造を目指しているわけです。
《喜びの拡大》
キーワードは、「多様な社会・個人への対応」です。
既に全世界で圧倒的なプレゼンスを持っているホンダですが、これからは更に多様化するニーズに応えるべく、既存の製品ラインナップを更に拡充していくことを目指しています。
《喜びを次世代へ》
キーワードは、「クリーンで安全・安心な社会へ」です。
このための二本の柱として、「カーボンフリー社会」と「交通事故ゼロ社会」を掲げています。カーボンフリーについては、四輪車事業において、全社で2030年までに販売台数の三分の二を電動車(ハイブリッド車・EV)にすることを目標としています。また二輪車事業においても、前述の電動二輪車をさらに拡充し、カーボンフリー社会の実現を目指すとしています。交通事故ゼロ社会については、現状の新車販売においては”Honda SENSING”という、自動ブレーキや車線補助などの安全装置パッケージの搭載を進めており、日本市場でのホンダの新車への搭載率は8割にのぼります。また中長期的には、レベル3の自動運転を2020年、レベル4を2025年までに実用化することを目指しています。
本田技研工業の中長期経営指針は、「喜び」というワードが起点になっていることが特徴的です。この喜びというキーワードは、ホンダの根幹たる企業理念のコアですが、それを2030年に向けた経営指針でも再定義・再確認しているといえます。「喜ぶ」主体は「すべての人」ですから、これからもホンダのビジネスは「人々の体験・生活」が軸となります。上記の具体的な事業展開についても、「ライドシェア」「自動運転」といった製品+サービスのパッケージが、人々の生活をどのように変える道具となるのかというところに焦点をあてた、「人々の生活を変革する総合輸送機器×サービス」になっていくと考えられます。
求める人物像の推察
求める人物像
中期経営計画及び自動車業界の現状から、本田技研工業に求められている人材は、「高い志と情熱」を持ち、「人々の喜びを追求」する気概のある人物、といえるでしょう。
これまで主にガソリンエンジン及び車体の生産において他国に比べ低コスト、高品質であるという優位性により発展してきた日本の自動車産業は、現在岐路に立っています。各国でガソリン車に対する実際的な環境規制が進む中、環境に優しいとされ、かつ比較的単純な技術で製造できる電気自動車が世界を席巻し、自動運転とカーシェアで販売台数も激減するとすれば、現状を維持するのみではすべての自動車企業は立ち行かなくなります。
こうした業界全体の市場環境の中でも、本田技研工業はその技術力をもとに、変化に柔軟に対応すると共に、それら新市場を席巻し、四輪車・二輪車・パワープロダクツの各ドメインの製品とサービスで、人々の生活を変革することまでを目指しています。
そのため、ホンダでは特に、自動車業界の変革を自ら進めていこうという高い志と情熱、視野を持つ人材が求められていると言えます。
キーワード
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まとめ
企業理解イメージ図
これまでの概要、歴史、財務分析(ビジネスモデル)、中期経営計画、企業ストーリーを構造化し、イメージ図に落とし込むと下図のようになります。
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業界内での志望理由
企業分解イメージ図を踏まえ、現在・未来・企業ストーリーの3階層を焦点に、業界内で同社を志望すべき理由を考えます。
1.総合輸送機メーカー
(現在=財務状況から)四輪車・二輪車・パワープロダクツにまたがり、幅広い輸送機器・関連機械を製造しているメーカーであることから、人々のニーズにきめ細かに対応してきた歴史があり、現在も全世界で多種多様な製品を生み出しています。
2.先進的技術力
(未来=中期経営計画から)本田技研工業は常に先進技術に挑戦し、EV・自動運転などの領域で世界有数の実力を誇ります。最高経営責任者が技術者から選ばれるという不文律からも、実直に技術・品質を追求する姿勢が見て取れます。
3.世界の人々の生活を変革する
(企業ストーリー・未来・現在から)世界の人々の生活を、高い技術力により生み出した製品×サービスで変革し、喜びを創り出すという、高い志と情熱を本気で実現しようとする企業風土。
宿題:各社のHP、IR資料、中期経営計画を熟読し、理解を深めましょう。
【出典】:2019年12月同社HP、2019年12月まで発表の同社決算短信、中期経営計画、その他同社公表資料