業界研究
電機メーカー
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日本を代表する産業である電機メーカー。パナソニック・ソニー・日立製作所・東芝・三菱電機・富士通・NECなど世界に名だたる企業があります。ただ、昨今はシャープが台湾企業の傘下となるなど、日本のお家芸的存在であった電機メーカーに陰りが見られます。これらのニュースなどから、何となく先行きに不安を感じている人がいると思います。そこで今回は電機メーカーを研究します。業界概要
主な企業
電機メーカーとは、一般的には、家電と呼ばれる軽電製品や重電製品(発電機、変圧器、電池などの電力設備)、コンピュータ製品・オフィス機器、医療機器、電子部品(LSIなどの半導体、モーターなど)、産業用電気製品(産業用電動機、産業用ロボットなど)、電動輸送機器(電車、昇降機など)、自動車や船舶用の電子機器、航空宇宙機(民間用航空機、人工衛星、宇宙探査機、ロケットなど)用の電子機器、兵器(軍用機、ミサイルなど)用の電子機器等、これらの電気製品をどれか一つでも手掛けているメーカーのことです。電機とは電気機械の略です。
本記事では、総合電機メーカー、家電メーカー、情報機器メーカーまでを取り上げています。したがって、パナソニック・ソニー・日立製作所・東芝・三菱電機・富士通・NECなどです。
なお、精密機器メーカー(キャノン、リコー、富士フィルム、京セラなど)、重工業メーカー(三菱重工、IHI、川崎重工)など別途取り扱います。
業界の現状と将来予測
従来は、電子部品から発電所、家電まで総合的に手掛け、企画から製造そして販売まで一括して行う垂直統合モデルでした。しかし、電子部品・家電製品など、製品のコモディティ化により、各社は製品の選択と集中を行うとともに、プロセスの切り離しを行い、企画開発といった上流のみを行う水平モデルにシフトチェンジしました。
その意味では、電機製品の製造というよりは、電機製品に関する技術とノウハウに基づくソリューションの提供、そのメインとしての電機製品の製造、という位置づけに変わりつつあります。
現在は、さらにICTテクノロジーの発展に対応すべく、下図の通り、各社がそれぞれの方向性を打ち出しています。※マウスオーバーで拡大
全般的には、ソニーとパナソニック以外は、高度な技術が要求される法人向けビジネスに移行しています。個人向けは、技術レベルが相対的に低いためコモディティ化が進んでおり、技術力を生かせる法人向けに集中するということです。※マウスオーバーで拡大
日立製作所・三菱電機・東芝などの従来からインフラといった重い製品を手掛けてきた総合電機メーカーは、軒並み社会インフラ事業へシフトしていく方向であり、逆に、部品や電化製品などの軽い製品を中心に扱ってきた富士通やNECはシステムにシフトする方向です。
したがって、電機メーカー全体としては、選択と集中により、社会インフラ事業、システム事業へと二分化する方向にある、ということです。そしてその例外として、コンシューマー事業に進むソニー、総合化を崩さないパナソニック、があります。
電機メーカーのビジネスモデル
ビジネスモデル
電機メーカーは、その名の通り、電機製品を製造し販売するメーカーです。定型商品とオーダーメード製品に分かれます。ビジネスモデルを簡単に図解すると下図の通りです。
【定型商品】
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企画を行い、研究開発を実施し、実験・検証を繰り返し商品化します。商品化が完了すれば、部品メーカーから部品を仕入れ、自社で製造する基幹部品と合わせて、OENMで組み立てを行います。製造完了した商品・製品は、国内外の販売代理店へ卸され、販売代理店を通じて、顧客企業や消費者に販売される、という流れです
【オーダーメード製品】
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システムの構築やインフラ設備の建設等オーダーメードの場合は、営業・入札を経て受注後、設計を行い、製造・工事を経て、納入となります。
このビジネスモデルから導き出される電機メーカーの強みは、以下の通りです。
①基幹部品製造の技術力
②定型商品の開発力
③部品メーカー、OEM先とのネットワーク
④販売代理店とのネットワーク
⑤高度な設計能力
⑥プロジェクトマネジメント能力(製造管理、工事監理)
部門
電機メーカーは、取り扱い製品が幅広く、それぞれの対象や特色が大きく異なる為、製品毎に収益管理を行うため、事業部制を導入している企業が多いです。
自動車の場合は、自動車という製品内での車種の違いであるため、事業部制ではなく、機能別の部門(研究開発・営業など)でしたが、電機メーカーの場合は製品後の事業部制です。
一方で、採用は、各自の適性を活かすため職種別で行われます。
そのため、自分が志望しかつ適正があるのは、どの職種か、そしてどの事業部門か、まで検討する必要があります。
職種
ビジネスモデルから、電機メーカー会社の業務は、研究開発・設計開発・生産技術・技術営業(SE)の技術系4職種、購買・営業の営業計2職種、IT・管理(知財・財務・人事)の管理系2職種の大きく8職種です。
なお、営業の内、販売そのものは販売子会社を設立し、代理店の統括に当たらせることが多く、工場での製造や組み立てなどは、工場労働者を起用します。
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業務
それでは、各業務を見てみましょう。
<研究開発>
電機メーカーの根幹部分であり、特に電気自動車化と自動運転化という変化の激しい現在においては、将来の競争力を左右する部門であり、最も優秀な人員が総力を集めて技術開発を行っています。製品や商品の開発というよりも、新しい技術の開発を行います。学術的な知識や経験を基盤に、先進性や創造性が求められます。※マウスオーバーで拡大
<設計開発>
新しい商品や製品の開発を行います。研究開発が例えるなら基礎研究だとすれば、設計開発は応用研究のような位置づけです。中期的な競争力の源泉となるため、こちらも非常に優秀な人員が集まります。現在の商品を進化させる部局です。※マウスオーバーで拡大
<生産技術>
より効率的に生産を行うための技術開発、及び生産管理を行います。生産要素やプロセスを整理し、課題を洗い出す、俯瞰的視野、理解力、考察力が求められます。
<技術営業(SE)>
技術への理解を持った営業です。高度な技術が必要な分非常に高価となるオーダーメード製品のプロジェクトのマネジメントを行う人材です。技術への深い理解もさることながら、プロジェクトが円滑に進行するよう、どこにどんなリスクがあり、いつどのようにリスクをつぶしておくか、といった創造力、包括的な視点と理解力が求められるうえ、顧客と折衝を行い、顧客に納得理解せしめるコミュニケーション力や人間力も求められます。
全職種で、最も広範な能力が求められるため、各社エース級の社員を配置する傾向にあります。
<営業(営業戦略・マーケティング)>
世界中の市場において、担当部門(製品)の市場を分析し、営業戦略を構築し、実行する部門です。同時に、販売代理店の統括・育成・拡大も行います。
オーダーメード製品の場合は、プロジェクトマネージャーである技術営業の右腕として、顧客との商務的な折衝を行います。
営業部門内には、国内市場を中心に、販売代理店を統括する販売子会社がある場合もあります。営業部門の若手などは、販売子会社で販売現場の経験を積むこともあります。
<購買>
世界中の部品メーカーからの購買を担当します。通常の購買に加え、代替先のリサーチ、部品メーカーの技術や競争力向上のための支援・指導も行います。
<管理>
知財、IT、経理、財務・人事等の管理を行う部門です。それぞれの領域のエキスパートが集っています。
電機メーカーの簡単な歴史
電力産業は、電球の発明によりガス灯を置き換えるべく、19世紀に始まりました。これ以降、様々な電機製品が発明されていきます。 蓄音機はその初期の発明であり、続いて電話やラジオ、テレビの送受信機が開発されました。20世紀に入ると、様々な家電製品が発明されました。1990年代にはパソコンが一般に広く普及するようになりました。
21世紀に入って、ICT技術の一般化により、電機製品の多くは電子機器によってデジタル制御されているようになりました。
今後はさらに、インターネットにつながるIoTが見込まれています。したがって、電気製品の発展は、機械化→電化→デジタル化→ネットワーク化・スマート化の流れできています。このため、近年では、家電やコンピュータ製品だけでなく、自動車や重工業も電化、プログラム化されてきているため、電機メーカーやソフトウェアメーカーの範囲が拡大してきています。
電機メーカーの機能
概要とビジネスモデルを踏まえ、電機メーカーの機能は、「様々なニーズに応じた電機製品の提供」です。いかにニーズに合った電機製品を造るか、それを世界中に届けるか、です。
日本の電機メーカーの場合は、価値の根幹は高度な技術にある為、高度な技術が必要な電気製品の提供が機能です。土地や人件費が高いため、価格競争力はなく、必然的に高品質高価格の製品が日本の電機メーカーの主戦場となります。
そのため、中韓のように諸外国の技術レベルが上がってくると、日本の電機メーカーは、製品の集中と選択を行う必要が出てくるわけです。
求められる人物像
電機メーカーのビジネスモデルと機能、将来の変化への予想から、必要な人材が導き出されます。
全体的には、電機メーカーもまた変革期にあり、既存事業の運営であっても、一歩でもよくするためにはどうすればよいか、という思考と意識で業務を行える、先進性・主体性・創造性が求められます。※マウスオーバーで拡大
従来の発展モデルや成功の方程式は崩れ、自ら新しい成功モデルを創り上げていく創造性が求められます。
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まとめ:電機メーカーの本質
電機メーカーの本質は、高性能電機製品を活用した技術ソリューション提供会社です。
従来は電機製品の製造のみを行っていれば良かった電機メーカーですが、今後は製造を含めたソリューションサービスの提供に変化していかざるをえないでしょう。そして、各社がそれぞれの強みを生かした製品・領域に集中していくと思われます。
それを生み出す源泉は、人材による技術開発、規模とネットワークによるオープンイノベーションです。それゆえ様々な企業と提携を行うわけです。